NTR習作。厭な予感がした方はリターンで。








「無益だから」(夕ゆか)





「さわらせてなんて、あげないから」


一心に私をねぶっている彼女にささやく。
ぴくりと揺れた髪、やわらかなその流線が、けれど湿っていつもよりぺったりとしている、その様もただ眺めるだけ。
ゆかりと一緒に鍛錬をしたのは、いつが最後だったろうか。
あの頃はよく見慣れていた、そういえばお風呂も一緒に入っていた。
あの頃はこの子とこんなことをするなんて、想像もしていなかった。

なめて、と言ったから一生懸命に私の指をくわえている、垂れた唾液をすくうために時折手首や腕にも舌が落ちる。熱いぬめりけ、あらい息、かくせなんてしないのに必死で堪えて、とても丁重に私の手を掲げ持って、そのくせいやらしい舌遣いで、ねえ、それ、どこで覚えてきたの?
知ってる。ことも知られている。だからやさしく、聞いてあげる。


「…っ、……ぐ……」

「あし、ひらいて」

「……え…?」


喉の奥を内側からくすぐってあげたら、とたん、だらしなく。
あとで掃除が大変そうだなあ。無感動に思う自分を見つめる自分が、無表情でゆかりを見下ろしている、半径1メートルにも満たない世界だけでしずかにかなしみが回っている。

さそったのはわたし。でも、頷いたのはゆかり。
明るみになったらきっと、さそったのがゆかりということになる、かばわれたくなんかないけれどあのひとに嘘をつくゆかりは見たい。
ありったけのやさしさをこめて、ひどいことばをささやけばささやくほど、息をつまらせて、目元をあからめて、どろどろに蕩けていくゆかりに、そう仕込んだひとを、裏切らせるのは。
想像しただけで、こらえようもないくらい胸がうずく。
空洞だと思っていたこころのまんなかに眠っていた獰猛は、そうとは見えないかたちで発露させるほど効果的だし、満足がもらえると。
だれかを可哀想と思うことはとても、とても簡単なのだと、うんとちいさな頃から知っていた。


「うん、かわいい」

「……っ!」


それを可愛いと置き換えることの無益と残酷を、教えてくれたのは、誰だったっけね?
知っている。彼女は強すぎるから、わたしがそう思っていることすら知らないまま。
わたしが言ったから、ぺたりと女の子座りしたゆかり、小刻みに腰が揺れている、瞳も唇も震えている。
わたしがささやいたからこの部屋に来て、わたしが差し出したからこの指をふやかして。
わたしが言わないから先をねだらない(ねだれない)、とても可愛い女の子。
可哀想という言葉など、辞書の中にしか知らない子だから、うんと可哀想な目に遭わせてあげたくなる。
だから。この先は今日もあげないから、代わりにささやいてあげる。


「――好きだよ」


強靭な心が、わたしにさえかたむけられる、むごいばかりの。
あなたの、その優しさが。







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