にこはっ、かわいい、アイドルなんですぅ!!


そんな捨て台詞を吐いて逃げ去るおんなのこが、どこにいるというのだろう。





きみだけ限定、特別。(+うみえり)





……なにしてるの

…うわあ


空気しかつかめなかった伸ばした手が、カッコ悪く宙に浮いたままの状態で彼女が現れるのは、いくらなんでもひどい巡り合わせだと思う。
もちろんさっき逃げた親友じゃなくて、もうひとりの方、あれ、にこっちのこと、まだ親友ってゆうていいんかな、いいかな、だって返事を、受け取ってもらえたわけじゃ、ないもんな。


……逃げられたん。

にこに?

うん。

何したのよ。


情けなく落ちた右手を見もしないで、
(まあ別に見て欲しかったわけじゃないんだけど、)
(じゃあどうして欲しかったって、ごまかしのきっかけを、作って欲しかったんや、けど、)
こっちの都合なんか知ったこっちゃないえりちは、空き教室の適当な椅子にどすんと腰をかける。
(そこの席の子、μ’sん中ではいちばんに海未がお気に入りなんよ、と、教えてあげようかと思ってやめた。)
(彼女に八つ当たりしたいわけでもないのだ。)
(……今は、まだ。)


……告白、の、つもりやったんだけどなぁ

あら、がんばったじゃない。
それじゃプロポーズのお言葉は?

……したんやない。
されたん。

わーお。


なにやら非常に外国人らしい発音で感嘆の歓声を上げたえりちは、ぐいとこっちに身を乗り出してくる。
あー、やっぱり、後で言うたろかな。イズミさんだって海未ちゃんにちょっと困ったように笑いかけてもらえば本望やろ。


それで?

……にこっちのかっこええところが好きやって。


言うた……ん、やけど。


……あはは!


ばんばん叩かれてるイズミさんの机。そのうちよだれでも垂れるんちゃうんってくらい。
それはさすがにアイドルとしてどーかと思うんやけどえりち。
……あかん、アイドルなんてゆうから、思い出しちゃったやない……


追いかけないの?

……そんな気力ない。

そ。


おつかれさま。
わしゃわしゃとうちの髪を勝手に撫でるえりちはまだ含み笑いだ。
どーでもいーけどこの体勢、海未が見たら誤解されるんやないかなぁ。にこっちなら大丈夫やろけど。……大丈夫、やんな?


海未はかっこよくてかわいいのよ?

…うわあ……


こっちが要らん心配しとるうちにとーとつに真顔になったと思ったらこれや。
最近えりちがたまに心配になる。ダンス指導は相変わらずやし、他のトレーニングもしっかりしとるし、うち、えりちの声もダンスも好きやから、(まあにこっちのほどやないけど、)ちゃんとそーゆーとこ、一目置いとるつもりなんやけど、
……それが揺らぐよーな甘ったるい顔。そーゆーの、……だって、……ずるい。
うちだってしてみたい。


勘弁してや……


思いっきり首傾けて仰いだ先はうちのクラスの天井だった。当たり前やけど、なんか、胸がざわついた。


かっこいいところがかわいいの。

…もーええって、

いやよ。
こういう話、希とできるようになるの、楽しみにしてるんだから。


だから行ってらっしゃい。
今度こそ誤解されても仕方が無いくらいの距離で諭された言葉は、すごい自分勝手やから、なんか、逆に、えりちらしくて。
そういう遠慮をしないでいてくれるところが、すごい、親友として、好きなとこで。
それだけ足りへんって。思った相手はうちのお姫様で王子様。追いかけるのはどっちの役目なんて考えてる場合やない、とびきりのおんなのこ。


ん。
行ってくるわ。

行ってらっしゃい。


えりちの笑い方はどう控えめに表現してもにたにたの域から脱してなかったから、よだれまではいかなくても目の端に涙が溜まってるとびきり自分勝手な親友のために、
その席を占領されたイズミさんには近々とびきり喜んでもらうことにして、とびきりかわいいアイドルなにこっちを、うちは。
それだけの存在にはしてあげられないってゆうんを告白への返答にするために、まっすぐに教室を飛び出した。






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タイトルはふたりへのお題ったーよりお借りしました。










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