(そう言ったらきみはきっと、怒るかな)(夕ゆか)





っう! 
……やっ、


この間ちょっと弄ってみたら、びっくりするくらいいい反応を返してくれたくらいには、背中が弱そう、だったから。
タイミングを見計らって、ひっくり返して、うっすらと汗と産毛が光ってる肌を、ぺろり、舐めあげたら。
思った通りの声、吐息、意地っ張りなゆかりらしくどっちも噛み殺すみたいなのだったけど、確かに、漏らして、くれたのに。


どうして?

…対面がいいの。


だって、夕歩の顔を、見ていたいでしょう?


…どうせ見てないくせに。

……みてるわよ。


夕歩が、私を、見ていないときに。


…それじゃ意味無いよ。

……そう?


私は、夕歩が私のこと、愛してくれてる姿を見るのが好きよ?


……それ、ずるい。

そう?


だって、わたしだって、ゆかりのこと見るの、好きなんだもの。
気持ちよさそうなゆかりも、苦しそうなゆかりも、涙目なのに泣き出さない、最後に跳ねてから、ぐたっとして、私に手を伸ばす前にきれいに一回、笑うゆかりも。
みんな好き。だからもっと欲しい。
ぶちまけてしまえば困った顔、だけれど嬉しそうな顔、この表情は実はあんまり珍しくはないけれど、これだってやっぱり、大好きな宝物で、ゆかりの、一部だから。


……仕方ないなあ

ありがと。


愛を囁くことば、は、ふたり同時。
言い訳半分はお互い様、不満半分と安堵半分は、どっちがどっちかなんか、勿論、言うまでもないけれど。
こっちを向き直したゆかりが、そのまま仕掛けて来たキスがいつもよりずっと遠慮がなかったから、二回目の好きのことばは、ゆかりの、愛してる、よりも、先に言ってあげる。
動かしてないし増やしてもない指、きゅうっと締め付けちゃって。かわいいなあ。もう。





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それは仕方ないこと(綾那とゆかり)





……豆まき、やったことなかった。

…そう。


太巻き丸かじりなどという、虎皮ビキニに輪をかけて変態じみているエロゲ業界垂涎の行事がまだ一般に流布する前のこと。
嬉しそうに炒り豆の徳用袋を抱えてきた夕歩と、既に鬼の面を半分装備済だった順、
(追いかけるより追いかけられたい!と指を立てたあいつに、三者で交わしたアイコンタクトの結果、鉄槌はゆかりの手によってくだされた。)
たまたま(でもないけど)ゆかりの部屋にいたわたしたちに突風のように訪れた友人たちは、やはり突風らしくあっという間に帰って行ったときの、こと。


たのしかった?

…うん。
でも、


そこで口ごもった私に、困った顔を一瞬だけしてみせたゆかりは。
いま思えば、もっとずっと困っていた、もっといえば怒っていた、わたしにではなく、そんなわたしを生んだ状況に、憤ってさえいたのだろうな。


いい、あやな。
取り返しがつかないことなんて、実際のところは、ほとんどないのよ。


答え合わせなど出来やしないし、願望混じりなことは自覚しているから、今更どこに持って行き様もない。
だから傲慢にも、不遜にも、あの頃の彼女に感謝することができる。


今からだってやり直せば、はじめればいいじゃない。
反省も、後悔も、未来のためにあるの。


そう言って笑った、腰に手を当てて、私の方を向いて、とても恰好よかったゆかりは、きっと。
きっと今も、同じ信念をもって、前を向いているのだろう。
彼女の反省は、後悔は、正しく彼女の未来のために、あるのだろう。
取り返しがつかないことなんて、確かに、「ほとんど」、ありは、しないのだろう。


あやな、どしたん?


恵方巻きじゃないんだから、無言で食べなくたって、いいと思うよ?
とまあ、そういうようなことを、口いっぱいに豆を頬張りながらのたまってくれたせいで大変聞き苦しく見苦しい、それなのに何故わかるのかはあまり考えたくないクロを前にして。
どう見ても自分の年の数倍は食べてるだろう豆について尋ねるのもバカバカしい、赤鬼順ちゃん復活!とか言ってどこかで見覚えのある紙製のお面をかぶったバカのことはもっとどうでもいい、
そんな日常の一部に、あるいはしょうもないエロ業界の話のタネに、この行事がたった数年で埋没してしまったということは。
きっとあの頃ゆかりが言っていただろう正しい未来の形なのに。
たった数年で、食べるべき豆の数が片手で数えられるくらいしか増えてないのに、こんなにも変わってしまったわたしを、わたしたちを、
誰も笑ってはくれないから、腰に手を当てて、指を差してあげつらってはくれないから、
役には立たない反省が、後悔が、からり、ぱらり、音を立てる。








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タイトルはふたりへのお題ったーよりお借りしました。












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