夏の日の夢





……あの子ったら、死にそうな顔で、私を抱いたのよ

……ンだよ、急に


んー?
あなたがあまりに必死だったから、
ちょっと、思い出しちゃっただけ。

そのまま伝えれば呆れた顔。
とても馴染み深い、あまりに近くで、見すぎてしまった表情。


…へぇ
で、どうだった?


もうお互い、続ける気分でなど無い筈なのに。
意地の証が動いていく。心も身体も、それに動かされなんかしない。
醒めた瞳。その中に映る自分の薄情さが、甘い熱を湛(たた)えようとして無様を晒している。


死にそうなくらいの気分になる恋って、なんなのかしらね

とことんヒトゴトだな、てめぇ


だって、他人事(たにんごと)だった、んだもの。
私の意思を離れて、適当に、怠惰に熱くなるくせに、
私の意識を離れては、どうしても、くれなかったセックスは、逢瀬にもなれないまま、睦言のひとつも紡げずに、


あなたに捨てられたら、死んであげるわ

あっそ。
頼まれても御免だね


泣きそうな顔、を通り越して、でも泣きも死にもしなかったあの子。
私じゃない名前を呼ぼうとして、でも私の名前を呼ぶことすらできずに、
祈さん、と絞り出した、彼女は顔も手管も、まあそれなりには、ステータスと呼んでいいレベルの出来前で、
けれど私をちっとも楽しませてはくれなかった。
それを知って抱いたあの子も、抱かれた私も、罪深さの度合いは同じくらいだと知った上で、
今の私と同じくらい、今、彼女が幸せであってくれればいいと思って、
死にそうなレベルで泣きたくなる私に、やさしく口づけてくれる斗南さんが、やさしいばかりだからようやく、
傲慢で身勝手な私の涙腺は、私にみっともなく涙を流すことを認めてくれた。









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