かみさまのいうとおり




ごめんなさい、が降りつもる。

ごめん。ごめんね。ごめんなさい。
心からの謝罪が、愛ではなく悔悟しか懺悔しかあらわさない音のまとまりが。そうしてその奥ににじむ、かすむ、かろうじて欲と名のつくあおじろい炎が。
私を燃やしてさえくれないのに眼が眩む。胸の奥が焦れて、凍る。
とろりともれる、伝うかなしみのかたちが、まだ透明であるうちは。


――せんぱい、

っ、


拒絶されることにおびえている。それなのに否定されたがっている。
泣きそうな瞳が、ほんとうに泣いてしまうのは、いつも私が、私の涙腺が決壊してからだ。
泣き虫なのに。私に対しても、誰に対しても。世界まるごとに対して、やさしすぎるせいで、すずやかにあまく、きれいで、だからこそ守りたいと思わせられるその心をたたえてまっすぐ見せる、透き通った目は。けれどこのときばかりはかたくなに水底を反映しようとはしない。
私が、生理的に、泣きだしてしまうのを。ただ、待つばかりの、焦がれ尽くして痛いばかりの欲望であふれかえった瞳。


ごめんね、


もっと簡単に、あふれる、あふれつづける、ことば。
私に降りそそぐ、私でないひとにも向けられた、窒息しそうなくらい真剣で、大真面目で、苦しいばかりで、胸が痛い。
やめて欲しいと言えないから、それを口にするのはゆるされてはいないから、こぶしの形で、先輩の服に触れている両の手を動かすだけで。先輩はきっと傷ついてしまうから。
目を伏せて唇をねだる。息をのんだ先輩が、次いでごくりと喉を鳴らして、そうしてまた、「ごめんなさい」。
ああ、やっぱり傷つけてしまった。
先輩の本音が、本心がかくされた瞳を、みつめて、のぞきこんでみたかったけれど。
謝ることすらできない私が、かなえてはいけない望みだから、ただ。あらっぽい口付けを従順に受け止めるばかり。
受け入れるふりをして、貪るだけの舌先を、噛まれてひくりと震えた、脳が脊髄が歓喜に染まって揺れ動いた。


ごめんなさいね、


すぐにおくられる、いたわりのキス。舌と唇でやさしく撫でられ、ずるりと唾液が潤滑油よろしく入り込み、くちゅりと小さく、立った音が鼓膜を揺らす。
一緒に揺らされた身体の芯は、もうどうしようもないくらいに先輩を欲しがってわなないているのに、この幸福を逃したくないから逃げられず、ただ、いやされるままの私。
先輩にとかされ、いつくしまれて。小さく小さくなって、このまま消えてしまいたい。
そうしたら、私は先輩が好きなままの私で終わることができて、先輩に私の痕跡を残すこともできて、そうして。
先輩は、頭を垂れて。ごめんなさい、といくどもいくどもくりかえしてしまうのだろう。
誰も望んでない、誰もしあわせにしない、的外れのくるしみをかなしみの材料にして。


――、…ん、


体感的にはほんの少し、つまり世界が終わってしまうくらい見つめ合って、先輩をくるしめているあおじろい熱が、私を焼け焦がしてはくれずただくすぶらせるばかりであることに、堪え切れなくなって。
欲しいものを欲しいといえないのに、こんな関係を望んでしまった、かなってしまった。
愛してる、といって欲しいなどというだいそれた望みは、きっと、いだくことすらゆるされてはいない。
私と同じようにそう思っているに違いない先輩に、せめて、謝罪ではなく感謝のことばをもらいたいのだと。
この行為が、不器用で不格好な交わりが、後悔にぬりつぶされているのでは無いと。この、途方もない満足の片鱗を、ただひとかけらでも共有できていたらと願う私のこころと同じものを。
のぞんでいてくれたら、と思うことしかできない私を、どうかゆるさないでください。






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タイトルはふたりへのお題ったーよりお借りしました。










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