まっすぐ(ナン紗枝)
たくたくと縁石の上を歩く。
あなたはわたしを馬鹿にしたような風を装って、歩道を歩いている。
オジョー、楽しそーだな
そりゃあもう。
正直に言ってしまえば、人生で、生まれてはじめてのイケナイコトの最中だもの。
それをさせてくれたのが私の好きなひとで、今からそのひと、斗南さんのお家に向かう途中なんだから、楽しげにならない方がおかしい。
しかしそんなにいーモンかねェ
ハンと笑う彼女の瞳はすごくやさしい色。
それに気を取られたところで右横を結構なスピードでトラックが通り過ぎて行った。
こんなところで交通事故(しかもこっちにも瑕疵がある)なんて、わたしが、わたしに、許すはずがないでしょう?
どっちが?
どっちも。
ふふん。鼻歌のように告げてあげれば、意趣返しのように右肩に担いだ私の鞄を揺らされる。
乱暴にすると、斗南さん宅へのお土産がシェイクされちゃうわよー。目線とわずかに傾げた首だけで通じたそれに、ばぁか、と、口元だけでの返答。
たのしいし、たのしみだわ。
そーかい。
今まで、やろうとも思わなかったから。
うらやましくさえ、なかったの。
ねえ、馬鹿みたいでしょう?
あなたの瞳を見つめながら言えない時点で、そのことばの重たさなんて、ちゃあんと、わかってる。
字面はさっきと変わらない、あなたの相槌の、響く音域だって変わったんだから、しっかり、伝わってしまっている。
それが嬉しいから、同じだけ悔しいの。
いーかげん、こっち来いよ。
はいはい。
キザったらしく手を差し出されれば、わたしはそれに繋がりたくてたまらなくなるんだから、ホント、重症だわ。
これが玲だったら遠慮なく爆笑してあげるのに。
(……まあ彼女がこーゆうことをする相手は、わたしじゃないんだけど、ね。
それだって、嬉しくて、同じだけ悔しい。……っていうのは、ちょっとだけ、嘘。)
大きめの手提げ、あなたに持たせたままなのは確信犯。手を繋いでから、あなたが気づいて渋い顔をする。
ありがと、
……いー性格、
きゅっと握ったあなたの手が、わたしのより冷たかったのが悪いわ。
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