存在をいつも確認する(祈姉妹/前提は氷祈)




……お姉、それ、おかしい。


絶対間違ってる。
憤りもあらわに、受話器の向こうで吐き捨てた声が隅々まで違わず私の期待したものだったから、抗いきれずに力が抜けて。
ずるずるとベッドの上で崩れ落ちた私に気づいたのか、紗季が慌てた気配が、かすかに届く。
それに気づかなかったかのように振舞うわがままを行使して、なんでもないように会話をつなげようとして、失敗した声は自分でもわかるくらい弱々しかった。


……やっぱり、そう思う?

うん。
…所詮経験不足だし、役不足かもだけどさ。
でも、私はお姉の味方だから。


だから、絶対、おかしいって思う。
まだ幼い、だからこそ余計にまっすぐ過ぎるその声が、染み渡って、
少しだけ泣きたくなった。
天地に来てはや半年、とはいえホームシックとは思えないけど、
(ここで涙ぐんでいてもホームシックとは思えないから、なおのこと、)
ただ無性に紗季に会いたかった。
……背伸びした声で、本当の本当に私を心配してくれてる厳しい顔で、きっちり叱って欲しかった。


……うん、ありがと。
また何かあったら、ぜったい連絡するから。


そのくせ本当の本当に面と向かって怒られる決心はつかなくて、電話で縋った、少しだけ愚痴を漏らした。
あなたに決定権をあげないのは、責任を負わせたくないからじゃなくて、あの人との関係に未だ執着しているから。
むしろ、やめろと言われたから、これで安心して好意だけを理由に出来るのだと思う心が、
(捨てる決心などつかない恋心が、紗季に心配されて得た安心でもって、)
自己主張に疼き出す胸を抑えた理由は、とても本人には言えない、見せられない色合いで、欲の形。
卑怯な姉でごめんなさい。


もーほんと、あんまり心配かけさせないでよ。
私じゃどうがんばったって再来年までそっち行けないんだからね?

……はい、わかってます。


だから少しだけ、羽を伸ばしてみたの。
なんて、この子には絶対に、口に出したりなんかできないけれど。
少しだけ、もう少しだけ。
まだ大丈夫。まだ、好きでいられる。
落ちていく闇の中。あっという間に崩れていく、夢も理想も善悪も、錐に揉まれて、巧妙に絡め取られて、傷つきたくて、
無責任になりたくて。
だから責任の所在を思い知らさせて欲しくて。


ふふ、
紗季、大好き、

は?
……えっ、ちょ、お姉!?

またね


本心からの愛の言葉なんて、こんなにも簡単に伝えられるのに。
こんなにも容易く、愛おしめるのに。
ありがとう。でも少しだけ。もう少しだけ。
疼く胸の奥が、暖かいから幸せであってくれれば苦労も後悔もせずにいられるのに。
そうなりきれないのは、どうしてだろう。







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タイトルはふたりへのお題ったーからお借りしました。











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