欠伸をしない猫(夕歩と順)





「…じゃあ、また」

「……あ、ええ。」

「ちょっと、ゆ」

「――そうね。静馬さん。
 また。」


そういって微笑むふたりが、ふたりとも。
ちっとも笑ってなかったよーに見えたのは、あたしだけでしょーか。


……ん、おいしい。

それは光栄。
……でさぁ、夕歩。

なに?


マグカップを両手で抱き込んで、首を傾げる姫は今日もいとしく、うるわしい。
その声音は、あたしに何を聞かれるのか、すっかりわかってるときのもの。







……さっきの態度、

うん、


聞いてるよ。
そう見えるように頷いて、流し目。
途端しまらない顔になる順は、今日もバカだなあ。
ほのぼのと考えて、私には甘すぎるココアをまた一口。
(最近、怒る方がバカらしいと気づいた。
 久我順という生き物の99パーセントは、バカなのだ。
 ……残り1パーセントでしっかりしてくれるなら、それでいい。)
甘すぎ、といえばしょげて、謝って。
そして次回からは控えめ加減を恐る恐る出しながら、甘ったるいお茶菓子が、甘ったるい期待がもれなくセットでついてくるのだ。
バカ99パーセントの忠犬の、なんとか褒められようという願望のちらつく眼までが目に浮かぶ。


順のバカ

……はい?


気が利かない方のバカ、に、容赦するつもりなんてない。
しょげるを通り越してびっくりした眼、あ、それはちょっと好きかも。……なんて。


槙…さんのこととゆかりのことは別だよ

……別なわけないじゃん

順が、綾那の世話を焼くのはゆかりのため?

な、

そういうこと


槙、のことが確かに私は嫌いだけれど。
それはゆかりとは無関係で、順の邪推なんか全然、これっぽっちも当たっちゃいない。







……私、恵まれてるのにそれに気づいてない人、大っ嫌い


剣呑な、いやいっそ殺気と言っていいほどの怒気をまといながらココアを飲み干す夕歩は、それはもう怖かった。
底を見せたマグカップを水平に戻して、苦い顔。あれ、溶け残っちゃってた?


それってさ、

分かってる。

…なにが?


……はあ。
盛大にためいきをついて、乱暴にカップを押しつけて。
あたしは勿論ありがたく受け取って、間接ちゅーは妄想だけにとどめて中を覗き込む。
まあるい輪。んん? ちゃんと溶けてたんじゃ?


……順のバカ

うえー?


二回目?
非難の視線もどこ吹く風、いとしの姫は今日もうるわしい。







…私は、順が私の地の剣で、しあわせだよ

……あ、そーいうこと、


そんな甘言で納得してしまうから、順はバカなのだ。
……そういうバカなところは、嫌いじゃないけど。
口直しに麦茶が飲みたいな。正直に言ったらバカ正直に傷つくから、トイレ行ってくると言い捨てて立ち上がる。
ついて来ようとしたら綾那に締めてもらおう。我ながら妙案だと思ったのに順はひらりと手を振っただけだった。


行ってらっしゃい

……ん。


三回目の、順のバカ、は取り消しにしておいてあげる。
こんなところでなけなしの1パーセントを発揮するのだから、やっぱりバカであることは間違いないけどね。






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なんとなくこれと繋がるような。










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