Aの幸せBの幸せ(槙ナン)
おい、上条。
いい加減、だりーんだけど
……ごめんなさい、
でも、あと少し。
さっきから似たようなやりとりを何遍もやっている。
押し問答っつーか、暖簾に腕押しつか。話にならない提案に、生返事の謝罪。諦めの吐息を妥協にされ、口実にされ、例の笑顔に結局押し流される。
いい加減腹が立つを通り越して、もうどうにでもなれというところまで来ている。
明日昼飯を食いに行く約束はしたが、どうにも優雅な兼朝飯になりそうな勢いで日付はブッチされ、それもいい加減いい時間のハズだ。つーか体内時計が空腹を訴えてきてんだが。
…離れろって
うん、
アタシの上に乗ったまま、両手も胸の上に乗せられたまま。
つまりその「うん」は承諾じゃねェ。
やたら真剣な表情は、その度合いが高まるほど頑固さも上がるっつーことをコッチは嫌ってほど知ってんだが。
まあ、このままつつがなく事後コース、ってならいーけどよ。さっきのアンタの「あと少し」が、どんだけホンキなのかどうかが問題だ。
こっちから蒸し返すような真似は当然、しない。
……ハァ。
上条。水、寄越せ
え、……はい?
そこのペットボトル、
あ、はい。
何でそんなに嬉しそうなんだか、いそいそと上体起こした上条のおかげで、ようやく身体が軽くなる。
伸びをしたついでに手を伸ばして受け取ろうとすると、ボトルではなく上条の手が当たって引き起こされた。
寝たままじゃ、飲みにくいでしょう?
あー、サンキュ
くらっとキタのは水分不足だ。そういうコトにしておく。
とっくにぬるくなってるミネラルウォーターを一気に煽ると、空きっ腹が案の定自己主張してきやがった。
コッチはいい加減、満足なンすけど? と、言い放ってはやりたいが、コイツ、妙なところ繊細だからなあ……。
つか、これを開封した時にも似たような事を考えたよなアタシ……。
ほらよ
ん、
手を差し出されたから空のボトルを手渡す。引き続きばかみてーな全力の笑顔。
そんで手ェ広げて抱きしめられ、(どこの外人だ、)カワイイ効果音でもつきそうな感じにぎゅっとされ、満面の笑みのままで押し倒される。
……ちょっと待てよ。
斗南さん、綺麗
へー……
その笑顔が重いつったろーか、というのが頭をよぎったが、流石に天井を眺めるだけにしておく。
無残に乱れてンだろうアタシの髪を、上条が丁寧に掬い取り、まとめてく最中はベタに木目を数えておいた。
髪、伸ばそうかしら
何で
斗南さんの髪、気持ち良いから
真顔で愛の告白は結構だが、なんとも抽象的すぎてよくわからん。
神経なんか通ってねーのに、厳かに口付ける上条はアホだ。それに妙な気を覚えちまう自分に毒づいた結果、漏れたのは嘆息。
これが自分でもわかるくらい甘いってのがまた腹立つんだよな……ああほら、目元まで緩ませやがって。
あとね、斗南さんが気持ちよさそうだから
どんな風かなあ、って。
いつの間にかしっかり体重かけられてるせいで、振り払わない限り逃げらんねー体勢に戻っている。
まあ、いいけどよ……わかりやすく幸せそうなコイツとこの距離なのは、悪くねェし。
つまりアンタはアタシに髪を撫でられたい、と
え、……あ、
…その、
ちょっとばかし意地悪く笑って見せただけで。
ソッコーで赤くなった顔でキレーにうろたえてくれちゃって。
そうなるの、かしら
……疑問形でごまかす逃げはともかく、顔隠す手段がヒトの胸に埋めてくる、ってのはどーなんよ?
力がこめられすぎてるせいで、物理的に重い。身体、ダルいっつってんだろが。
…ったく
非難半分絆され半分、わしゃわしゃと胸元の髪をかき回してやりゃまたソッコーであがる顔。
こんな至近で、まん丸の瞳、はちょっとレアだな。へったくそな呼吸のおかげであちこちに反射しやがる吐息が、くすぐってェやらむず痒いやらで落ち着かない。
素直に息乱してやんのも癪だから意図的に整えながら、かき乱し続ける髪。匂いも梳き心地も好きだ、と告げたことは無いが、実際ばかみたいに心地良い。
参ってンなあ、と呆れておくのは照れ隠しだと自覚してる。首周り抱え込むより背に爪立てるより、顔と顔付き合わせながら、のが好みだってのもあるが。
浮かされた頭で、浮かされてるコイツを実感出来るから、ってのはそういえばコイツに言ったような気もする。
……それ、好き
そーかい
だからってワケでもねーが。同意はアタシからのキスにしておいた。うまく伝わるかなんざ知らん。
この体勢なら掬いあげんのも楽だしな。
ごまかしてた息の荒さがバレたみてーで、口塞いだままの上条が笑う。
後頭部に埋めたままの右手でもっかいぐしゃりとやったら、いい感じに気ィ緩められたから遠慮なく舌先に噛み付いてやった。
それで火がつく辺り上条も上条だし、火がつくことが分かっててやっちまうアタシも大概で。
まあ、つまり結局、いつも通りだ。
--------------------------------------------------------------------------------------
タイトルはreplaさまの御題より。
お互いの呼び方はいつもながら、趣味です。
|