前半はやよかん×しー様。
いわゆるひとつのテンプレート。長編を書き上げる技量はないのでパッチワーク形式。
健全とは間違っても言えませんがかといってえろくもないです。えろいだけの話書きたいです。















「どういうつもりですか?」

いつものにっこりがなかったから、逆に私も覚悟を決めてしまったんだと、今なら思う。









「「とりっく おあ とりーと!!」」


いえーい、って部室でふたり、ポーズ決めて。
みんなの苦笑い、半分くらい待ってましたの笑みだったから、両手を広げて差し出して。
どさどさと降ってくるお菓子はどれもそれぞれみんならしいもので、楽しくて嬉しくって。
団長より先に言ってやる! って野望も達成できたし。地団駄踏んで悔しがってる周りで飛び跳ねてからかった。

紙製の三角帽子、針金と綿で作ったお揃いのしっぽに猫耳、ほうきはクロス!
プチ仮装のまま飛び出して、ジャー研にもねだったらお約束の反応と一緒に抱えきれないくらいの量が増えて。
三角帽子をひっくり返した宝箱からカボチャ色の袋に順々に移し替えながら、かんなとふたりでにやにやした。

一番量が多いのはオーゼキ、商店街製の袋詰めはハッチとロッキー、キャップたちは手作りで、くーみんのにはゆうのんたちからの分も入ってた。
ぱんぱんに膨らんだ袋の中、すごく甘いにおい。でもこの中にしー様のトリートはない。
ぽん、と高級チョコを差し出そうとしたしー様に、しー様からはあとでもらいます! と叫んだから。
だからこれからとりっく、もらいに行くの。











(ねえこれ、ずっと注ぎ続けてたらいいのかな?)

(だめだよ、しー様こわれちゃうかもしれないじゃん)

(え、でも、正気に戻っちゃうと困らない?)

(うん、困る。だから、魔法が解けたら)

(そっか、魔法が解けたら、だね)


あまいものは好き。

あまいあまい魔法のお菓子、つい飲み込みたくなっちゃうのを我慢して、しー様に流し込む。
力が抜けたしー様、かんなの声に素直に従って、というか半分くらいかんなが脱がせてるのを衣擦れの音で感じながら。息が苦しくなるまでちゅーし続ける。
しー様、服とか部屋とか汚したくないから抵抗しないんだろうけど、本当のちゅーなんかじゃないのはわかってるけど。
ハロウィンの悪い子は、とりっくだって言えば何してもいいって。
まちがいだってわかってる「めんざいふ」。











すまし顔の裏で、困りながらも優しいのがしー様だから。部活が終わったあとにかんなが一回重石になっただけでそのまま腰をおろしてくれた。ぱたりと開いた文庫本のカバーは秋色。
含み笑いに、邪気のないにこにこ、本当に何もわかってない底抜けの笑顔。色んな表情にばいばいと手を振って、つまりみんなを部室から追い出した。


「今開けてもいいですか? しー様」

「今食べてもいいですか? しー様」


これからは悪い子の時間。


「はい、しー様も!」

「え?」

「とりーとですよ、しー様」


あまくておいしいひとくちチョコ、口の中で転がして溶かして。ぐっと背伸びして。
とーちゃんの話やこっそり本棚から覗いた世界でしか知らなかったけど、大人がだめっていう階段って、結構簡単にのぼれちゃうんだ。











口の中も部屋の空気もあまったるくて、苦しくなる。


(そろそろ縛っちゃう?)

(……ううん、やめとこ?)

(えー、やよい大丈夫?)

(うん、最後までしー様の意思がないままとか、やだし)

(絶対怒られるし、そのまま逃げられるかもよ?)

