そういえば、希。
アンタってなんで、アイドルやってんの?


そういうことを、真っ直ぐに。
聞いてしまう(聞けてしまう)にこっちはこれだから傲慢で、恥知らずで。
すごく魅力的で、格好いいのだ。




きっといっしょうをかけても分からないこと(のぞにこ)




可愛いって言われた方が、きっとにこっちは喜ぶんやろうなあ。
当たり前じゃない!と胸を張って。でもぱっちりとした両の眼が輝いているのを、鼻の端っこが動いてるのを、隠す以前に気づくことすら無いままで。
格好悪いから可愛くて、誰に恥じることもないその様はやっぱりとても格好いい、皆のにこっちで、μ'sの誇る、皆のアイドルだ。
鼻歌のように思考を遊ばせているうちに、おお。いつの間にかすっかり吊り上がりきった眼差しがウチの方を射抜いていた。
やーん、だいたーん。凛ちゃんや穂乃果ちゃんには寛容な癖、ウチがそうやって巫山戯ると彼女は決まってそういう顔をする。


んー、にこっちと一緒にいたかったから、とかや、あかんの?

良いわけないじゃない!!
アイドルを何だと思ってるわけ!?


左横で、ウチのこと真っ直ぐに見上げてるままなのに、立ち止まることもない。


だってにこっちは、世界中の人を笑顔にするんやろ?

あったりまえじゃない

そん中に、ウチは入っとるん?

は?


けして立ち止まらずに歩き続ける、いや、走り続ける彼女がこうやって。
きらきら照らされ、きらきらの笑顔と汗を振りまいた、きらきらした夢のステージからぴょんと飛び降りた狭間のときに。


アンタが地球人類なら、ついでに笑顔にしてやるわよ。

あはは、あんがとなあ。


ウチの方を向いてくれるのは、一種の奇跡だと、今でもたまに思う。
そのステージに引っ張って行った一端は、本当にほんの一端だけは、自分にもあるけれど。
連れていけと、連れて行って欲しいと真っ直ぐすぎるくらい真っ直ぐに見つめられてしまっては、どうしようもなかった。手を振って送り出すだけのつもりだったこの両手は、絵里ちの背を押して、真姫ちゃんの頭を撫でて。
今では客席のみんなに広げて、時にはマイクを握ってしまったりさえしている。


じゃあウチは、にこっち含めた世界中の人を笑顔にするためにアイドルやるんや。

……ばかじゃないの

嬉しくないん?

…希のそういうところが嫌いだわ


大口叩いた口を閉じれば、あとはいつもの帰り道。
出せなかったことばをたくさんしまいこんで、さくさく歩く、ふたりで並んだらもう自転車は通れないくらいに狭い歩道、工事した跡のでこぼこが多い旧道。

にこっち。ウチはなあ。
全世界の人を笑顔に出来るなんて、そんな大それたこと、夢見てはいないんや。
それはにこっちが、あるいは穂乃果ちゃんが、叶えればいい望みで、願いやと思ってる。
だから引き換えに。真っ直ぐ前を見て、遠くを見据えてる子達の分まで、身近な幸せを与えられる人になりたいというのは。
わがままだろうか。大それた願いだろうか。過ぎた望み、だろうか。
真っ直ぐに、本当は一番に届けたい彼女に伝えることもできないままのウチの本音を、知った彼女はきっとおおいに呆れて、きっちり怒ってくれるやろうけど。
それの百分の一でも万分の一でも良い。ほんの少しでも喜んで、ウチのために。ウチだけのために、笑ってくれるだろうか。




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タイトルはふたりへのお題ったーよりお借りしました。










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