私に言わせてくれたのは




震えていた。揺れていた。
声も、表情も。お互いの身体ごと、ぐらぐらと、ぶれて、煮立って、つめたい汗が伝って、落ちる。


好きだった、のでは、ないの?

……好きでしたよ


楽しくて、幸せで、満ち足りていて。笑顔を笑顔で返すことが当たり前で、ただ進むことが、信頼に報いることになる関係で。
なにもしらなかったから、すべてがあった中に、あって。

私は、綾那を。あのひとを。確かに。
……愛して、いた。

だから私からは言えなかった。動け、なかった。
先輩が、そんな私さえもゆるしてしまうから。受け入れてしまうから、だから正せない。
愛の不在を口実に、求めてしまうことが。できなくて軋む、心の輪郭。


……いつまで片思いしていれば、いいんですか


私の好きな先輩を、そんな私ごと好きでいてしまった先輩に、違うという勇気を。
他の愛を求める勇気を、ください。








--------------------------------------------------------------------------------------





だって歩幅が違うもの




私の愛情ならいくらでもあげるから。錯覚してくれて、構わないから。


私の指を、舌を、じょうずに使って。無道さんを思い出すなら、いいの。
道具にしてくれていい。彼女がそれで少しでもやすらげるなら、(そんなわけはないとわかっていて、……わかっているから、)いくらでもあげる。
どろどろに甘やかして、蕩かして。喜怒哀楽のかけらさえ奪い取ってしまいたい。
泣き疲れて落ちる眠りには、夢も苦痛もありはしないから。

くったりと沈む弛緩の波間には、求めてはいないやさしさばかりが散らばっている。
ゆかりが嫌う、厭う、彼女の強さが反射されて弱々しく、かすれた薄羽をもぎ落として。そうして抵抗を諦めさせた枷の残骸をあちこちに残しながら、彼女は小さく丸まっている。
こんなときにさえ、この子は。ただ伸びやかにあることを、自分ひとりのエゴを、願いを。
彼女自身にゆるすことが、できないのだ。

幾度も絶望を繰り返し、陳腐な背徳に胸を焙られ。けれどやがてそれすらも当たり前になって、日常の一部になってしまった。
後悔も苦痛も次第に麻痺していく、あの日誓ったはずの覚悟までが曖昧になる。
ゆかりが欲しがるものはなんでもあげるから、私が欲しいものはもうすべてこの内にあるから。
抱え込んで、しまいこんだはずの思いまでが、増長して、こぼれだそうとする。


――ごめんなさい


あげられるものは全部あげる。救えない抱擁も、そうあるしかない信頼も。飯事よりひどい、紛い物の快楽も。
その影で誤魔化した微笑みが、どうか彼女のいっときの微睡みを邪魔しては、いませんように。








--------------------------------------------------------------------------------------

タイトルは御題より。











inserted by FC2 system