安心してねむれるかい






キスが慣れない、ってよりはこいつへの踏み込み方がわからない。
何したって嫌われりゃしないだろうが、傷つけンのはマジで勘弁だ。
(ヘタ打つとからかわれるネタにされる可能性は常にあるが、まあそれは良い。度を越してなけりゃ甘受する。)
こいつを傷つける奴から云々なんて、クサいこと吐くつもりはねぇけどよ。
(して欲しかったら相方に頼め、てのはお互いサマだ。)
こいつを苦しめるくらいならアタシは手を引く。勿論そうはなんねェように全力を尽くす。
つまり、キスひとつ取っても命懸けの勢いで優しさと愛ってヤツを込めてんだ。状況的に問題はないはずが、ふるりと首振られて、2度目をあっさり拒否られんと、


柊ちゃん

あ?

ごめん、ねむい


……別に謝らんでも、と思ったが。
まあ気まずくはあんだろな、てのはわかる。こっちは原因がわかってほっとして、胸を撫で下ろしながらこいつを部屋に返すべきか考えてるところ、
無言をどうとらえたのか、逆にアタシの顔が祈の手に包まれる。覗きこまれて、ああこりゃ謝罪の上塗りするつもりだな。させるか。


どしたよ?

……言いたくない

あっそ


なら別にイイ。
浮気を疑ってるワケじゃねぇ。こいつが言いたくないならそれでいいってのもマジだ。
頼った先が自分だったってだけで喜べるアタシは単純で、ホントに単に眠そうなだけの祈は、アタシの布団に潜り込んで小さく笑った、みてぇだった。


ごめんね、ありがと

だから謝んなって、


今の祈の顔見たらヤバそうだったから怠惰の証が積み上がるローテーブルに足突っ込んで返せば、囁きレベルに微かな笑い声。


柊ちゃんのにおいがする、

……おい、


上段構えたいつものタチの悪さがねェ、ホントに素で感情をぽんと出したような吐露。びっくりして思わず振り向いちまった。
……寝てやがるし……これも演技……じゃねぇんだよなあ……。
ザンネンながら。いや、よろこばしいコトに、つーべきだが。
そこまで全力で開き直れるほどまだ大人にゃなれていねぇ。
安心して意識手放してる祈の寝姿は、目の毒ですこぶる心臓に悪い。アンタをこんな風に寝かせられなかった原因を行儀悪ィやり口で罵ンのはアタシの八つ当たりで、でもこいつの眠りをほんの少しでも妨げたくないからキスのひとつもできない。
(こいつが以前欲しいと言った、触れるだけのシアワセをアタシの都合で与えられない。)
ったく。どうしてくれるんだ、この思い。










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タイトルはふたりへのお題ったーよりお借りしました。










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