ありがとうをいう日




おめでとー

…一体、何がよ

んー、色々あるけど……そか、
まずはお疲れ、だね

……

仲直り、できた?

…多分。


良かった、とひとことだけ漏らした順が、本当にただその言葉そのままの表情をしていたから。
用意されていた皮肉も、ケジメと決めていたはずの感謝に謝罪も伝えられず立ち竦む私に、一瞬だけ困った顔をしてみせて。
すぐにへらりと笑って、座ってよ、と言いながら自分から先に腰を降ろすからつい釣られて真隣になってしまった。
そんな、こんなことくらいで嬉しそうに笑わないで。言えない私に触れようとして触れずに、いつもの距離を通り越した順。


名前、何ていうの?

…はい?

この子、……おー、ハートだ。


可愛いなぁ、姫のと同じくらい女の子寄りだなあ。
イヤ猫なんだし雌? うーん、kitty? そもそも子猫?
聞いてくれてるだけで良い(らしい)独り言以上、会話未満をしばらく続けながら人の物をさんざんつつき回すこの人を、好きにさせる、というだけで甘くなってしまう空気。
結局真っ先に会いに、見せに来てしまったという事実に目を背けようとすればするほど気になってしまう隣の存在。
ひとしきり弄って満足したのか、最後にぎゅうとにぎりこんでつぶすから思わずその手を弾く。
おおげさに痛がる順、ちょっと、紐、千切れたらどうするのよ。


はやてちゃんらしいや。

え?

あたしなんてエロしげだしさー、染谷のこれも、左目じゃん?

…ああ、

こういう本質を、さらっと表現しちゃって、そんで喜ばせてくるところ。


はやてちゃん、良い子だから。
バカなことばっか言ってるように見えるけど、全部ホンネなんだよね。
それで、そのホンネって、すっごくやさしくて、あったかいの。
好きばっかりを主張できるって、すごいから。
まっすぐすぎて、たまに眩しくなるけど。


――あなたみたいね。


先輩や夕歩のようにはっきりとなど論外だし、この人のように、軽口で伝えることすらできない私を、


だから染谷が認められたみたいで、嬉しい。


こうやっていとも簡単に包み込んでくれるところが、きっと似ているのだと。
どうせ正しく届けられなどしないと知りながら、そっと、柔らかに笑う(それを私に、向けてしまっている)頬に唇をつける。
あなたのそういうところが好きだということだけ伝わればそれで良いと、思ってしまう自分が嫌いだ。あの人と似ているから、余計。
せっかく黒鉄さんに認められたようなのだから、良い機会だから。


ありがとう


いつもよりも少し多く伝える本音はただとても恥ずかしくて。
ああ、確かに黒鉄さんはすごい。
でもあなたも同じくらいすごいのだと、知っているのは私だけで良いと思うのは今度こそ、とても伝えられない恥ずかしさで出来た本心だった。









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しげヴィア記念。これの続き、のつもり。
「お互い別の人と付き合ってるからこそあそこまでこじらせた槙さんの誤解」妄想が最近のマイブーム。












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