なんで君だったんだろうね(綾夕)





だいたい、この人より、残念な人の方が少ない。
1~2回はゆかりにコーディネートしてもらったらしい服を、待ち合わせ場所でずっと決まり悪げに引っ張っていたこの人は、
(順に聞くのは色々な感情が邪魔をしたらしい)
最近はもう懲りたのかそれともあっちに愛想をつかされたのか、
(後者の方がずっとありそう、)
いつもの変なTシャツを着て、
(どうせ、ゆかりに聞けただけ及第、って、最初に思ってしまった時点でこちらの負けだ、)
私が来るのとほとんど変わらない時間に出没する。
(こちらが、「合わせて」あげないと後が面倒なのだ。)
(何度か失敗して、傷ついて、そうして覚えた。)

だから本当は、私の方が、大抵、ずっと前に来ている。
いかにも時間をつぶしてます、というのも癪だし、
寮から一緒に行こう、なんて絶対に言ってはあげないと決めてるから、
(だってそれをゆるしてしまったら、次からは絶対起こしてあげるところから始めなきゃいけなくなる!)
待ち合わせ場所を決めるのはいつも一苦労。
今日は、綾那、思ったよりはやく来た。
うれしくてあいさつとほぼ同時に飛びついたら、この人、駅裏のバス停脇で、素でびっくりした顔をした。

ふりじゃない、ふてくされた顔はきまって隠したいものだし、みせつけたっていい方に転んだりしない。
傷つく前に知っていた現実を、ミルフィーユのようにつき崩して私たちはショッピングモールを歩いている。
ただの通過点。ご飯のために立ち寄ったのに、ATMとゲームセンターだけに時間をつかって、そのくせプリクラは撮ってもらえなかった(はなっから選択肢に無い……なんて、最初から知ってるけどさ)。今度はポーズで、拗ねてみせる前にぽすり、落とされた、よくわからないキャラクターのぬいぐるみ。
いらないって言えないし、欲しかったとも言えないから。ありがとうだけつぶやいて、返された笑みに、それでも満足してしまって。
ばかみたいって知っている。ばかなんだって、知っている。
道行く人の5人に1人は、この人より魅力的にみえて。
そのうち3人に1人くらいは、きっと、本当にこの人よりずっと良い人だろう。

……どうして。この人に、なっちゃったのかなあ。

握った右手に、力をこめてみる。
ん? なんて、首を傾げたこの人は、私の方を向いてはくれるけれど。
ぶさいくなクマをくれたさっきのように笑いかけても、昨日の時間確認のときみたいにたずねかけても、くれない。
飾りっけのない、黒い手袋。去年プレゼントしたピンクの手編みは、その年のうちにごめんなくしちゃった、なんて言われた。
申し訳ないとは一応思っているらしい、でも誠実さの、まるで感じられない表情で。

口さびしい口元を、彼女へのプレゼントの練習台にしたマフラーで覆う。
山ほど買った薄ピンクの毛糸は、山のように失敗と化して、でも根気良く教えてくれた順の巾着と、短いマフラー、それから、この人にはちょっとだけ大きい、ミトン型の手袋くらいにはなった。
ちゅーして。
そう言ったら、この人は、少しだけうれしそうな顔をして。
そしてそれとおんなじ顔で。だめだよって言うんだろう。
うれしそうに、わらいながら。さっき欲しかったのとも、今欲しいのとも、まるでちがう笑みで、はねのけてみせるのだろう。

ばか、なんて、とうてい言えやしない雰囲気で。




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タイトルはふたりへのお題ったーよりお借りしました。












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