(いいよ、それで)

(そっか)


しー様の両腕、後ろで押さえてるかんなも、顔が赤い。
くてっとしてるしー様のいつもは服に隠れてる白い肌。上半分だけど、きらきらした目で見つめてる。
かんなが楽しそうだから私も楽しいけど、嬉しそうな部分には、素直に同調できない。
なんでかな。ふたりでとりっく、いけるところまでやっちゃおう、って決めたときは同じようにわくわくしてたはずなんだけどな。


(やよい、そろそろ…)

(あ、うん、

「…そろそろ、なんです?」











びくり、震えたのはふたり同時。
慌てて口を塞ごうとして、避けられて失敗して、それにはっきりと傷ついた顔をしてしまったのが自分でもわかった。
ひどいことしてるの、こっちの方なのに。

「どういうつもりですか?」

さっきまで吸い付いてた、真っ赤な唇からこぼれ出ることば。
平気な顔してるけど、息が浅いしー様、顔も赤くて汗かいてるしー様。乱れた髪のあいだから、じっと見つめられて逃げられなくなる。
なんでいつもみたいに突き放す笑い方、しないんだろう。どうして背後から抱きついてるかんなを振りほどいたり、かんなの方を振り向いたり、しないのかな。
ぽろぽろ、こぼれていく、あまくてしあわせだとおもってたいたずらたち。

「しー様に、とりっくしたい、からです」

口を開けて何か言いかけたしー様に、もう魔法をかけられない唇を重ねる。
火照ってる頬に手を当ててからは目を閉じてしまったから、しー様の表情はわかんないまま。











「しー様、きもちい?」

やり方なんてよくわからないから、結局一番わかりやすく、ただ吸うばっかりになったけど。
自分の手で口元を覆ってるしー様、目を瞑って、私の方なんてみてくれないけど。
もうその気になったら私たちなんか一瞬で振り払えるはずなのに、抵抗らしい抵抗もなくて。
強めに吸ってみたときとか、ぺろりと舐め上げたときとか、時折小さく震えて。
なんだかすごくどきどきした。

「…っ……」

「あ、だめ!」

息を詰める音がしたと思ったら、かんなの声が降ってきた。
慌てて見上げたら、しー様の顔の上でふたりの手が指相撲みたいにからんでいた。
噛む、まではいかなかったけど歯が掠めちゃったみたいで、私が身を離すと同時に眉間に皺が寄ったしー様、結局かんなに右手を取られて濡れた口元があらわになる。
かんなに対してむっとしてしまった自分を持て余したまま、頭の芯が掴まれて引き寄せられ、頬からなぞるように唇をつけた。
なんか本物のちゅーっぽくなって、心の中で感動する。
小さくふるり、としたのはしー様、だけど、一緒に私も震えてたかもしれない。


「「しー様?」」

かんなとハモったのに、うっすら目を開けたしー様が私の方を向いてくれたのは、ポジショニングのせいだけじゃないって、嘘でもいいから信じていたい。











ぱしん、と乾いた音がして。振り払われたのはかんななのに、かんなの腕なのに自分が頬を引っ叩かれた心地がした。
血がのぼって熱い顔が、ひりひりする気がする。もう何度も目の奥で存在を主張していた涙がじわっと盛り上がって来ようとするのを、鼻を啜って、手に爪を立てて、食い止めようとする。
だって、あんな風に拒絶されたら。私だったら耐えられない。

「しー様、いやでした?」

私の様子をフォローするためのかんなの言葉が、耳を素通りしていく。
かんなだって今ので傷ついたはずなのに。

「…もう、いいでしょう?」

それに対するしー様の声も。かんなの腕に添えられたしー様の手が、腰の細いとこに巻き付いてたかんなをゆっくりと引き剥がしていく。
その上に私の小さな手を重ねると、一瞬だけ止まってくれたけど。
ポーズのあとの再開、までの時間は試合中に笛で止まってるものよりずっと短かった。
私の手の方が熱を持ってるのがわかるのは、しー様と私の手が触れ合ったままだから。
自分からは離せないから、どこまで続くかどきどきしながら見守って。

