ブルーノート (玲紅愛)






水色の、ごくありふれたキャンパスノート。
表紙に何も書かれてないのに、妙にくたびれているから気になった。
ただそれだけの動機。


…なに、これ?

…あ?
お、いっ!

何よ、そんなに慌てて。

貸せっ! 

借りた覚えは無いわよ。


最近は私の前ではあまり見せることのなかった剣幕にちょっとびっくりする。
あせるよりはなつかしくなってしまったのだから、全く。我ながらいい趣味をしている。
改める気はないけれど。


返せ!!

日記?

ちげー

ポエム帳。

んなわけあるか!

ふーん。残念。

……どーゆー意味でだよ……


げんなりした表情も、皆にいじられてるときなんかのものそっくりで。
これが紗枝相手だとだいぶ色合いが変わる。妬くより前にご愁傷様、と心から思ってしまうあたり、あの友人は相変わらず絶好調だ。
まあ、いいんじゃないの。どこからみてもダサいこいつを、何だかんだで信じきってるところは理解不能だけど。
目の前の玲は、まったくもって。情けないし、みっともないし、かっこわるい。
こいつをかっこいいと思う奴らの気は、正直知れない。


……まあ、いいか。
ほらよ、


……さっきまであんなに嫌がってたのに。
いともたやすくぽんと投げ渡された、件のノート。
私が取れるか取れないかのぎりぎりの力で投げてくるところが最悪で、腹立たしい。この馬鹿力。脳筋。根性悪。


……みるんじゃなかったわ

おい、


開ければそこには、よくもまあここまでといいたくなる、汗まみれのドM記録。
字、綺麗なのに勿体無い。思わずそうぼやかんばかりの残念なメモは、筋トレに素振り、走り込みなんかのメニューばかりで。
あんたの字、結構好きなのに。
なんて、絶対に、言ってはあげないけど。


よくやるわねー

るせー


ふてくされた顔はちゃんとかわいいのも私だけの特権なのも、(紗枝の時は微妙に雰囲気が違う。たぶん私と彼女しか知らないだろうけど。)
それをあっけなく見ることができてしまったのも実は想定外で、思わず手元の汗臭いメニューを丸めて奴の頭を殴っていた。


おっま、…えなあ

はい、返却。

せめて丸めんな、あとになんだろーが。

乙女っぽくてキモいわ、それ。

はぁ!?


全く。
まっすぐで残念なのもそれなのに可愛いのも大概にしておきなさいよ。馬鹿玲。




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