かわいた半月(槙←柊←紗枝。不毛)





「好きじゃねェ奴に抱かれるシュミはねェよ」


戯れを装って差し出してみた右の手は、いともたやすく跳ね除けられた。
拒絶は想定の範囲内、でも、彼女の本音が聞けてしまったのは、とても、とても、予想外で。

パチパチとまたたいた眼、そのあとに広がる視界はけれど何度も見た夢のように変幻してしまったりはせず。
目の前の斗南さんも、ただよう事後特有の気怠さも、今日で入るのが5回目になる彼女の部屋も。
何もかもが現実なのだと、夜の冷気までが私を笑っていた。

中々いい音を立ててはじかれた手の甲があつい、平常を装う頬の裏でたぎる血流が純真な好意を、綺麗でありたいと思っていた恋心を、乱暴な熱情に変えんとばかりにめぐっている。


「上条さんは、そうじゃないのに?」

「…だから、何だ」


知らないはずはないと、思っていたのに返された刃に、傷つくのは私の身勝手だ。傲慢だ。
あと一歩、はやかったところで何も変わりはしなかったと、知っている。
うつぶせに近い形で寝転がる彼女は扇情的に、全裸に近い身体を惜しげもなくさらしていて、何を恥じるでもなく、私の方を見つめている。
そこにいるのは私でもよかったのだと、きっと、私も彼女も知っている。
不毛な片思いの輪をぐるり、撚(よ)って捻ってしまう起点が、上条さんと斗南さんである必要は、全くなかった。


「…バカよね」

「なんとでも」


ここに立つのがあの子でも、あの子を好きな玲でも。
見つめられるのが私でも。無言の非難に晒されるのが、斗南さんでも。
何も変わらなかったのだから、きっと、やっぱり私はあと一息遅かったのだ。

好きじゃない人に抱かれる趣味なんて私にも無いわ。
だからあの子の熱視線も、意外に手荒いらしい上条さんの痕跡も、どうでもいいの。
私にとっての目に毒なのは、ただ。

そう呟くことも縋ることも、目を離すこともできない私に、手を出してはくれないのならせめて。
この愚かさをさっきのように、ばっさりと。罵って、切り捨てて欲しかった。
ああ、本当。
……バカなんだから。





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