鍵穴と鍵穴






「理由もナニも、心当たりがねえんだけど」

「じゃあ、それを証明して」


……何でかよくわかんねぇが、上条との仲を邪推されてる。

こいつが正面切って嫉妬すんの自体が予想外だったからおかしな反応しちまったせいで、それなりだったゴキゲンはあっという間に急降下されて、つまり満面の笑みで尋問が来た。
負い目があるのか何なのか、紗枝がその手の圧迫をアタシに向けることは無かったから想定外の上塗りで、呆気に取られてる間にこっちの立場はどんどん悪くなっていく。

……まあ、どう見たって妬心も束縛欲もたっぷり持ってるだろうこいつが、今まで何の態度も示さなかったっつーことに安住してたのはアタシの甘えだ。
しかし何で上条よ。これでシドが相手なら、……アタシも鼻で笑って終わりかもな……。


「アイツさ、相方のことスキだろ」

「それはまあ……」


だから諦めたとでも言うつもり? と目の前の表情が物語っていて、それが多分の呆れと非難、それから少しばかりの不安で出来てたことに後ろめたい安堵を得る。
べっつに、神に誓って無実で事実無根だけど。寧ろ天を恨んでやりたいくらいには面倒な誤解、だがなんせこいつがそういう感情を素で出してくれてるっつうのがさ。嬉しいし裏切りたくねぇじゃんか。
わざとやってんならそれはそれで大したもんだから称賛して、そんで素直に騙されてやるよ。
それくらいにはアタシはこいつのことが好きだ。


「いつまでも臆病風吹かしてやがったから背中を蹴り飛ばしてやった、っつー話。」


頼まれたワケじゃねぇし、わざわざご丁寧に手を貸すのもアレだろ。
だからほっといたら、まぁしつっこくうじうじうじうじ、鬱陶しいったらありゃしねえ。
いい加減面倒になったから首突っ込んで、このザマだ。
しかもうっかり漏れ知っちまったあいつらの事情が、こう言っちゃなんだが予想外にヘビーで大分消耗した。
癒されたくて終わったその足でアンタんとこ乗り込んでったっけな……嬉しそうに迎えてくれちゃった素顔は結構な破壊力だった。確かあん時のアタシの心境は結局バレなかったハズだが……あー、だからいけなかったのか……?


「…それ、本心?」

「たりめーだろ」


そこ疑われたら流石に話になんねぇんだけど。
イラッとしたアタシに気づいたのか、慌てた顔は実はレアだ。
しかしラッキー、と思える余裕は今は無い。くそ、意地でも後で思い返せるような笑い話にしてやる。
結構前から邪推してた雰囲気なのが、ちょっと引っかかりはするが。いつのアタシを見ていつから嫉妬してたんだよ。


「……別に、上条さんたちのこと、疑ってるわけじゃないのよ」

「…おい、」


どういう意味だそれ。
つまりアンタの疑念の対象はアタシだけってことかよ。え、マジで信用されてねぇの?


「貴女のことも、信じてるけど」


顔に出ちまったのか、微苦笑混じりで直ぐ継がれる否定。
……この手の緊張感持って誰かと対面だとか、久々過ぎて肝が冷える。
こいつ相手に限るなら初めてだし。もうガキの頃みてぇなバカはやってねえしな。
つまり恥ずかしいくらいアンタに夢中なんですが、と言ってやるのは癪だ。
カッコ悪ぃが何の捻りもなく、ハズい。


「上条さんたち、いろいろあったから」

「…へえ」


……うわ、なんだこれ。
しみじみ言うこいつ、上条や相方のことをすっげぇ心配してやってんのが目元だの口元だのからにじみ出てんのに、どこをどう見てもガチ友情だっつーのに、なんつの、これ、
……スゲェ、腹立つ。


「……斗南さん?」

「…あ?」


そんでなんでこのタイミングで、サン付けなワケ。アンタ。


「……柊ちゃん」

「んだよ」

「…すごい顔してるけど」

「へぇ、マジで?
 堪え性が無くて、すみませんねぇ。」


半分はヤケ。そもそもはそっちの悋気、意味の無い尋問にくだらねえ釈明も、それで紗枝が満足すんならいくらでもしてやるつもりだったが、もうどうでもいいわ。
…今度上条に会ったら一発イヤミだな。今までさんざ迷惑かけられてきたし、近頃じゃ幸せそうすぎて逆にイラつくレベルだし、まぁいいだろ。


「…どうしよう、
 ……すごくうれしい」

「……おい」

「ごめんね、」


しゅう、ということばが、口のかたちだけで作られて、口内に直接吹き込まれた。
つかこの体勢やべぇ、完全に押し倒されてるし流れ的にも本気入ってる。紗枝の手はソッコーで後頭部とシャツのボタンだ。はえぇよ。片手なくせにサスガの丁寧さだし、器用すぎんだろ。
……別にヤる立場に拘ってるワケじゃねぇけど、こーいう勢い、良く無いんじゃねーの?
あとで後悔されて、それを誤魔化すための痛々しい笑いを向けられんの、スキじゃねぇんすケド。


「……紗枝」

「…やだ」


手を伸ばしたら逃げられた。そんで目が合ったその奥、ごく微量だけど、焦りが見えた。
……身を捩るのは見せたくないからだよな、それ。


「やだ、じゃねぇだろ」

「そんなに、されたくない?」

「違う。」


アンタが傷つく姿を、見たく無いだけだ。
……言えるわきゃねえし、言っても理解されずにまた弁解という名の説明をさせられる気がする。
こんだけ不毛な会話を積み重ねた上に今からまたひとつ徒労の山を築き上げるとか、うんざりだろ。


「あー、…その、……なんだ、
 アンタが妬いた意味がわかった」

「…え?」


きょとん、を通り越して呆けた顔。
じわじわ赤くなる表情、もまあ最近は割と見てるけど、いつもの紅さをあっさり超えてもまだ熟れてくんだが、…おい、ちょっと待てよ。
目元が赤らんだところで俯くかと思いきや半端無い勢いでクローズアップした。つまりひっつかれた。


「…それ、妬いてくれたってこと?」


すわキスかと身構えたが件の赤面は首元に押し付けられる。
ああ、まあ、この方が顔隠すなら確実だよな……うーわやっぱり、すげえ、熱い。


「…悪ィかよ」


ぼそりと告げるついでに、髪を撫でてやる。きついポニーテールが邪魔だったからゴムを外して、そのまま梳き通す。
否定が返ってくるとは思ってないのによぎる一抹の不安も、つまり、そういうことだ。
首を振ったのは気配で分かる。髪がアタシの鎖骨あたりを過ぎって、それからすん、と鼻が鳴らされて。


「……おい、」


さえ、とこっちが呟いたのが先か、嗚咽混じりでこいつが泣き出したのが先か。
結局どの要素が涙腺決壊の決定打になったのかはわかんねえが、アタシが原因ってことに間違いは無さそうで。ざまあねえな、と手前の不甲斐なさに盛大に溜め息を吐きたくなる。
今やったらこいつが勘違いしそうだから我慢。泣き止むまでは貝になって、ついでに胸も腕も何もかも貸してやる。貸さなくたってアンタのモンだけど。
アンタの涙と頭が落ち着いたら、もう一度目を合わせて謝って、そしたらふたりで笑い話にする最後の仕上げをしよう。
……別にアタシがされる側でも、構わねェよ。











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でもきっと優しくしてあげる側の斗南さん。
タイトルはreplaさま(閉鎖済)の御題からお借りしました。










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