子供じみた羅列(綾クロ)
時期柄流行ってる風邪をもらったらしい夕歩の看病でルームメイトが部屋を明けたら、普通は徹ゲーするだろう。
一応日の出前には寝て、AMがPMになる間際には起きたんだから上々だ。身体がだるいのもある意味勲章だよな……と、誰からも同意されない誇らしさと充実感でさわやかに……ベッドから出たところでめまいに襲われた。
思わずしゃがみこんだら頭痛までやってくる。
……あー、夕歩の風邪、移ったか……?
このまま速やかに布団にUターン、したいのは確かだったが優に半日以上なにも食べてない空きっ腹が邪魔をした。
ついでに目覚めの原因になった、ドアを叩く音がうるさい。バカクロが。とっとと入ってこい……とは言えないから仕方なく前に進む。快適なプレイ環境のために昨晩鍵かけたからな……。
解錠して、こっちが扉開けるまで待つ辺りはさすがに成長したというか、身体に覚え込ませるまでどんだけ苦労したことか……
そんなことどうでもいい。とりあえず飯だ。
「おはよ! あやな」
「……もう昼だぞ」
「でも寝てたでしょ?」
にへ、と笑う健康優良児。まあ健康過ぎてこいつも結構寝すぎサイクルのくせ、身長筆頭に体型は相変わらず。寝過ぎる子は育たないとか、五味太郎のことわざ進化形に間違いはない。
あの手のは意外にゆかりが好きなんだよな、と述懐してたところでつんつんと、腰辺りをつつかれる。
「あやな、風邪なん?」
「……ああ」
「大変!」
あんたの声の方が、……という程でもないな。
しかしよく気づいたな。そんなに体調悪そうな顔してるってことか……?
「綾那、布団戻って」
「……トイレ」
「じゃあ、早く行って」
苦し紛れの言い訳はあっさり受け止められ、ちっこい手が伸びた。
反射で逃げかけたらぐらりと揺れ、慌ててしがみついた先は結局こいつで、ああいつもならこども体温で暑苦しい上しっとりしてやがるくせに、今はわずかながらこいつの方が……
「びねつかな」
そうだろう、だから、たいしたことはないんだ。
せっかくなら平日にひけば出たくもない授業をサボれたのに、と思うレベルで、だからあんたがムダな心配や世話をかける必要も、まったくないんだ。
「戻ったら、ちゃんと寝てなきゃダメだからね!」
昼ごはんもらってくる、と駆け出す背中に結局言えなかった強がりが、ぐるぐる回って気分が悪い。
戻るってどこから、ああトイレとかとっさに言ったんだっけ、別に全然行きたかないし洗面所の鏡に映る今の自分とか心底みたくないんだが、そんな理由ごとバレたらあとで怒られそうだ。
……そういえば今日のクロは強気だな。いつもとは違う意味で。頼もしいというか、いやこの感情は客観視した結果の一般論であり、あんなチビに寄りかかりたいとか、そういうことではけして。
というかクロの奴、わたしをたんぽぽ園の園児扱いしただろう。
思い当たって、怒りより前に脱力した。調子がおかしいのは全部風邪のせいだ。クロも微熱って言ってたし。はやく布団戻ってろと言われたし。
背伸びして、躊躇なく当てられた手。ガキと同じ扱い。……家族、扱い。
嫌じゃなかったのがむず痒く、収まりが悪い。このもやもやをぶつける相手も今はいない。
やっぱりトイレは食後にしよう。大した距離じゃない廊下を一人で歩くのもダルい、のを認めると上がってく気がする体温。病は気から。これはどう進化したんだったか……?
部屋に戻る。入れっぱつけっぱだったゲーム機を片す。新作の円盤が吐き出され、口ほどにもなかったラスボスの禍々しさを鼻で笑って、ケースにしまい込む。
どうせやらせてはくれないだろうから、昨日最後までクリアしておいてよかった。テレビの電源も落として、片付け完了。まあ熱持った機器にツッコめるような頭はしてないだろ。
あとは待つだけで良い。ちゃんと寝てろって言われたし。この部屋の体温計の場所なんて、順かあいつしか知らないしな。
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看病されるならはやてか順が良い。
追記:続きました→
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