恋心スペクトル(槙ナン)




左手でぬぐわれる汗、払われるはりついた髪。
額の辺りを撫でていくソレが、思ったよりもぬるんでいて自分の体温に近く、フィジカルじゃねェ方の心地良さを得る。
ズキリと疼く根源を、漏れ出す呻きを目を瞑ってやり過ごす。
イチイチ丁寧に受け止めていたら身が保たない。だからアタシは流そうとする、上条は流されまいと必死になる。
バカみたいなイタチごっこ。ぐるぐる回って、追いかけ合って、息を切らした頃にはお互いの欲までが混ざり合っていて。


……となみさん、


絞り出すような声、包み込むように握られる右手。
フッ、と息がかかったのは左の首筋。落ちてくる体重が、慌てたように跳ねたところで渋々視界を解放する。
……さっきからヒトん中入ったまま、動かねェのは、一体何のイヤガラセだよ。
個人的には軽口に近い悪態を、ついてやりようもねェほど切羽詰った顔が出迎えてくれやがった。
毒気どころかヤる気まで抜けそうなイキオイ、誰に訴えようもねーから余計に腹が立つ。
……あ、ヤベ、マジで醒めて来そう……なんて思いかけたのが伝わったのか唐突に動き出す上条の右手。
はぁっ、と、ついた吐息はほぼ同時。ナニカを詰まらせてるような泣き笑いが、ゆるく掻き回される熱の中でちらついては消えて、わかったからと宥めるアタシの声は声にならずに上条まで届く。たぶん、通じてる。
……つか、この手、なんとかなりませんかね。
とは、正真正銘思っただけのはずが、掠めるつか舐めるよーなキスの後で落ちてくる、懇願。


握っていて。……お願い、


ギュウと握りしめて、離す気なんかねぇクセに。
必死な顔で訴えてくる、胸も下腹部も頭ン中も、ズキリと痺れ、痛み、ヒリつく渇望に溶けて行く。
……アタシ、握力けっこーエグいんだけど?
カゲンできなくなっちまったアト、バキリとイッちまわないか不安だと、告げたところで聞いちゃ、くれねぇ、よなぁ……
諦めと共にためいきをくれてやれば、蝋燭の炎よろしく不安そうに揺れる瞳。
届きそうで届かない、だがホントはとっくに届いてる、欲と熱をたたえながら、キレイなままの感情の発露。
どうしてこれ以上熱くなれるんだ。絡み合って、繋がり合って、バカみたいなイタチごっこで一瞬の充足を、永遠を求める真似事をして、挑発し合って、ゆるし合って。
果てなんか無いから一瞬で埋まる。与えて、貰って、奪って、果てて。
覚悟の嘆息をもう一つ、のつもりが切り裂くような悲鳴に変わった。
片手はホールドされたまま、時折落とされる呼びかけも、キスも、汗か涙かよくわかんねぇ水滴も体液も、約束までが遠いからダイレクトに、染み込んでは反射する。
恥ずかしがってる暇もない急転は、勿論上を目指すものだから逆らう気もなく、抗う余裕も無く。
ただ握り返してやるだけの手。搾り取り逃すまいとくわえ込む貪欲。執着。


っ……ま、


静止を求めたのか、先を望んだのか。こいつの名前を、不意討ちのように呼んで、みたかったのか。
自分でもわからねぇまま、絡めた手に縋る。息と一緒に何かを飲み込んだ上条、食いしばった歯の隙間からこぼれる呻き声はさっきのアタシのソレに似ていて、何故だか無性に嬉しかった。
訊かなくて良い。わかってるから。確認してくんな。気づいてんだろ?
求められてるから求め返す。他にやり方を知らねぇし、これ以上なんて要らねーと。
繋ぎあった指先の感覚さえ失いかけてからも思えてしまう。








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ペダル踏み込んで(綾クロ)




……んに、

…どうした?

