リリカルな君の理屈
「……やけにゴキゲンじゃねーか」
いー加減ムシすんのもしんどくなってきたから、どーしたよ、と一応声をかける。
今日の紗枝は、テキトーな約束よりは随分早いゴ登場のままずっとこんな感じだ。鼻歌もハミングも飛び越えて、そろそろ口笛まで出てきそうなゴ様子で。
ショージキちょっとばかし気味が悪い。特別なコトをした覚えはねーし、雰囲気からしてアタシ絡みでは無さそうだし。だから無害なクチだと、当たりをつけてはいたものの。
ぶっちゃけてしまえば、宿題のジャマだ。コレ片付ければフリーなんだから、もう30分黙っとけ。
つーのは、待たしてンのがこっちだから言い辛い。クソ。
「まーねー。
ちょっと下級生と楽しい触れ合いを」
「まァたそれかよ。
……今日、星獲りは無かったよな?」
「柊ちゃん、寝ぼけてる?」
「アホか。」
「あー、」
「……ハイハイ、スミマセン。」
両手挙げてコーサンする、芝居がかったソレに紗枝の眉がぴくりと動いた気もしたが、まー、こういう時の対応のオザナリさはどっちもどっちだ。
ツッコミ待ち、の応酬は二人きりなら娯楽の範疇。ワカってる奴とヤんのは楽しい。なんせ使った体力をムダだと思えずに済む。
「イタイケな後輩イジんのも、大概にしとけよな」
「えー、
だって気に入った子をいたぶるの、楽しいじゃない」
「うっわ」
「気に入るから可愛がるのよ?」
カワイガル、ねえ。
しっかりきっちりイタブルつってんじゃねーか。
「まあそういうお気に入りを超えて大事な子は、妄想だけで楽しむんだけどね」
「徹底してんな……」
その妄想上で。どこのどいつがどうカワイガラレてんのか。知りたかないがコイツが時々漏らす黒さの一端は見えた、気がした。
好き、の中のグラデーション。幅が広がるのはいいことだ、とかそういう次元じゃねえ。
このマジモンのドSサマが。
「アタシはどーよ?」
「……どっちもしません」
「なんでだよ」
むしろなんで敬語だよ。
「……え、して欲しいの?」
「ちげェ」
「そうよねー。
柊ちゃんもどっちかっていうとSよねー」
「イジメられんのが好きって方が、そーとー特殊だろ」
「そうでもないわよ?
この学園では、だけど」
「……へー」
「聞きたい?」
「言わんでいい。」
ハン、と吐いて拒否ってみせれば素直に口を閉ざす。
んー、と漏らされた口元には指先。傾げた首がゆっくりと戻され、じわり、滲み出て来るホンネのための感情。
「だって、
柊ちゃんは、失えないから」
「……は?」
こいつの奇行、つかオカしな判断基準にオドかされんのもいい加減慣れたつもりではいたが。
油断したトコで足下掬われンのはトーゼンで、アタシが悪い。
間抜けな声のダサさに地味に凹むが、目を逸らすようなマネはしない。コイツを受け止め損ねたくないから。
「柊ちゃんにだけは、嫌われたくないもの」
「遠慮してるってことかよ」
「違うわよ、
柊ちゃんがして欲しくないことはしないの」
「違わなくね?」
「違うの。」
そこで一旦、だんまり決め込んだコイビトに。
手ェ差し伸べて引き上げてやんのは、そういえば久しぶりだ。
うつむいたせいで見えるつむじの形は変わんねェが、髪はあれから多少伸びたし、今は隠されてるキレーな顔で、随分自然に笑えるようにも、な。
笑う以外の感情表現も随分上手くなった、とまで言っちまうとオゴリが過ぎる気はするな。
まぁ、しあわせにはさせてるハズ。愛されてる自覚もあるし。
ぽつりぽつり、落とされてくイイワケに満足して、背中をぽんぽんと撫でてやったら拗ねられた。
それなら、と指の腹立てて撫で上げてやりゃ簡単に震えてくれる。睨まれンじゃなくて、ネダってみせる目元はアタシの胸近くに埋まったまま。
ほっといたら服の上から噛まれて、思わず呻いたトコで乗せられてた重みが消える。
「そうね、
柊ちゃんとならもっと楽しいこと出来るし?」
「言ってくれンじゃねーか」
「しゅーちゃんのさどー。
ベッドの上では意地悪だしー。」
「そんでヨロコんでンだから、オタガイサマだろ」
「まあベッドに限らず意地悪だけどー」
「アンタがカワイイからだろーが」
ベッドに限らず。
照れてくれるか、という目論見が成功して、作って見せてやったこっちの笑顔も上書きされる。
喉の奥で笑っていたら掴まれる胸ぐら。ちょーっとオダヤカじゃなくねーか?
軽口叩く前に塞がれる口。つまり案の定引き倒される勢いで引っ張られた。
コイツ相手じゃなかったら反射でぶっ飛ばしてる。
「……おい、紗枝、」
「柊ちゃんのばか」
「あんなぁ、勢い良すぎだろ」
「愛情表現です」
ツンとそっぽ向かれんのはカンペキにわざと。
そのまま横目でうかがわれる、つまり流し見られるサマのエロさに再びにやけてしまうのは、しょうがねえだろ。
つーか誘ってくれてンだから、応えない方がワリーだろが。
結局こーなるのな、と明日早起きするハメになる自分に謝って、後はコイツが望むまま、コイツに望むまま。
翌日の寝不足は結構にキタが仕方ねえ。
(ゴ丁寧に鐘も鳴った。体調管理怠ったせいで黒星なんてダセェことは無論しない。)
あとはアレだ。いじわる、って最中に耳元吹き込まれンとマジでやべェ。
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