最終回はナシの方向で
タン、タン、タン。
自分の立てる音、規則正しく踏まれるテンポ。
吐く息は平静を装って、今日の負荷は持続力の方にウェイトをおいて。
元生徒会の特権を行使して、器具を1台、空き部屋をひとつ拝借して。
これでも色々と目標に予測を積み上げて、少しばかり不健康に走り込んでいたうちに。予想以上に入り込んでしまった、みたい。
ふと我に返ったときに、柊ちゃんが現れたのは、一種の奇跡かと思ってしまった。
「静久に聞いたの?」
「ヒミツ」
意外そうな顔が一瞬見えたから、じゃあきっと紅愛情報、だろう。
次からは、私の所在を静久にも尋ねるようになってくれるかしら。
勝手な希望を抱きながら、「ん、」立ったまま片手を差し出してみる。
「どっち、」
「水から、」
「足りるか?」
「んー」
玲みたいに諦めの空気で従うのではなく、面白そうな貌で、「乗って」くれてる気配。
心地よくて細めた眼、伝う汗を弾いたのを感じながら1本分一気に飲み干した。
空のペットボトル、投げたらいとも容易くキャッチ、さてタオルは投げ返してくれるか、それとも。
勝手に期待、していたら薄ピンクの布地は柊ちゃんごと近づいて。
柊ちゃんの手ごと、バサリと降る、ぬくもり。
「…わ、」
「お、」
いい反応。
ささやくようなつぶやきが、独り言なのにばっちり届いて。受け止めてしまって。
不意討ちで違う回路に接続されて、さっきまでとは違うところから熱を持つ。
「もう、」
「まだやんの?」
「……どうしようかしら?」
軽い仕返し含みでの意地悪は、もちろんちっともダメージを与えられず、いつも通り、柊ちゃんが笑う。
延長、できないわけじゃないけれど。さっきちらりと見た時計は、びっくりするくらいちょうど予約時間の終了間際をさしていた。
それを見越して行動したに違いない柊ちゃんの登場を、ちょっとした奇跡、なんて思ってしまったのが気恥ずかしくて。
余分に火照った頬を勘違いされて、目の前の笑みが深くなる。
良いの。正しても、正さなくても、幸せだから。
「片しといてやるよ」
「え?
…ありがと。」
「冷える前に行ってこい」
「はぁい」
カバンから投げ渡す、部屋の鍵。
やっぱり勝手で軽く受け止めてみせる、かっこよさのせいだ。
落ち着く暇もない胸の高まりをごまかすためにタオルで緩む口元を隠したところで、噴き出る汗がついに目に沁みた。
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