飴色を紡ぐような(叶ナギ)
知らなかった、わけじゃないんだ。
ただ、受け取るのが怖かっただけ。
認めてしまうのが、悔しかっただけ。
――だから、あのときから。いやだったわけじゃ、ないんだからな!
「あのとき」から。ずっと後になって告げられた、(いやむしろ叫ばれた)のは、どう見ても告白だったのに。
なーさんは結局最後まで首を縦には振らなかった。
かかえるとか、もちあげる、に近かった接触を何段階か進化させて、だきしめようとした腕から器用に逃げ出して。真っ赤な顔を、隠すために。
「あのとき」みたいに追いかけっこ、も楽しそうだったけど、やめた。
だって今のなーさんは、待ってたら、戻ってきてくれるから。
バツの悪そうな顔をのぞかせて、あいかわらずちいさいからだを、もっと、縮めて。
だから、その顔を笑顔にするために、亀になり損ねたなーさんを、見えない甲羅からひっぱりだすために。
10分で出来るおやつの支度。鼻歌混じりで、思う未来。
きっとまた、今日は「あのとき」になって。「あのとき」の言い訳を、告白を、なーさんは叫んで。
そしてわーは、今日よりおいしいおやつを準備できるようになっているのだ。
だきしめる、の先に何があるのかは、まだ、わからないけれど。
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つよさのほうこう(玲と紗枝)
ひとしきり笑った後で、やり遂げた後で。 (紅愛をダシにして、思いっきり楽しんだ後で。) ふと真顔になるこいつのこういうところが苦手だ。 (嫌い、ではない。悔しいことに。) (……あたしのためだってことは充分すぎるくらいわかっているから。)
天空、 行きたいなら、行って良いのよ
…紗枝。
はなればなれに、なっちゃうでしょう
そんなの、お前だって、
私は良いの。
……あたしだって、平気だし
……結局こうなるのよねぇ、
あ?
だから感情論は嫌いなのよ
よく言うぜ。
お互い様。
んじゃ、まあ、仕方ねーから、
共通の目的のための道を、選びましょうか
顔を見合わせて笑う、この瞬間が好きだ。 はじける、笑顔。屈託の無い紗枝。 ただ笑っていられる紗枝を、独り占めすることをゆるされている、 優しい人たちと優しくない奴らとで出来た世界。あたしたちで作る未来。
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空を翔び 地を駆けろ(玲とひつぎ(と紅愛))
ダン、とついた手が、痛かった。 こいつの悪あがきが、そうとは見えないくらい綺麗で、腹が立つくらい潔くて。 だからあたしの方がよっぽど無様だと思い知らされたようで、怪我になりようもない、打撲ですら無い衝撃が。 あたしだけを傷つけて、クソ重い机は何事もなかったかのようにひつぎとあたしを物理的に隔てたままだった。
紅愛の選択肢潰しといて、よく言うぜ
あら、 嫌なら無理強いするつもりはなかったのよ?
嫌、って、あいつがあそこで言えるわけねーだろ
そうかしら
案外あっさり振られる気もしていたのだけれど。 くっくと笑う顔は、勝者の安堵で、そして恋する少女だった。 嫌になるくらい。ふつうのおんなのこ、だった。 ……あーあ。
相変わらず、気に食わねー
ふふ。 それじゃ貴女は、大地かしらね
さーな
祈さんにはその方が都合が良いでしょうし
そういうの優先で、決めたりしねぇよ。
馬鹿にすんな、と睨みつけたところでそよりと受け流し、また笑いの種にされるだけだと。 わかっているのに反発しかできねえから、地団駄のひとつでも踏んでやりたくなる。
それは嬉しいわね
言ってろ
乗り込んだ理事室はもう馴染み深いって言っていいだろう趣きで、光景で、 これすらもあっさり捨ててしまえる女が執着した相手のことを、ここにこう乗り込む羽目になった奴のことを考えて、またひとつため息が出た。
私は、こんなに楽しみなのに
だからだよ、
士道並みの悪態が喉まで出かかって、引っかかった挙句に情けなく霧散する。 天地の行方もこいつの事情も、知ったこっちゃねえ。無関係だから、無責任に腹立たしい。 そう思っちまう時点で、答えなんてとっくに出てるから。
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#FINALを読んで、勢いだけで。の第二弾。
第一弾はこの辺(槙ゆか)。
追記:後日PIXIVに収録した際行った加筆修正を反映させました。
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