その後のはなし
「よかったねえ」
「……それはどうも」
あはは、照れてる照れてる。
遠慮なく笑ってあげたら拗ねた顔をして。長い付き合いだけど、こんな風に可愛さが勝る反応は初めて見たかもしれない。
あの日からやよいちゃんがきらきらと幸せオーラを振りまいてるから、必然的にみんなにも彼女たちの恋物語の行方はばれてるんだけど。
それを改めて認識はしたくない、できないところが彼女の彼女たる由縁。
「でも待つばっかりで満足してたら、やよいちゃんが可哀想だよ」
「……私から手を出したら犯罪ではないですか」
「そこまでいかなくても、お互いに好きっていうだけでもよかったんじゃないの?」
「社会的には大差ありませんよ」
「ふたつ差なんだし、大丈夫だって」
社会的には、なんて言っちゃう逃げは流石に自分で自覚してるみたい。
思いを伝え合うだけじゃ足りないって貪欲に欲張ってるところ、見せてあげたらすごく喜ぶだろうに。
やよいちゃんは彼女のこんな姿、たぶん知らないだろうなあ。
ふたりきりのときにはもう見せてる、なら喜ばしいけど。
(自分のことになるととにかく全力で隠しちゃう子だし、何より好きな人の前でだもんねえ)
「やよいちゃんが不安になる前には、好きって言えるといいね」
「……」
あなたが相手じゃなかったら視線で刺し殺してます、みたいな表情をした彼女は、それから一度目を瞑って、ふうとため息をついた。
一体何を思い出していたのか、その吐息にはやよいちゃんに負けないくらい幸せが溶けていて。
甘さにあてられたから目を細める。こっちを向きたがらない髪を撫でたら憮然として余計にそっぽを向いた。
--------------------------------------------------------------------------------------
11XX
「誕生日おめでとうございます!」
「…ありがとうございます」
私が空元気混じりの明るさを精一杯絞り出してるのも、しー様の機嫌が未だ低気圧なのも、さっきまでみんなにからかわれてたせい。
嫌がられてるわけじゃないってわかってるから、えいっと包みを渡す。受け取るしー様の手をぎゅっとする。
「開けてもいいですか?」
「はーい、どうぞ!」
その後で小さく笑ったのには、少しだけ苦さが混じってた。
あ、の形で固まった私に向け直した笑みは、それをかき消したいつもの微苦笑で。触れ合ったままの手を取られ、引き寄せられる。
カカオ99%とココアパウダーくらい差のある苦さ。違う理由はわかんない。
「あのときは、すみませんでした」
「…なんで、しー様が謝るんですか」
「内緒です」
「ええー!?」
……それはひどいですよ、しー様。
「いつか、教えて差し上げます」
「しー様、ひどいです」
「だからこれからも、よろしくお願いしますね」
「…へ?」
「待っていてください」
「??」
ココアパウダーの甘さでぽつぽつと降りかかってくるから、苦いのがだんだん薄まってく。
意味はさっぱりわからないけど、すごく真剣そうだったからとりあえずこくんと頷いた。
少しだけお腹の中があったかくなったからこそ、もっとくっつきたくなって。
でも膝の上乗っていいですか? と聞いたら困った顔されそうだったから、聞かずに乗っかる。
邪魔です、と速攻で言われたけど嫌がってる声じゃなかったから無視。
「…栞、ですか」
「えへへ、手作りですよ」
できるだけ近くでしー様の反応が見たかったから。
服にしがみついてもやっぱりストップはかからない。ちょっとだけ頬が赤い。やった。
「かんなは五つ葉も見つけたんですよ!」
「…ああ、農薬に汚染されると突然変異し易いんですよね……」
「しー様、夢がないです」
「事実を述べているだけですが?」
見上げれば目線は逸らされるけど、知ってるもんね。
そういうの、照れ隠しっていうんですよ、しー様。
「使ってくださいね」
「…もちろんです」
押し花にした四つ葉のクローバー。
大好きです、とかハートマークいっぱい、とかやったら使ってくれなさそうだったからすっごくシンプルだけど。でもしー様が持つと派手に見えるくらいには明るい赤にしちゃったけど。
やよいとしー様の普段を足して割ったらこれくらいになるって思いませんか?
「…使いづらくなるので、やめてください」
「えー」
--------------------------------------------------------------------------------------
犬も食わない
「えへへ、しー様!」
「だめです」
「あーっ、けちー!」
「時と場所を考えなさい、といつも言っているでしょう」
「考えたってどうせだめっていうじゃないですか!」
「二十四時間ノンストップなご自分の所業をまずは改めなさい」
「やです。ゲームでもラブでも、うかうかしてたらチャンスが逃げるんですよ!」
「試合でも何でも、闇雲に数を撃つから精度が下がるんですよ」
「しー様が10回に1回もお願いを聞いてくれないのが悪いんですー!」
「ひとつ許したら10も20も要求してくるのはどこのどなたですか」
「ところでおふたりさん。
あれ、どう思う?」
「……どっちもどっち」
「卵と鶏理論ですね…」
「…喧嘩両成敗?」
「くーみん、それはちょっと違うかな」
「痴話喧嘩を成敗しても……あ、こういうの、バカップルっていうんですよね!」
「わ、ばか、」
「……そこの外野」
「げ、きたよ、
…つーかなんでうちを睨むのさ!?」
「…同学年マジック」
「ごめんなさい……」
「分析と反省は後でいいから、ふたりとも助けて、
…ちょ、シホ、ストップ! 時間は貴重なんだからうちに構わずやよいちゃんと――」
「やよいとは部活後も会いますから。
あなたと改めて場を設ける時間は勿体無いですし、なにせ貴重な休憩時間ですし?」
「うーわー、ばかっぷ……ナンデモナイデス、」
--------------------------------------------------------------------------------------
|