…あやな、こっち。


寝具の隙間からのぞく手は、小さくも確とした存在感で、堪えようもないほどの喜びを、たたえていて。
これでもはじめて会ったときよりは幾分大きくなった、それでもまだまだ成長途上の、やわらかなぬくもり。
あの頃よりはずっと頼もしくなった腕が、存在が、私を求めてまっすぐに、私に向けられる。


もっと近くで、あやなを抱きしめたい

…ああ、ちょっと待ってろ

……どーしよう、しあわせ


――かわいかった。

胸の奥から、喉を伝い、口の中・舌の上にまでやってきてる、思いはそこから吐き出せず、伝えられず。
ゴロゴロと、目を細めて、猫みたいな小動物のような、わたしを愛してるわたしの恋人を、見つめ続けているのが恥ずかしいからもう一度引き寄せる。
何度もやろうとして、できなくて、だから今日だけで何度も何度もやった、抱擁。
端から見ればたぶんとても乱暴で、だけれどいつものわたしたちからすればずっとやさしいやり方で、接触。
戸惑いも違和感も、(今までの、積み上がりすぎた照れ隠しも、)全部流して、流れてしまうくらい何度も、何度だって。
こいつに。こいつと。








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まるでハレーション(ナン紗枝)




今日できない、のは百も承知。
正しくはできない、じゃなくて、したくない、も少し違って、「やらない方がいい」、これが近い。
それでもねだる私に、ひとりでやってろ、と危うい軽口。
艶笑譚、になるのかしら(実は柊ちゃんの本棚から見つけたコトバ、)じゃあ、そうする、と軽く返してベッドに腰掛ける。
はあ!?といつもの呆れ声、でもその後で息をのんでくれたから、わざとらしく待ち受けるときの表情で、欲しがらせてあげる。
シカン、が視姦になる共通認識を驚かれても、嬉しいよりも寂しかったりするんだから。
(トッケンカイキュウ、扱いされたみたいで。いつもは理解力の塊みたいな行動とってるくせに)
屍姦、を望まれちゃうと少し困っちゃうけど。
(だってその喜びは1回しかあげられないし、私が確認できないんだもの。)
見ててやるよ、という宣言が掠れようもなく濡れていたから、とりあえずはゆるしてあげたことにして。
視線をもらうまでもなく反応した身体を見せつけるために、まずは、自分の指先を舐めながら足を開いた。







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ビニール傘と酸性雨(順と綾那)




綾那って意外にさ。
マメだよねえ。

何の話だ。

ベッドの話。

貴様の妄想を勝手に現実化させるなと何度言えば分かるんだ……?
クロが余計バカになるだろうが……!

いやいや、誤解、てか現実!
ちゃんと現実の話だから!
綾那のベッドやタンスに机の上って、毎日キッチリ整えられてるなー、って話です!

……それがどうした。

だから意外にマメだなー、って。
ちょっと改めて思っただけでっす。

気色の悪いポーズをとるな。
整ってなかったら、気持ち悪いだろうが。

染谷の影響?

なんでゆかりが……ああ、そうかもな。

あれはマメっていうか、過保護だったよねぇ。

……うるさい。

おかげで息子さんは立派にベッドメイキングができる子に、

ゆかりは母親じゃないし、ヒトの性別を勝手に……はあ。
お前、私に男になって欲しいのか?

ヤダそれコワイ。
綾那への愛と女体への愛との両天秤とか、試練すぎる……!

誰のせいだ。

えー、じゃあ、間を取って染谷のせいってことで。

本人の前で言えたら褒めてやるよ。

褒められなくていいので言いません。
でもあの頃は毎日、整えてもらってたんだよねぇ。

……ゆかりがいるのに、どうして私がやらなきゃならないんだ。

うわぁ……

……ちゃんと今は、

…それ、イイ!

反省して、

染谷、ズルい!

……は?

あたしもそんな風に愛されたい!
信頼されたい!

ヒトが後悔して誤ちだったと認めたそばから、それを肯定するなよ!

夕歩のベッドメイキング毎日すれば、あたしも染谷みたくなれるかな!?

無理だろ。
そもそも現時点で、お前がそうできていない時点で

ついでにラブメイキング! いや、メイクラブ!

言うと思ったよ……

さっそく行ってきます!

あー、まあ、しばかれて来い。
そして帰ってくんな。




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タイトルは御題「青春」より。











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