「やよい、離してください」

あのぱしん、が自分だったらきっとびんたされるより痛いだろうな、と思ってたのに。
しー様は私の手を最後まで振り払わなかった。











「…だめです、しー様」

「え?」

声をあげたのは、しー様じゃなくてかんな。
しー様は黙ったままだった。ちらりと一瞬だけこっちを見て、長いまつげの奥のきらめきが絡んで、鉛を飲んだみたいなきもちになる。
それでもとまれなかった。素直にとりーとをもらって、みんなよりちょっとだけ特別扱いをゆるしてくれたことに満足して、それで終わっておけばよかったのに。
ハロウィンなんか、だいきらいだ。

「逃げるなら、本気でやってください」

ああ、これ、やっぱり口に出しちゃいけない、暗黙の了解っていうやつだったのかな。











静けさが痛い。
暗黙、を破った私にのしかかる沈黙。部屋に吐かれる息、もう白くなくなって、むしろ熱いくらいで、それなのに身体の真ん中からブラックホールみたいに冷えていく。
やだ、こんなタイミングで泣きたくない。
ぎゅ、としー様の肩を押さえつけてしまったのは、迫ってくる涙を抑えるため。
そのまま床に倒されたしー様、眉を顰めたのは冷たいから、ですか?
なんで、ねえどうして、抵抗して、くれないんですか。

「ねえ、しー様」

固まってる私の下にいるしー様、私の背後に目線がいって、喉元がさらされて。
私はそれでも動けないまま。かんなが私の背中に最後のひと押しをする。

「しー様、かんな、しー様のこと好きです」

大好きです。
あまいあまいことば。ずっと一緒だった半身の、囁きにも近い明るい声。
頭がきーんとする。耳が痛い、塞いでしまいたい。
だって、その宣告は。

「でも、やよいの好きとはたぶん、ちがいます」

私たち、をこれまでとは決定的に違うものにしてしまうって、わかってたから。











ぱたん、と扉のしまる音は、かんなにしてはすごーく静かだったのに、びっくりするくらい響いた。
耳の奥でわんわんと反響する。でもそれさえ次第に小さくなって、やがて聞こえなくなって。
静かなしー様の呼吸と、ばかみたいにうるさい自分のそれだけがせかいのおとになってしまう。
床の上でぎゅうと押し付けられたままのかっこうで、しー様は身動ぎひとつしない。
今更かたかたと震え出した私の両手が、代わりにしー様の肩を揺らす。白くてきれいすぎる肌、ずっとしゃぶってたびっくりするくらい形の良い胸、顔を上げたくないから凝視してしまって、ただでさえ破れそうな心臓がますます悲鳴をあげる。
脱がせたのはかんなだけど、触ったのは私。えっちな意味で触りたかったのも、私。
私のせい。

「……あとで、いくらでも、怒られますから……っ」

「当たり前です」

びしり、と刺さることば。容赦無い。つめたくてするどくて、とてもきれい。
どこまでもしー様らしくて、こんなときなのに、ちょっとだけ笑えた。
…それで、気が抜けたからかな。

「…ごめんなさい、」

最後まで言わないつもりだったのに、零れてしまった、謝罪の言葉。
同時に、ふえ、と情けない声が出た。
あっという間に視界が水びたしになって、しー様が見えなくなっていく。
かんなならどうするかな、一緒に泣いてくれるかな。
でもこの感情は、これだけは、どうしようもないし苦しいばかりのものだけど、独り占めしていたいな。
両手はしー様の身体の上から動かせなくて、だからぱたぱたと涙が落ちていく。
胸の奥が痛い。頭もがんがんする。あ、鼻水垂れてきたやばいそれはしー様に落としたくない苦しい悲しいごめんなさいゆるしてくださいあやまるからいくらでもおこってもいいからおねがいおねがいですどうかきらわないで

「……あとで、と言いました」

す、と出された指先が、私の左目に迫って、水の膜を拭われて。
片側だけクリアになった視界の先、しー様は私をみてるけど、みていない。
しー様が私たちを甘やかしてくれるときの癖。

