心意気で片付けろ(槙ナン)




「アンタ、それ、スキだよなぁ…」

「ん…?」


いつも唇が留まり、舐められる左脇。
傷跡というと大袈裟だが、まァ、闇ン中でも見えるし触りゃワカンだろうくらいには周囲とは違う肌。
故意でない息のかかり方が若干変わるくらいの変化で、たぶん上目遣いになって、
ヤッてん時、唇つけたまましゃべんのはコイツの趣味だってのは承知してんが、知ってるからやりすごせるようなら苦労はしない。


「どうしたの?
 ……って、聞いても良いの?」

「聞いてから言われてもな……」


指先でなぞられ、素直に揺れる身体。
イヤじゃねーし、変な堪え方すると怒るから、つーのを言い訳にしてまるごと明け渡す夜。


「ガキん頃、ケンカしてな」


やった奴の顔は覚えてるし、当時の怒りも痛みも忘れちゃいねェが、殴り合った原因も同じだけやり返したコトも覚えている。
だから恨んじゃいない。今テメェのコトなんざ思い出したかなかったんだが、てのはあるが逆恨みだしな。


「……すごい、名誉の勲章じゃない」

「ンな、ハズいこと言ってんじゃねーよ」


変なトコで目を輝かせんな。


「きっとヒーローだったのね」

「頭沸いてんな。ワケわかんねー……、っ、」

「じゃあ、こっちは?」


不意討ちくらった形になって、今度こそはっきりと、腰が跳ねた。
……大体、この体勢で(この期に及んで)こんな会話してる、つーのがオカシいんだよ。
言ったらオネガイになっちまうから、手ェ握り込んでやり過ごす。
あちこち痺れてるサナカに、同時に腿の内側なぞられたのも原因。
故意じゃねェそれにだいぶ参ってんのに上条が気づくまでは、まだ結構ありそうなのが、救いっつか、地獄っつか……
いっそ蹴り飛ばして足閉じて楽になりたい、と思わされんのもイツモノコトだが、実行できた試しはない。
今日の上条はよりによってジーンズだが……コイツまた、ヒトの服着て帰るつもりじゃねーだろうな……

「…斗南さん、」

「……んあ? ……っ!」

「これも、喧嘩?」

「まァケンカだが、そっちは兄貴の……ッ、ま!」


制止の手も声も間に合わず、弱い皮膚の断層をキツく吸い上げられ。上条のその動きと共にまた擦られる脚の付け根間際。
どけ、ってのは、ヤメろとは違うから、言っても、良いんじゃねェか……?


「…いいなぁ。」


ぜってェ跡ついた腹の上、なぞられて撫でられて、引っ掻かれたりする、横に数センチ走るダセェ思い出。
思わず目線を落として後悔。ふいと外すアタシにダメ押しのように快楽を寄越し、上条が呟く。


「私、ひとりっ子だから」

「そんな、良いモンじゃねーよ」


こっちとしちゃホンネだが、この手のギロンは平行線と相場が決まってる。
それを楽しむためにやり合うコトはあるにしたトコロで。


「ガキん頃はお下がりばっかだし。
 ま、シドん家ほどじゃねーけど。」


今は楽しむ気分じゃないから、さっさと切り上げようと何も考えずに付け足したが、あ、ちょっとマズったか?


「……ワリ。」

「え?」

「他ん奴の名前、出しちまって。」

「士道さん?」

「あー……気にしてねぇんならいーけど。」

「…気にするべきだった?」


いや、ンなことは、ねェと思うが。
どっちも嘘吐く性分でもない。首振るだけで安心が降ってくるから、礼代わりに柄でもねェ本音をくれてやる。


「妬いて欲しくねーとは言わねェが、そんためにあえて何かするつもりはねーよ。」

「うん、私も。」


ふわりと笑うコイツが、近い。
いとも自然に重ねられる唇の進退を、そのクセ迷いやがるから引き止めて、バランス崩した上条が落ちてくるよーなのをひとつ。
首伸ばさずに済むなら楽だし、ということにしてふたつ。途中で目ェ閉じた途端、早まる気がする鼓動に気を取られたトコで、改めて意図的にかけられる体重。
突っ込まれる、膝の、先。


「そう考えると、ひとりっ子で良かったのかも」

「…っ、は?」


……アンタ、妬いてたの?
真意を確かめるより前にみっつ、が、上条から寄越されて、呼吸のタイミング気遣われながら随分長く。
……あーもうホント、好きだよな……
言い訳にもなりようがねェぼやきごと抱きしめられンのは心地良いが、そろそろ、次を寄越せ。
肚括って上条の髪に手を埋める。こっちが何か喋ると思ったのか、唇離そうとして来たのを止めるのには、腕力より有効な舌と歯の反撃。
この前みたいに無言のオネガイに不満そうな息を漏らすのは、勘弁しろよ。
ぐっと両脚で絡め取ってやるだけで叶うから、反撃への反撃のつもりなのかしつっこく口内這い回られてる最中だから。
わざわざ言葉に出して、コイツをこれ以上喜ばせる必要性なんざ、ねェだろうが。









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槙誕2013。
ぐだぐだいちゃいちゃが書きたかったので、無事目論見を達成できたんだということにしておく。













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