有り合わせの牙(ナン槙)





性懲りもなく伸ばされた手をパシン、払い除ける。
拒絶されるとは思っても無かった。悲しい。……どうして?
背を向けてようが目を瞑ってようが手に取るようにわかる心情に、腹立てて空気悪くする覚悟でそれをぶちまけるのまではいつもの流れ。
どうして懲りないのか学習しないのか、そもそも反省する気が全くない気がする上条相手に、それでも譲れないものがあるのだと。
納得はして貰えないにしろ引き下がってもらうまではこっちも引かない。精神論だけでやってけるモンなら世話は無い。
そーやってくだらねぇ水掛け論をピロートークにして、いつもみたいに眠る、ばかみたいな終わり方を迎えて翌朝にダセェ思い出し笑いをお互いにし合う、ハズ。だったのだ。本当に。
何がどうねじ曲がったのか日付の概念を失った夜はいつもよりも引き伸ばされ、今あたしの下には上条がいる。
にこにこと笑って、……何回戦なのかは知ってるけど言いたくねェ、それが始まるのを楽しそうに幸せそうに待ち受けてくれちゃって。いる。


…そーいえば、アンタ

……うん、はじめて


両手で包み込まれたアタシの頬、目を閉じた状態で送られるキス、舌先の戯れ方までがいつもとは違って。快楽よりもまず戸惑いが先立った。
唇が離れきる前に小さく音を立てて笑うのは、せっかちなんじゃなく単に好きらしい、つーのに気づいたのは割と最近。こういうガチでキス、な時だけじゃなく、愛撫だなんだでも大抵まだコッチの肌が接触してる状態から笑いやがる。
嬉しいとか気持ち良いとかより落ち着かないコトのが多いのは、コイツの天然にはオチオチ身を任せてもいられねー、っていうのが身に染みちまってるから。
……そーいや、アタシが上で、単に乗って、……てのも無かった、か?
古風つか、オヤクソクが好きなところは嫌いじゃない。
見た目そのまま、中身通りの丁寧さで、…そのくせ唐突に暴走し、オカシな方向にツッコんでいくのは……キライじゃねーが、こっちは正真正銘、嫌いじゃないどまりだ。
ヤる時にまでスリルや面白さを求める趣味はねェ。
以前そう言い捨てたら、素敵ね、なんて微笑んでくれやがったコイツが、しかし反省したかっつーと勿論。

このままオモイデに浸っていてもため息しか出そうになかったから切り上げ、改めてアタシから口づけようとしたタイミングで、はかったかのように。
顎に乗ったまんまだった指先が唇の下端に乗り、そっととどめられた。


…んだよ、かみ

待ってたのよ?

……ハァ?


ンだそれ。
……良い性格しすぎじゃねーの。アンタ。


……斗南さん?


キョトン、とした声。いつもの天然、さっきと同じ。
疑うべき何もかもを素通しして受け止めちまう上条は、その裏っ返しとしておよそ自重というものを知らない。
……無意味な遠慮は何かにつけ、ひとしきりしくさってくれるクセに。
わかっちゃいるが、これが素なんだと知っているからこそ余計に腹が立つ。
つか、主導権、ワタすつもりがあんのかねーのか、どっちだよ。
何度だって言ってやるが、コッチはヤッてる時にまでバトる趣味はねェ。


……怒った?

……どー見える?


低い声。それにビクリと震えたのは、ビビったのは、多分アタシの方。
ブレた視界の端が赤い。怒ってない、ワケじゃねーけど根源はもっと別のトコにある。
上条が暴き立てた身体が、心までをむき出しにして。
未だに握り締められたままのあちこちが疼く。いつもの笑顔が少しばかり削れ、燃え上がってるようなのに青く見える、まっすぐな視線、瞳の奥。
アタシをとっくに受け入れている、そのくせ餓えた目尻が渇望を訴えている、上条を眼下に見て。
捉えられた、鷲掴まれた。舌打ちになれもしなかった毒づきが逆流し、
……ああ、優しくしてやれねェかもしれねえな。
とっくに濡れて皺になっているシャツを引きちぎる勢いで手にかけながら、ぼんやりとそう考えた。









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斗南誕2013。










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