鼻水でずるずるのところには触らないのもしー様らしくて、目は合わないのに迷いなくぽんと差し出されるのはいつも、私たちが一番欲しいもので。
私が、一番欲しいもので。

「しーさまぁ…」

胸と頭だけじゃなくて、お腹の辺りまで爆発しそうで、この気持ちごと抱きしめたくなって。でもしー様に鼻水つけたくないからがばりと身を起こす。
さっき脱ぎ捨てた上着でごしごしと乱暴に顔中を拭ったら、呆れた、と全力で主張してるため息が聞こえた。

「しー様、好きです、大好きです、」

涙声で、かっこ悪くて、情けないありさまで。
すきでどうしようもなくて、こわかったからかんなまでまきこんで、いつもみたいにふざけたふりして、でも本気で抱きしめて、
ちゅーして、おしたおして、ひどいこと、して、

「それだけですか?」

しー様の否定も拒絶も聞きたくなかったから卑怯な手を使って、魔法が解けてからもいっぱい傷つけて、なのに、なんで、

「あいして、ます!」

そんな嬉しそうに、笑ってくれるんですか。







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告白のあとのキスは、まだちょっとだけチョコの味がした。
あったかくて、つばと混ざって溶けてるチョコレートって、なんだか血に似てる。
しー様の唇に自分のをべたべたと押し付けてるだけで満足っていうか、どうにかなっちゃいそうだったのに。
とん、と後頭部にしー様の指が当たったと思ったらそのまま指先だけでさらに接近させられる。
思わずわ、のかたちになった口に、ぬるっと何かが入ってきた。ますます強くなったしー様のにおいにどきどきしてるうちに、舌がさらわれて、もっとあまくてなまあったかいところまでつれていかれる。
私の舌、あんまり長くないみたいで、なんかすごいくっついたキスの割には、全然奥まで入らなかったけど。
しー様の口内で、舌も気持ちも何もかも夢中で絡め合って、うまく飲めないだえきも全部流し込んじゃって。
なんとなく苦しそうな気配のときもあったけど、結局離れたのは私の呼吸が限界になってから。
ようやく解放されたしー様、少し咳き込んでて。それから首元に頬をすり寄せてた私を、頭の後ろにあてられたままの左手で撫でてくれた。
どんどん膨らんで爆発しそうだった心臓はキスの間きゅうっと雑巾みたいに絞られてて、苦しかったのがみるみるほどけて、なんだかよくわからない熱になっていく。
好きとか愛してるとか、私も、みたいな同意さえしー様はしてくれなかったけど。
こんなにすっごい返事はないよね、っていうのはあとから思った話。











「んで結局最後までシタの?」

「いわないもーん!」

私に聞いて、後でバレたらブリザードで凍らされるの、そっちなのに。
にやにやと意味深(こないだテストで読み間違えてしー様に精神的ブリザードの刑を食らった。覚えた!)な笑顔をはりつかせてるハッチにべーっと舌を出す。ちょっとだけオーバーアクションなのは隣にかんながいないし、恥ずかしいから。

「…ま、聞かなくてもわかるか」

しみじみ言われて、顔が赤くなるのを抑えられなくて、ばっと方向転換して逃げダッシュする。
ハッチは追いかけてこない。変なとこ呼び出しといて。みんなの生ぬるい視線つきで連れ出しといて。なんかちょっと罰ゲームのにおいするけど。周囲の様子に低気圧化してくしー様本気で怖かったけど。

「しあわせだもんね!」

叫んだらちょっとすっきりした。背後の倉庫でなんか崩れる音したけど気にしない。
休憩時間はまだあるけど、まっすぐ河川敷まで駆ける。はやくラクロスしたい気持ちと、はやくしー様のところに戻りたい気持ちが燃え上がって、混ざって、ひとつになる。























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