青空を晴らす(槙ナンで順ゆか)
無意識のうちに溜め込んでいたらしい空気を吐き出すためについたため息は、高い空にとけて消えた。 あっという間にふたりきり。気を使われてるわけじゃなく、気を使ってもらえたわけでもない。 ……別に、気を使って欲しかったわけでもない、けれど。でも。
……斗南さん、大地なのね
意外でした?
ううん、そうじゃなくて。 ああいう風に、即断できるのって、すごいわよねぇ
うらやましいわ。 つぶやきが本当に物欲しそうな声になってしまって、勢い赤らんだ頬までをしっかり確認してから。おかしそうに笑うゆかり。
最後にちゃんと選んでくださるなら、構いませんよ
あら、私が決めるの?
そういうつもりでも無いですが……
私は、どちらでも良いので。 肩を竦めてみせる彼女からは遠慮も強がりも感じられない。 ……この子も、そういえば、即断型よね。
離れたくないという理由で大地を選ぶなら、叱りますけど
……せめて怒るって言ってくれないかしら
そんな情けない先輩の言うことなど、聞けません
根拠のある強さ。自信。 その根っこのひとつに自分がいることがこそばゆく、それなのに今自分の断罪に使われているというのがむずがゆく、つまり決まりが悪い。 離れるも何も、私と斗南さんとの部屋は元々寮一つ分くらい離れていたのだけれど。 今更距離が縮まっても、あるいは更に離れても。便の良さは変化するだろうけど、そもそも今までだってそんなに手間でも苦労でも――
――でも、
っ!
(斗南さん、曰く)思考の樹海入り、していたせいでの過剰な反応に、ゆかりは呆れたため息を遠慮なしにひとつ、吐いて。 しあわせそうでなによりです。なんて他人事のような感想を、ご丁寧にくれるその口で。
仲間として戦いたい、あるいは敵として仕合いたいという理由なら、考えますよ?
…なるほど。
せっかくの団体戦ですし
ゆかりはどうなの?
…私は、別に、
そう? だって提案として出てくるってことは、ゆかりが
ちっ…がいませんけど、 そうじゃないんです
じゃあ、どうして。 という疑問は、いつもなら隠してしまっていた、お互いに誤魔化していたものだけど。
どっちでも、楽しそうですから。
ゆかり?
信頼に報いるには、確認が必要だと気づくまでには、こんなにも時間がかかってしまったけど。 そして、で今を紡げるのをしあわせだと思えるし、その貴さも。遠回りした分だけ余計に分かり合えていると思うから。
…それにあの人、どっちに行くかわかりませんし。
あはは。 でも天空じゃない?
どうしてですか?
肩が並ぶ距離。 これ以上はいらないけれど、これ以下では物足りない。 もう、手放せない。
久我さんが無道さんと離れるの、想像つかないから。
…確かに、黒鉄さんは、天空が似合いますね。
でしょう。
でも。たぶんあの人は。 夕歩の気持ちの方を優先すると思います。
静馬さん? どっちを選びそう?
だから、それがわからないんですって。
聞いてくればいいのに。
いいんです。
吹っ切れた表情はやがて微苦笑になって。 ほんのりと浮かぶ含羞がゆかりを赤く染める。
あ、久我さんのこと、考えてたでしょう
…もうっ! 先輩!
そうね、この距離と暖かさが必ず得られるものであるならば。 どんな未来になってもきっと楽しめる。
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#FINALを読んだ勢いで小ネタ。第三弾。
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