愛しさに負けた(槙ナン)
斗南さん!
……あ?
ふふ、見つけちゃった
見つけちゃった、じゃねーよ……
コッチはビビるやら周りが気になるやら、素で慌ててんデスケド。
それをいいことに、いつものワケわかんねェきらきらを振りまきながらズンズンやって来た上条は、アタシの腕をわし掴んで、しかもそのままゴーインに引っ張られた。お持ち帰りっつか、強制連行だ。
絵面としちゃどー考えても逆のがふさわしいだろ。毒づいてみてもストップかけてみても止まんねーバカは鼻歌混じりでヒトをホールドしたままずるずると、行き先すら告げやしねェまま。
あ、祈がにこやかに神門引きずり回してるパターンだと考えりゃいいのか。
あれと似たよーな笑顔で、止めるどころか率先して追い出しやがって。祈のヤツ、今度覚えとけよ……。
はい、お待たせしました
……お待たせもナニも、
どーゆーコトすかね?
嫌味に聞こえるよーに言ってんだから、そー捉えてくれなきゃ困る。
きょとんとした上条は、あの謎の粒子を出すのをやめて、ぱちぱちと瞬いてからようやくアタシの腕を離した。
わざとらしくさすってやれば素直にそこに視線が落ちて。
……?
斗南さん、機嫌悪かった?
あァ?
ええと、忙しかった……り?
用事あったなら、その、いい、んだけど……
……
なんかもう、ドコから突っ込んだらイイのかすらわからん。
つっても、しゅんとなった上条を見ると結局コッチが焦んだから、世の中は理不尽だ。
あー……
機嫌悪ィワケじゃねーし、忙しくもねーよ
え?
アンタがナニしたいのか分かんねェから聞いただけ。
こういう時にバカな見栄張ると、余計コジらせるだろ。
コイツ相手なら尚更。素直なクセに強引で、ちっともヒトの話を聞かねえと思ってたら唐突に鵜呑みにしてきやがる。
つくづくメンドーなヤツ。そんでもコイツが瞳輝かせながらアタシを呼ぶと、つい気になっちまうから始末に負えねェ。
校舎のざらついた壁に凭れてそんな自分をイヤになってみるのは、多分コイツを悪く思いたくねェ、んだろう、なぁ……。
きれいでしょう?
は?
さっき、部活中に見つけちゃって
ほら、と上条が手で指して、伝えたがってる「きれい」の対象ははどうみてもこの景色丸ごとで。
ンなガキの探検隊みてェなコトが、マジで美術部の活動になんのかよ。
コイツらしいっつか、なんつーか、……これ見せるためにあんな真似しでかしたのかと思うと気が抜けた、っつーか……。
斗南さんに、見せたいと思ったの。
へー
じわじわ這い上がる感情を堪えきれず、口元がにやけンのを無理やり抑えたせいで、すげェ顔になってんのが自分でも分かる。
その顔つきについては気にせずにいられンのは、相手が上条だからだ。
コイツの天然は益と害の幅がデカ過ぎんのが問題だが、まァ都合良い時は素直に感謝してやんのが人間ラシサ、カワイゲって奴だ。
そんでアンタは部活サボってアタシに見せに来た、と
え、今だってちゃんと部活中よ?
お気楽なモンだな……
うん、
やっぱり斗南さん込みで描きたいわね
おい、そのために呼んだのかよ
疑問をテイしてはみたものの。あっさり頷かれたらそれはそれでヘコむんだろーコトは易々とヨソーがつくハナシ。
そんでコイツが嬉しそうにアタシの望むモンを寄越すから、何でも無かったハズの距離に態度が、いつの間にか特別に変わっちまってるっつーワケだ。
もちろん、あなたに見せたかったのが先よ?
……ふーん
ううん、一緒に見たかったのかな
私も今気づいた。
つぶやいて、すとん、と上条が腰を降ろしたのはアタシの真横。
……何でだよ。
……絵、描くンじゃねーの?
え、一緒にサボるんじゃないの?
顔を見合わせて首を傾け合って。
すれ違いの行き合いに、ほぼ同時に吹き出しちまったりして。
いーよ、それで
ごめんなさい、
いや、……まァ、アタシの仕事は終わってたし。
え、じゃあどうして
……アンタが部活終わんのを、待ってたんだろーが。
つーのを喉の奥で飲み込んだアタシを、脳内で祈が盛大に笑った。
……こんな時までジャマすんじゃねェよ……。
ぜってェ、言ってやンねェ
ええ?
ヒドいだの、気になるだの、ようやく慌ててくれた上条をさんざんスルーしてやって。
まァこんなモンだろ、と溜飲をおろしてやったコトにした頃にはもう大分陽が傾き始めていた。
部活動どーすんの? 部長サン?
……どうしようかしら
本気で困ってるように見えるコイツに、満面の笑顔で「明日もよろしくね?」とか言われちまうのが、このすぐ先の未来で。
トーゼンのコトながら、翌日の予定が否応無しに決まっちまう瞬間でもあった。
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「きれい」の中身については、各自お好きな風景を思い浮かべてくだされば嬉しいです。
(人はそれを丸投げと呼ぶ。)
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