頭を下げるくらいなら
(秀瞑)





鈍い衝撃ばかりが鮮明で、センメイと呼ぶのも正しいかどうかなどわからない衝撃は、もういい加減、慣れたといえる回数、この手に残っている。
慣れてしまった。この手の厭な感触も、瞑子が咳き込む姿も、あたしのよりずっと綺麗で殺風景でつまらない、この部屋の光景にも。


…せっかく、勝ったのに

……そうね。


おめでとう、という声はちっとも温かみがこもってない。
いつもの低音。低温、ひっくいテンションとトーン。
瞑子のエンジン、なんてもんがあるのかどうか知らないけど、いつまで経っても、……今日も、鐘がいくつ鳴っても、それはわかんないままで、最後にあたしが決めたときすら、いつものように、瞑子は、ふっつーに構えてるだけで。
だから全然、楽しくなんてなかった。


……つまんないの


労(ねぎら)いのひとつ、謝罪のひとつ、くれやしなかった。
だから。
全然、嬉しくなんてなかった!


……だから?

っ!!


もう一発殴ってやりたい、いっそその余裕を食べてしまいたい、
床に押し付けて、噛みついて、……貪って、無様に、瞑子、を、
……けれどそうしたらきっと負ける。次の星獲りで、瞑子とは関係なしに。
負けるのは癪だし、瞑子が関係ないのも、すっごく、イヤだ。


……ばっかみたい


さっき瞑子の肉を抉った、お腹に一発入れた拳は厭なかたちに、握り締められたまま。
10日くらい前にした、最後のキスは、瞑子の唇から、たらりとひと筋、血が流れた、あのときのまま。
ごめんの一言、小さな笑顔、……そんなもの、欲しくなんか無いけれど、皮肉抜きでは、一度も、もらえたことなんてないけれど、
さっきの一発、もっかいやったら、多分瞑子の明日に響く、そしてあたしの次回が黒く、染まる、
それを醒めた眼で見る瞑子の表情は、たった一度きりしか遭ってないのに、いまでも鮮明に、すっごく、センメイに、夢にさえ出てくらいしっかり、染み込まされて、しまってるのに。


そうね。


ごめんなさいね?
そんな謝罪も、肋骨を叩くあの感覚も、瞑子の歪んだ顔も、……こうやって、あたしを、みていない、あたしに向かっていない、うわべばかりの、関係など、
本当は、ひとつとして、差し出された端から投げ捨てたくてたまらないくらい、要らないのに。

でも、投げ捨てたって、代わりのものなんて、もらえないことくらい、
……上っ面としてすらこちらからは差し出すことのできないあたしは、もちろん、とっくに思い知っているのだ。




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