織姫は、彦星と。
……しあわせに暮らしました?
…暮らせるわけないじゃん、一年に一回だよ。
…知ってるわよ。
でも、それってさあ、
――おいしいよね。
ぽつり、真顔で呟いたこの人の。
真意が読み取れないのなんて、本当に、いつも通りのことに過ぎなかった。
来年も、あなたと
あ、あった。
…っ、……ちょ、
そめやぁ、はやくっ、
……じゅ、…あのね!
無邪気に笑いながら指差す先には、青々とした笹の葉、それから、色とりどりの。
乙女チックな風物詩で、この小さな商店街にはむしろとても似つかわしいことまでは認めるけれど、
……そんなに全力で疾走して、うっかりつないでいた手を思いっきり引っ張られ続けなければいけない代物では、ないと思う。さすがに。
ほら、書いて書いて、
…あなたから書きなさいよ。
えー、こんなところに吊るしちゃっていいの?
全年齢向けのお願いくらいあるでしょう。あなたにも
……う。
あ、る、で、しょう?
……そりゃあ、もう。
こんなところに本当のお願いなど、書くひとではないと知っている。
だからといって私をからかうためだけに立ち寄ったのなら、もちろん、制裁のひとつやふたつ、はばかることなくこの場でくれてあげるけれど。
んー、と、顎に手を当てた順は、それでもそれなりに真剣に折り紙半切で出来た短冊に、向き合っていたから、毒気が削がれて、
代わりのように途端、途方にくれてしまう、どうしようもない私。
あ、染谷はピンクね
…なんでそうなるのよ
え、似合うから
きょとんとした顔で、言われるとますます焦って、困って。…しまう。
私が内心で慌てている間に書き終えたらしい順は、(それはもう、嫌味なくらいわかりやすく、私には見えないように願い事を書いてくれた、この人は、)
からかい半分期待半分、それからほんの少しの、慈愛とでも呼べばいいのかしれない目つきで、
私が、
順が差し出した桃色の短冊に他愛ない願い事を書き記すのを、ただ、待っている。
…名前、なんて書いた?
えー、そりゃあ、いとしのはにー、…っ、
冗談、
……内緒。
…ちょっと、本当に恥ずかしいこと書いてるんじゃないでしょうね
……全年齢向けだからだいじょーぶだって!!
後ろめたいことがないならおとなしく見せなさいよ!
やだ!
せっかく一年にいっぺんなんだから! 飾るまで内緒!
小さな商店街で、色紙とポスカが長机の上に置かれているだけの、よく言えば地元密着型、正直に言ってしまえば寂れた片田舎の、
(順がいきたい!って駄々をこねなければ、一生、知らないままで終わったかもしれない、こじんまりした商店街の、)
入り口であり出口、に、私のものとは少しだけ離れて飾ることになってしまった、不器用で、だからこそまっすぐすぎる彼女の願い事は、
……確かに見た瞬間、思わず顔が赤くなるのを自覚してしまうくらいには恥ずかしかった。
……ばか
…いーじゃん、一年に一回なんだし!
あなたにかかれば毎日が何かしらの記念日になってしまうのだから。
こんなことにいちいち動揺しているわけにはいかないのに。
……私の書いた願い事が、ちっぽけで身勝手なものに思えてしまうくらい、やさしくて、それでいながらとんでもなく自分よがりなこの人の、願い事は、
……思い出すだけでいまだに頬が熱くなってしまうのだから、きっとずっと、他の人には内緒のままだ。
……来年の。願い事、なんて。
こんな次節じゃ、きっと鬼だって笑ってくれないだろうに。
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七夕合わせ、2014。
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