(だいすき。)








毎日は順調過ぎるくらいで、平穏で、柊ちゃんは優しくて。
一番下からの再スタートも、予想以上に楽しめてる。玲が生き生きしてると私も楽しい、のはやっぱり一種の依存なのかもしれないけど。柊ちゃんという新たな支柱で逆に開き直れるようになった。
(しあわせがこのかたちで、なにがわるいの? なんて、ね。)
焦る要素は何処にもないはずなのに、最近の私はなんだかいつも時間を気にしてる、気がする。
今までの恋愛(みたいなものたち)もある意味時間にばかり気を使ってはいたけれど。
今思えばこの上無く時間の無駄だけど、その無駄はきっと必要なことだった。たとえば玲とは無関係な、この幸せのために。
強がるくらいは良いじゃない。まだティーンだろ、っておかしな慰めをした柊ちゃんの顔を思い出すと、今でも噴き出しちゃうくらいにはお気に入りの思い出を、今日も自己弁護と笑いのネタにさせてもらって暇潰しをする。
(柊ちゃんの語彙ってときどきよくわからない。口は悪いのに、そぐわない言葉も平気で使うし。馴染んじゃって違和感無いし。しかもそれ、口惜しいくらい格好いいし。)
柊ちゃん、遅い。

ちょっとでも時間が空いたらすぐ会いたい、と思っちゃうのは。メールを打って、返事も待たずに柊ちゃんの部屋に押しかけちゃうのは。
俗に言う蜜月だってこともあるし、久しぶりの本気だし、何せティーンだし。
いつまで柊ちゃんたちが個室でいられるのか、わからないし。
やな言い方、なのは自覚してるから本人に伝える気はさらさら無い本音。
でも、周知の通り、本気で勝つつもりのない挑戦者に勝たせてくれるほど、会長は優しくない。

柊ちゃんの部屋の前、扉に凭れて柊ちゃんを待ちながら。
玲の負けるところも、見たかったな、と思う。
いろんな人に怒られるだろうその思いは、最近折に触れてふっと浮かぶ。
じゃあ留まればよかったじゃない、と責めるのは私に近そうで遠い人たちの幻影。よく知ってるけど踏み込ませなかった、真っ直ぐな少女たち。(恋人みたいな人たち、もみんな、その中。)
だけど、私は。
何度あの時に戻れたとしても、結局あの時と同じ選択をして、同じ結論に至るのだろう。
黒鉄さんたちが止めてくれて、上条さんまで動いてくれて。そして柊ちゃんだけが見送ってくれた、あの良く晴れた日の頂上戦。
静久を騙して、玲を信じて、玲一さんの顔を立てて。抱えたつもりで引きずってきた物たちを全部落っことして、すがすがしいくらいのまっさらを一瞬だけ手に入れて。
そうね、それをこれから手に入れ直す作業を、きっとこの学園でやっている最中、なんだと思う。
……柊ちゃん、遅いわよ。
いい加減寒くて、つぶやいてみたら冗談みたいなタイミングで携帯が震えた。柊ちゃん仕様のスタッカート。
嬉しい、と残念、が一緒に訪れて、でもいそいそと画面を開く。
たぶん謝罪から始まるってわかってても、待ちぼうけた時間すら無駄だと思えない今の私には。
無視するとか適当に扱うなんて芸当、できっこないのだ。










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タイトルはふたりへのお題ったーよりお借りしました。










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