前提の話をしてるんだ、






さも今思いつきました、と言った体で。つきあわねえ? と言った。
(そんなわけが無いのはお互いに承知してる。)
こいつとは思えないくらい素直な声で。うん、と言われた。
(即答の形を取らなかったのも、だから、様式美ってヤツだ。)
その後に思わず続けちまったのが、他のヤツらとは手を切れよ、で。
(宣告は実際に付き合ってから、と決めていた。ソッコーで言うハメになったのはアタシが弱ぇからだ。)
しばらくの、怖すぎる沈黙の後で。うん、と返される。
(さっきとおんなじ二文字を、さっきとは段違いに小さな声で。こっちが不安になるくらいに弱々しく。)


視点を固定してたつむじが震えてたから慌てて顔を上げさせれば、凄い勢いで顔を覆われた。……おい、マジで一瞬も見えなかったぞ。
アンタのハイスペックは嫌っつうほど知ってるが、こんなところでまで発揮してんじゃねえよ。
……そりゃ、いきなり晒させちまったのは悪かったけどよ。
単純な腕力ならアタシの方が上だろうが、果たして強引に引き剥がしていいものか。迷ってるうちに、小さく震えてた幅がだんだん大きくなっていく。
……うわ、つまり、泣いて、んか……?


「……悪ィ」


ホントは何が悪かったのかすら分かってねえけど。
それ込みでの謝罪。アンタが泣き止むなら、アンタに許されるなら何でもする、くらいの心境。
告白してオーケーもらって3分で破局とか洒落にならねェ。
でも今のコレ、このままにしといたらアタシらぜってぇ駄目になるだろ。


「違う、違うの。」


結局祈の手はどかせないまま、かと言って抱き寄せるみてェなことも出来ないまま。
焦るばかりのアタシに、重なるのは確かに告白の続きだった。


「……嬉しくて」

「は?」


ぽつりと落とされるこいつのソレは。
祈の出方をただ待ち受けるしかできねえ情けねえ身に、遠慮のカケラも無くダイレクトに突き刺さった。


「……はじめて、だったから」


……嘘だろ、それ。

告白する側……はどうか知らねえが。今みたくされてんのは初めてどころじゃねえだろうが。
(なんせこいつがDランク落ちする前の昼飯時、ちょっと告白の呼び出しがあるから断ってくるわ、と笑顔で言い放たれたことがある。下駄箱にラブレターな現場にも遭遇した。意外っちゃ何だが、この手の癖のある奴に惚れる奴も正面から挑む奴も結構いるらしい。ミーハー御用達な神門人気の裏で、モノ好きは多い。
 ……まぁ他人のことは言えねえけどよ。)

だけど祈の声は、か細くも怖過ぎる程に真剣で。これが嘘なら祈の本音はどうやって表現するんだ、っつうくらいで。
これを、本音だと、仮定すんなら。


「……アンタ、今までどんな、」


ひでえ恋愛してきたんだよ、っつーのは流石に飲み込んだ。それで隠しおおせるとは思えなかったし、案の定通じちまったのは間違いない。
苦笑いと称すには痛々し過ぎる表情が、背負った影の深さにゾッとする。


「今まで、言われなかった訳じゃないのよ」


他の人と付き合うな、とか。

ああそっちか、と納得しかけて。まあそりゃそうだろうよ、というのも喉元まで競り上がったが押し込める。やっぱりバレバレだろうけど。

いつの間にか祈と目が合っていて、つまり手はどかされアタシは覗き込まれてて。
その上目遣いは卑怯だろ、とか端正な顔は歪んでも綺麗なんだな、とかくだらねえことしか思い浮かばねえのは脳内で処理速度が現実に盛大に追いてきぼり食らってるせいだ。


「……ただ、
 そう言われて、嬉しかったのが」


――はじめてだったから。

これが映画か何かのワンシーンで、アタシがお気楽な観客のひとりに過ぎなかったら。
この時の自分に盛大にツッコんでやりたい。ここ、果たして感動するところかね?
ケチや批評はその枠外に居るから出来るんだと痛感した。ああ感動したさ、うっかり感極まっちまったともさ。


「……いのり、」

「ごめんなさい。
 ――すき、」


そんな形でしか言葉を紡げないアンタのどうしようも無い過去に唾吐いて罵って、アタシと出会うのが遅かったのを詰ってやりたいくらいには腹が立って。
同時に、アンタを本気にさせたのはどうやらアタシだけらしいという事実に。暗い喜びが生まれちまったのも止めらんなくて。
一度抱きしめちまったらもう絶対手放せねえと思ったから、この期に及んで躊躇う臆病を唇噛んで追い払う。
告白はした。オーケーも貰った。そんでいきなし泣かせて、見守ることしかできなかった。
もうひとつの覚悟くらい、何だってんだ。


「――アタシもだ」


お互いまだ慣れない距離に温度は、すげえしっくり来て。
アンタって意外に泣き虫なんじゃねえの、とか、そんな訳は無いと知りながらこっそり決め付けてみる。
アタシ限定で、と加えると恥ずかしい上に甲斐性無しな気がすっから、やっぱ無しだな。











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