静馬さんが順とゆかりを飼ってる話。不健全ですが全年齢。









ただいまっていう権利






……こんなに好きなのになぁ。

かたり、扉を閉めるとゆかりはびくってした。
ちょっと前の順によく似てて、かわいいなっていうのと同時に胸にちくりととげが刺さって。
せっかくだから後者の勢いに乗じて、にっこり、笑いかけてみる。
自分がいちばんよくわかってる、けっこううまくできた作り笑い。
信じられないものを見るような目をしてるゆかりはまだまだ元気そうで、それからきゅっと唇をかんだ。
いっしょに拳を握りしめてたから、この子が次にいうことばなんて、もちろん予想できる。


ゆうほ、

だめだよ。


もういちど、にっこり。
あんまり嘘っぽいのを作るのは好きじゃないし、本当は得意でもない。
そういうのは順の方がずっと得意だった。……好きではなかった、だろうけど。
順はいまごろどうしてるかな。寝ちゃってるかな。


…まだ何も言ってないわ

出てくのはかまわないけど、


それはだめ。
女性しか住んでない借家に鍵をかけるのは当たり前で、でも特別な作りにしてるわけじゃないからゆかりはいますぐにだってわたしの後ろにあるそれを開けて、逃げることができる。
順だっておんなじだった。はだかにして、舐めたりさわったりするときに縛っちゃうことはあったけど、でもそれは、そうした方が順の反応がずっとよくなるから、してたことで。
ああいう拘束だって、その気になれば順は簡単に解けてしまったんだから。
そういえばゆかりにはまだ目隠ししかしてないな。やっぱりいつもよりかわいく乱れてくれるのかな。きょう、おねがいって、とびきりあまく、たのんでみようかなあ。


…お茶、飲みたい。

……順に頼んだら。

ゆかりのも好きだよ。


でも順が入れた方が好きなんじゃない。
ゆかりの目は口よりもずっと素直に物を語る。
むかしからきれいだなっておもってたそれは、まっすぐだからとうめいでまぶしい。


順は? 寝てるの?

……さあ。


嘘をつくときに、すうっとくもるところが、いっとう好きだった。
だれにも言ったことはないけれど、ほんとうは、あの頃から、ずっと。
その瞬間がみたくて吐いたひどいことばに、逐一反応してくれた彼女はそのときから今にいたるまでずっと、わたしのともだち。
順がわたしの姉であることと同じだけ強く。今日も。わたしを友人として嗜めようとして、そうして少しずつ失敗していく、ほんの少しずつ、作り変えられていく。
ほら、はやく逃げ出さないと、おんなじになっちゃうよ。
こんどこそわざとじゃなくわらいかけたのに、ゆかりは、さっきまでよりずっと大きく震えて、きれいなひとみの面積をすっごく大きくして後ずさった。
そっちじゃないよ。って、言ってあげたのは、先週の半ば頃だったっけ?


…あったかい方がいい?

うん。


腰、抜けてるんじゃないかと思ったけど、さすがにそこまでじゃなかったみたい。
小さなキッチンに消えたゆかりが茶筒を取り出すのがちらりと見えたから、ソファにぽすりと腰をかける。
さっきまでゆかりが座っていたとこ。わたしの来訪で慌てて立ち上がったのは及第点で、でも減点事項。
ほんの少しだけぬくもっている気がするのは、やっぱり錯覚かなあ。
でもしあわせな勘違いなら、それでいっか。
ゆかりの、たぶんそう思ってはくれないところは順に似てなくて、ああでも、この子とあの子を比べるようなまね、わたしはいつからはじめたんだっけ?
かんがえたくなかったから、かんがえないことにした。
もうすぐゆかりのお茶が来る。緑茶だろうから、猫舌のわたしにあわせるようなことはできないだろうから。
ちゃんと最後まで飲めるかなあって、それまでにゆかりにむらっと来ちゃわないかなぁって、ふわりふわり、鼻歌のように幸福な心配をした。



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