0.01%を一万回(ナン槙)






テキトーな洋画、テキトーな酒。
目の前に鎮座してんのは素晴らしき惰性の賜物だが、さっきまで食ってた夕メシはテキトーとはとても言えない。
凝ったものじゃないのよ、と、笑いながら、きっちりアタシ好みのヤツを並べてくる上条に。
ンなもんカエッて肩凝るから要らねーよ、つったら拗ねられたのは、アレ、何でだっけか。
……あー、確かタノシイ家族旅行のご計画中だったからか? そうだ、確か北の方で一泊のヤツだった。
旅行の目的が飯メインになんのはともかく、ンで端からこいつまでセットで計画されてんだよ。
愚痴ったら本気で怒られて、温泉じゃないからいいじゃない! とかワケわかんねー主張で返されて、シシュンキ真っ只中だったあいつは沈没、アタシも大概アレだった。
アレはアレだよ。ンだよ、文句あんのか。
テレビの前、サイキョーにテキトーくれてたアタシに寄っかかって、眠そうな上条はそンでもリモコンに手を伸ばそうとはしないから。
代わりにしてやっか、とローテーブルに目を向ければ、すぐさま首を振られる。そのままぽすんと、今度は意図的だろう重みがかかる。
こーゆーやりとりが、無性に擽ったくてテメエを誤魔化すつもりですり寄せる唇、首元に鼻先ごとこすりつけてやった辺りじゃイヤがるどころか微かに笑ってすらいたクセに。


や、だ…め、

なンで?


あいつなら、いないッスけど?
上条の呼吸が、大きく、だけど浅く、キモチイイながらに苦しそーになった頃に、小せえのにきっぱりと、かかる静止の声。
それを振り切ってツッこむ程わかくはねェ、つか、余裕が無いわけでもねーから止まってやる、
だけどワザとらしく目を眇めて、揃えた指先でかきあげた耳元に、吹き込んでやる疑問のコトバ。
目論見通りふるりと震えて、こちらを甘く睨む上条は、完全に怒りきっているワケでは無いらしい。
(まあ、そりゃそーだろ、つか、そーゆー気配がしてたらこんな真似、しねェけどよ。)


そういう問題じゃないわ。


もちろん、無道さんがいたら、ダメ、だけれど。
耳元で囁き返されはしなかったモノの、文字通りのウェットがけっこー効いてた返答は、潤みかけているこいつの瞳と相まって非常に心臓に悪い。無論、心臓以外のトコにも悪い。
アタシは一体何千回アンタに陥落スりゃイイんスか?
言ってなんかやんねーが、コトバにせずとも伝わっちまうモンもある。
残念ながら。非常に遺憾ながら。
ふにゃりと笑った上条の、横目で見ただけだってのにアホかってくらい幸せそうなツラでそれはそうと知れて、知れてしまって晒した渋面も、もう何十回目だか何百回目だか、数えるなんて不毛なこった、とっくに放棄して久しい。
なあ、そうだろ? と、同意を求める気になれないのは、こいつに限ってはまさかを否定しきれないのが正直怖いからだ。
つまるところ、どっちに転んでもダメージ受けンのはアタシなんだから、不用意に藪を突っつくよーな真似はしてたまるか、つー話。


――そうじゃないのよ。

……んじゃ、どーして。


押し当ててた唇の代わり、漏らしてた吐息の代わりにいつの間にかゆるく絡んでる指。
意外と握力が強いこととか、指の先で遊び出すのはこいつのが先だってのとか、そっからなし崩しに始まるときはなぜだか大概いつもより積極的だ、とか、
妙なクセになんのかお約束、なのか、そんなんをゆるんだ頭で考えてたトコで(つまり、それほど本気でこいつとのセックスに拘泥してた訳でも無い時に)トートツに塞がれた唇はアタシに取って完全に不意討ちで、その隙に捩じ込まれた舌はビックリするレベルで熱かった。
いや、飲んでんの、ダイタイはアタシだったハズなンだが。
首を傾げるイトマすら与えちゃくれねえ、言葉通りに貪られたキスに反撃しなかったのは、繋がり合ってる方じゃない手が、アタシの首に回されて、後頭部をがっちり掴んでいたのがメイン。
逃げられなかったんじゃねえ、逃げないでという意思を持たれた時点で、実際に固めラレてんかドーカは大した問題にはならない。
残念ながら。なかなかに、遺憾ながら。


…ココでいーの?

いやよ。


短い応えはしたたり落ちるんじゃないかってくらい水分を含んでンくせに、甘くまとわりつくというよりはズシンと鳩尾辺りにキて、どこの詐欺カクテルだ、混ぜモンだ、と、毒づいてみたところで純度百パーの視線が不思議そうに振り向くだけと知っている。
だから何も返さねェまま、両手ともをあっさり離してリモコンを攫った上条を目線だけで追った。
4.5年前にアタシのボーナスで買ってきたソファは、奮発したせいかきしりとも音を立てやしない。人ひとり分の重量が減ったってのに。随分勢いよく、離れてクレたくせに。


あの子が帰って来たら、困るでしょう?

…ンなワケあるか。

わからないわよ


いっそ帰ってきて欲しい、というような声音、そのくせあちらこちらに染み込みっぱなしの欲情、じっとり濡れた熱とからから回る日常に、ひとり置いてきぼりにされた気がして。
アタシの飲みさしを取り上げた細い手は、ついさっきまではアタシの髪に埋まっていた、そんでもう少し先にはまた同じようなところに収まンだろう、あるいはシーツを、波立たせるだろう。
そんな想像だけで脳が灼けついて、嗚呼もー今日はこんだけでもいーや、という気分にすらなったアタシに、わずかばかり、困ったような顔をしてみせた上条は。
さっきとは逆に触れるだけだってのに何よりもあからさまなキスを寄越し、そのままソファにアタシを縫いとめるンで無しに、遊ぶように絡めてきた右手を軽く引いた。


……ハンバーグ、うまかった

今それをいうの?


ありがとう、と一緒に破顔した上条の顔は見ない。アタシを引っ張っていくこいつにアタシの顔も見られちゃいないんだからお互い様だ、とか、ワケわかんねェ言い訳が脳裏をめぐる。
この年になってまで恋人繋ぎがハズいとか言えるか。畜生。






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野良順設定、お借りしました。
遅れましたが、誕生日、おめでとうございました!
これからも宵藍さんが作られるだろう素敵な世界を、一ファンとして、楽しみにしています。












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