みっともないほどきみが好き。





さっきはありがと。

……いきなり、なによ

夕歩にも伝えました。
だから、その報告。

……そ、

そんで、

え?

クリスマスが終わったら伝えたいことがあります。
あと少しだけ、待ってて。

……はい?

…ふふっ、


染谷のその声、好きだなぁ。
なんだかすごく、おんなのこ、みたいな笑い方をした順は。
なんだかすごく、やさしい声でそう言って。
暴投ばかりのキャッチボールに、私は、置いてきぼりにされたまま、
さっき、と同じように呆気なく切れた携帯電話を握り締めたまま、
さっきよりもずっと、途方に暮れた。

すきなひとに、すき、と言われると、耳が熱くなる。
耳から、全部、熱くなる。







ぱたりと閉じた携帯電話に、じんわりと染谷の熱が残ってる気がして思わず唇を寄せようとして、慌てて遠ざける。
そんなわけない。このぬくもりは、機械の発した温度かあるいは自分の手汗か、熱かった頬から伝播したものであるのが精々って、頭では流石にわかっている。
ほ、っと。吐息を落としてしまったのは、ひそかにとんでもない覚悟を持って提案をひとつ、やりきった、あとだから。
あんたといると幸せなのに緊張する。あんたがいないまま、あんたと話すのは。
それよりもっと幸せな気すらするのに(なんせレアだ。しかもいつもよりちょっとだけ染谷の雰囲気もやわらかい、あったかい気がする)、思うよりずっと、緊張の糸がぴんと張ってしまっていると。
気づくのはいつも通話が終わってからだから。
そう何回もあるわけじゃないけれど、その度ごとに自分の恋心を思い知らされては情けなさにかっこ悪いため息をこぼすのは、まあ、常のこと。

今日の嘆息は、いつもより少し重かった。
だけれど、いつもよりずっと、おっきな一歩を、踏み出せた。

そうなればいいな、と寒空を見上げる。
こういう、底抜けに晴れた日には。空を見上げてる自分の刃友が好きだと、ほんのり含羞んだ染谷のことばかりが思い浮かぶ。
あたしと夕歩のどちらともが勝った日に夕歩が浮かべる、得意げな笑顔が好き、とか。
前しか見ていなかった頃の綾那は、危なっかしかったけれど、嫌いではなかったのよ、とか。
実はオレンジ色も好き。音楽は嫌いというよりは苦手。そういう好悪の感情は、あたしの前ではあっさり口にしてくれるのに、(密かに納豆とグリンピースが嫌いだよね、染谷サン、)
ことあたしの段になってみれば、軽口レベルの否定しかくれないのが、彼女という人で。
その理由を考えるのは、考えて考えて、ありったけの自虐とほんの少しの期待をまぜこぜにしてしまうのは、もう、少しだけ、疲れてしまった。

いつの間にか随分と大事に握りしめていた携帯電話、染谷は今どうしてるのかな、あの子ってば結局いつになってもストラップのたぐいをつけないんだから、落っことしたとき困るでしょ?なんて口実と一緒に、一体何回プレゼントしてやろうかと思ったことか。
(正直に告白してしまえば、買うだけ買って渡せなかったヤツがいくつか、あたしの机の中に眠ってる。)
それくらいには、あんたのことが好きなんです。
結局一度も(軽口としてさえも)口に出したことは無いのだから、まあ、高い空を見上げるたびに槙さんにほんのちょっぴり妬いてしまうような資格など、あたしには所詮有りはしないのだった。







順は。
絶対に私のことを、好きだといわない。

きらわれているのだと思っていた。
どうやらそうではないらしいと知ってからは、ああ、苦手にされているのだな、と解釈してきた。
それなら上手く避けてくれれば良いのに、(事実昔はそれなりに、綾那や夕歩を挟んでいたのに、)
いつからか私がひとりのときにも絡んでくるようになっていた。
あいさつ、なら、わかる。友達の友達だった頃からしてきたし、そういう気遣いが一番できるのは、あの4人の中でなら間違いなく順だった。
気遣いだと、わかる形で、軽く。かけてくれるのがこの人の優しさなのだと、そう気づいた頃にはもう、違った形になってしまっていた邂逅。
それをいつ思い返しても、いくつ思い浮かべても、
あいさつを欠かさないやさしさも、そのときの明るさも、くだらないはなしをしているときのうれしそうな表情も。
(はなしの中身なんてろくに覚えてもいないけれど、あなたの表情だけは、いやなくらいに脳裏に残る、のがわかってしまうから余計に嫌な顔をしてしまうのだ。)

全部全部嘘はないのに、いつも、少しだけ。
必ず一本惹かれた線、綾那の前ではおびえたようにちぢこまり、夕歩相手にはゆるくとける、みえないリボンは。
私には、他のひとたちより、少しだけ、余分に。
引かれているような、気がしていた。

どうして、こんなことを。
よりによってこんなときに、思い出し直して、しまったのだろう。







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続く予定。
タイトルはふたりへのお題ったーよりお借りしました。










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