たくさんたくさん、笑っていようね




白い壁。まっさらのシーツ。
まだ荷解きのされていない段ボール箱、紙袋。
すべてを目の端に捉えながら、口付けを受けるのは。
なんでもできるという希望と多幸感でいっぱいになった胸から空気すべてを吐き出して、完全に没頭してしまうにはまだ、勿体無いから。
今日から始まる、新しい生活が。私たちを呆れるくらいに舞い上がらせて、そしてこんな行為に駆り立てた。


ん、ふ……


キスが甘い。だけではなく、苦しい。
息が続く限り求められるのは、貪られるのは。
心地良いけれど、心地良いから止められないから、苦しくて、幸せで。
このまま奪い続けられてしまいたいと思いながら、懸命に返す、隙をついて反撃する。
体勢も肺活量も、そもそもの主導権も、先輩が有利な方に傾いているから、どうせ敵いはしないのだけれど。


せんぱ、

声、がまんしないで?

っ、…な、

ね、お願い


敵わないと知っているから安心して抵抗できる。少しばかりずれている気もする、やりとりはそろそろ日常と数えていいだろう回数繰り返され、積み重ねられてきた。


…だめですよ、だって、

となりには、誰もいないわよ?

そういう、問題では、

じゃあ、どういう問題?


声をあげて笑ってしまったのは、ほぼ同時の出来事で。
だからお互い責められず、謝れず。くすくすと、頬を寄せて、なんだかとても楽しい。
幸せが、楽しいと同義なのを、迷い無く受け止めてこうやって笑えるのは。
いくつもの昼を夜を乗り越えて、日常を星獲りをともに過ごして。
思い描いた未来にたどり着くまでには本当に色々なことがあったから。


……あ、


膝を割られる感触に、無意識のうちに腰をあげてしまって。
ちょうど腰骨をなぞっていた先輩が、するりと指をひっかけて。
今度こそ降ってくる、先輩だけの笑い声と一緒に。いとも容易く素肌にさせられる。
まだ、上は、乱れてもいないから。なんだかよけいに恥ずかしくて、でもこうなってしまったのは私の行動がきっかけで、元凶で、わざとではないのがもう、どうしようもなくて頭から何から、火照って、熱くなる。


さあ、どうしましょうか?

……それを聞きますか……

だって、ほら、


記念日じゃない?
にこりと笑う指の先、さっきまで私の腰元を撫でていた手、剣を振るうかっこいい細腕、あの日ただ一度抱きしめられた時の、強い、感情。


……じゃあ、何も聞かないでください


先輩の好きなように、と表現してしまうと違う方向に進んでしまいそうだったから。
私なりの精一杯のわがままを、驚いてはくれなくなったのは、嬉しい気持ちの方が強いから。


なら、仕方ないわね

はい、


あとで代わりますから。
言わなくても伝わってるのでしょう? などという驕りがお互いにあった頃、たくさんの誤解とすれ違いをしてしまった。このやさしい人を、悲しませてしまった。私でいっぱいに、して、しまった。
たくさんの思い出は、苦いばかりではないけれど、甘いばかりでも無い。
それが幸せだから、同じ味のするキスを受け止めて、腕を回す。
まっしろなカンバスにも似たこれからを、これからも。一緒に歩んでいけますように。








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タイトルはふたりへのお題ったーよりお借りしました。

一応の、エンドマーク記念。愛ダダ漏れで気持ち悪い感想を日記で書きました。
ハッピーエンドへの愛と感謝と、これからへの希望を籠めて。











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