「空から落ちてきたんだ」(順ゆか)




うみをみつけた。
そういって真上を指差したら、あの子は珍しくきょとんとした顔をした。
それから呆れて、「先輩みたいなこと言わないでよ、」は、まあ、予想通りだったわけだけど。
少しだけ遅れてついてきた微苦笑は、その優しさは、あたしに向けられたものだって自惚れてる。
あたしにとっての永遠も憧れも(抱擁も)、たかいよりはふかい、ふかいあおのなかにある。









--------------------------------------------------------------------------------------





落日に、ならんだふたり(順ゆか)




夕方は嫌いだ。特に夕焼けは、タチが悪い。
落ちた視力を思い知らされ、幾度となく不甲斐なさに歯噛みしてしまうから。
あの人の髪が、なびかずともきらめいて、ゆるく。
そのまままるごと、溶けていきそうな錯覚に、陥ってしまうから。
そんなわけないじゃん、と、つないだ手にことさら力をこめて、帰り道で待ち伏せなんてしなくていいといつも言っているのにいつもの曲がり角で、また、左目のせいにすらできやしない衝動を、かかえもってしまうから。







--------------------------------------------------------------------------------------





てのひらに飴玉(綾紗枝)




すきです、と言うと、いつも笑われるのだ。
やさしく、とか、うれしそうに、とか、そんな、あたたかいものじゃなない。
掌の上で、手玉に取られて、手を取られて、お手とお手上げしか。させてくれない。
魔女か悪魔か、女王様か。私にとってはなんでもいい、だって光瞳の奥底に、確かに満足が滲んでいるから。
優しいし、嬉しそうで、熱すぎる愛情が。窒息してもまだ、(ほら、)降って、落ちて、







--------------------------------------------------------------------------------------





きらいって言ってくれれば、(玲夕歩)




何も言わないから、腹が立つのだ。
無言のまま押し倒されるわけでも、無心で貪られるわけでもない。
(そんなみっともないこと、許しやしないけど。)
かといってそういうコトに興味がないわけでもない。
(らしい。)
聞き込みなんてみっともないコト、絶対にしてやるものかと、思っていた。
思っていたのに。
隣にいることの言い訳すらないから、今日も何も言えないままで愛が積もる。








--------------------------------------------------------------------------------------





言ったでしょ、太陽みたいって(ナン紗枝)




晴天に、気持ち良く。
布団が干されているところをみると、何故だか、泣きたくなってしまう。
ヘンなセーヘキだな、と呆れた恋人に、なんとかうまく伝えたくて、けれど伝え切れる気はしなくって、結局その胸に顔をうずめた、そのまま少し泣いてしまった。
開け放たれた窓、そよぐ風、ひだまりを吸い込んだ寝具。
柊ちゃんのTシャツからも、少しだけ、ひなたのにおいがした。








--------------------------------------------------------------------------------------





手を伸ばすこともためらって(槙ゆか)




……では、また明日。

…うん。


(きっとうまくわらえた、)ほほえみひとつを残して、朽葉色の地面を踏みしめる。
がさり、がさりと、くだけていくそれに勝手に重ねた感傷は、
身勝手でしかないから重く濡れて、今日も私の足取りを鈍らせる。
役目を全うすることも死ぬこともできなかった感情は、濡羽色より深く、ふてぶてしく私をいろどった。
あの子の未来を見たいから空を見上げ、過去に囚われたあの子を見たくないから足下を見つめ、あの子を、ゆかりを見たくて見たくないから、(知りたいくせに、気づかれたくないから、)今日もまた反芻する最後の笑顔が、ただのさよならの挨拶が、私に都合の良い情景に作り替えられて行く。








--------------------------------------------------------------------------------------





どんなに想ったところで伝わらない、届かない(槙ゆか)




この服の縦糸と横糸が緯度と経度に近しいものとは思えないように。
あの子たちが向け合っている恋愛の情と私たちのこれが同じとは、
私には、どうしても思えないのだ。
どうしても。どうしようもなく。しようのない恋。
ぼそりぶつりと思考の糸を、もつれからませながら描き上げた秋口の習作は、やけに赤々しくなってしまった。

すごい、情熱的ね

…先輩には負けますよ

おかしな褒め方をする想い人に、伝わらない告白を投げることばかりがうまくなり、
あの子たちのようにきれいに編み上げられなどしない逢瀬がまた、私だけに見える真っ赤な糸がほつれていく。







--------------------------------------------------------------------------------------





この涙が虹にかわればいい(ナン紗枝)




雨とガラスが身体を冷やす。
このままでは風邪を引くと、感情も手足も警鐘を鳴らしているのに、捨て鉢な理性が我が身を可愛がる本能をあざ笑って縫いとめる。
失恋すらさせてくれなかった彼女のあの瞳、蔑んだ目元を忘れたくてたまらないから消えやしない、
胸よりは少し下、他人を受け入れなど出来やしない内蔵がきりきりと痛み、火照る、生ぬるい悔悟、燃え盛る欲望。

――欲しかった。

それが、どんな形でも良い、とは言えないけれど、
(言えないから、今の状況が、冷え切った空虚があるのだけれど、)
誰もいない旧校舎、誰も迎えには来ない夕暮れ、誰も知らない(筈だった)恋心が暴れ回り、
欲しいとただひとこと、言えば変わっていたのかもしれない結末を見せつけては涙のように、滝のように雨が流れ、身勝手な熱を押し流していく。







--------------------------------------------------------------------------------------

第一陣(~言ったでしょ、太陽みたいって)まではだいたい140字縛り、のつもりでした。
タイトルはふたりへのお題ったーよりお借りしました。











inserted by FC2 system