バニラアイスのあまさで






……せんぱいが、いいです

見ててあげるわよ?

じっ、…ぶんの指じゃ、いや…、です。
……お、ねがいですから、

じゃあ、貸してあげる

……え?

何本欲しい?

や……


ああ、外だけでいっても、いいけど。
でもそれじゃあすぐに終わりが来ちゃいそうだから

…やっ、……だ、

……いや?

だって!

やっぱり、自分でやる?

ち、が……
や、……めっ……







ゆかりの太腿間際で絡んでいた指先、左の人差し指を包み込むように挟んで、それから添え木に似せて脇に添える。


「なにが、かしら?」


ようやく事態を把握した、ゆかりの拒絶に遭ってしまったから。まとめて差し入れることは叶わなかった。
必死で指を動かして抵抗しているから手もふらふらと揺れている、それを利用して蕾の辺りに押しつける。
ひっ、と悲鳴があがって、呆気なく脱力した手が握りこまれるのではなく伸ばされているのは私には好都合。
ぐっと勢いをつけて1本ずつ。仰け反って、反射的にぬこうとするから耳元で魔法の言葉を囁いておく。


「…っ……ぁ……」


いやいやと首を振って、唇を噛んで、それでも自分の指を取り出すのを諦めたゆかりが、肩を震わせて快楽を散らしながら、どうしたらいいかわからないという目でこちらを見る。
半開きの口、ちろちろと覗く赤い舌、垂れる唾液がてらてらと光っていた。


「なかだけで、いける?」


ゆかりの手の甲を押さえながら、そっと、自分のものだけを引き抜いた。
ふるりと震えただけだから、目線は抜いた指から離れようとはしなかったから、そっと、ゆかりの唇に近づけて。

「……え?」


グロスを塗るように口につけてあげると、途端、眉がひそめられた。
嫌そうというよりは苦しそうな表情。


「ごめんなさい、意地悪だったわね」


反省なんてこれっぽっちも、していないくせに。
その部分をぺろりと舐め取ってから、至近距離のまま、見せつけるように人差し指をしゃぶる。


「か、こ、形で、」

「ん?」

「片付けないで、…ください、よ!」


あら、まだそんな元気があるの?
強気な瞳から、ついに溢れてこぼれ落ちた、涙を垂らした目元の色っぽさにくらりと来る。


「そうね、えらいわ」

「はあっ!?」

「まだ、抜いてないもの」

「……だって!」

「うん、がんばって」


あとでいっぱい、ご褒美あげるから。
左耳に吹き込まれるのが弱いと知っている。ついでに噛み付いた耳朶、相当きつく噛んだのに漏れたのは、ただ、熱いだけの吐息。


「……い、らな…」

「あら、いらないの?」

「いっぱ、い…とか、……ムリ、です。」


壊れちゃいますから。
そんな目で、声で、そんな内容を。
訴えられて、通ると思っているの?
賢い頭が働かないくらい、溺れていると思えば喜べるし。わかっていて煽ってくれるなら、とても嬉しい。
答え合わせはしないまま。落とすキスは肩の付け根、胸の上。


「それはたのしみね」

「やっ、…だぁ……」

「ごほうびの前にギブアップするなら、おしおきよ?」

「なっ…んで!」

「私はどちらでもいいけれど」


どちらでも、結局、変わらないのだし。
破綻した論理を、悲鳴混じりの嗚咽だけで罰しようとした彼女は。
勿論正すことに失敗して、いつの間にかしどけなく開かれた足、ゆらめく腰に気づく余裕もなく、私を甘くにらむ。


「指、増やすのは構わないから」

「……っ!」


最後の通告とばかりに突き放す声をつくると、ゆかりは今まででいちばん、大きく震えた。
虹彩の影に深く滲む欲望、見つめて覗き込んで引きずり出したのは私だから、大丈夫。
最後まで、ちゃんと見ていてあげる。







「ん、……んっ……」


ぎゅっと目を瞑ると途端過敏になる他の五感に、悪態をつきたくなる。
あつい。くるしい。くるしそうなのはわかっているだろうに、いつもなら大袈裟に心配してくるくせに、こんなときばかりは。
何を言おうが示そうが。意にそまない反応は笑って流すばかりの、意地の悪さは今日も最大限に発揮されるのだと既に悟った身体が。心よりも先に前に進み出す。


「は、……っ、…っ、……っあ、」


ばかみたい。
この忌まわしい指をひと思いに抜いて、先輩を怒鳴りつけて。この怒りをひとしきりぶつけて、泣いて、嫌だった理由も全部叩きつけて、そうして、先輩の手と唇と、声と目と、身体も心も全部まるごと、先輩が、先輩によって、


「ぁぅ……せ、んぱい、」


少しでもはやく、そうしたいって。心も身体も、思ってるのに。
きゅうきゅうと蠢く襞、自分の指の隙間から溢れ出る液体、感じたくない知りたくない、気づきたくない、
こんなに固く目を閉じているのに、先輩の視線から逃れられない。


「ゆかり。
 膝、立てて。」

「……っ!」


いやですと口にしたかった唇は噛み締められたまま。
必要以上に声をこらえると淡いためいきと共に長くひんやりとした指先でそれを破られるのは常のことだから、きっともうすぐそうやって怒られる、触れてもらえる。
抵抗のひとつも見せられないままで見せつけるように開いた脚、それなのにその間に籠る熱が逃げてくれない。


「目も口も、閉じちゃだめよ。」


だいたい、苦しいでしょう。
やさしい囁き声、待ち望んだ指先、一瞬だけ航路を描いて離れてしまった、先輩の愛撫。
いともたやすく従って、開けてしまった視界の行き場を決めきれず、けれど前を向くことも下を見ることもできずに結局そっぽを向く。
結果捩った上半身に、冷たい微風が吹く。


「や……ぁ、………み、ないで、…く、ださ……」

「いやよ。」

「い、じわるっ……」

「ゆかりがかわいいからよ」


指先、止まっているけれど。
笑う先輩は近いのに届かなくて、いつものように優しく笑っているだけなのにぞくりと震えた身体の芯は、いつもなら先輩が高めて、そして鎮めてくれるのに。


「ん、……っ、…く……」

「そう。良い子。」


そろり、指を動かす様が、我ながら随分と怯えていて、格好悪くて。
それなのに確かに快楽の端を掴んでしまったことに歯噛みする、けれど唇は。
塞げない代わりに熱い吐息がこぼれるばかりのそこには少し前に、自分のもの、を撫で付けられたのがまだ少し残っている、気持ち悪いけれど、気持ち悪いからふるりと震えたその振動が、伝わってしまって甘い声が漏れた。




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タイトルはふたりへのお題ったーよりお借りしました。










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