約束(うみえり)
今の海未には、何が見えているのだろう。
私の声は、どんな風に、聞こえているのだろう。
動かないの?
ふっ、と笑ってみせればむっとした顔をして、
それから年相応の焦り顔、年甲斐なく滲む、情欲。
ほんのわずかを一生懸命に、頭の後ろの闇に隠した海未は。
残り全部をシーツに落っことして、その波の中で海未に囲われている私に、降らせてきた。
……なんだかズルいです。
そう?
こういうときに年上風を吹かせる絵里は、ズルいです。
とても。
――絵里。
海未の、その呼び方こそ。
私をとがめるのに、ただ甘いばかりの響きが、空気が。卑怯で、ズルい。
他愛ない(けれど、真剣な)攻防を、無邪気な(それでいて、欲望だらけの)触れ合いを。
きっとどちらも楽しんでいて、そして同じくらい先に進めたいと渇望していた。
こういうものに、正解も不正解もないわよ
……ですが
いいの。海未がしたいようにして?
今日のきっかけを作ったのは私だから、これから先は、海未が頑張る番でしょう?
なんて強がってみても、ほら、結局同じくらいに緊張してしまっている、心臓を教えてあげようと胸に手を導けば途端固まる身体。
さっきまでもがちがちだったのに、更に上があるとは。口の端が上がるのを感じながら海未の右手を両手で包む。目を閉じる。
…っ
失敗したら、笑ってあげる
……え?
10年後も、50年後も、笑ってあげるわ
……っ!
こわごわ目を開けたら予想よりはるか近くに海未の顔があって、どくりどくりと跳ね回る心臓が、一瞬で止まってしまうかと思った。
一世一代の告白は、山ほど願う一生のお願いに似ていて、何度も繰り返す、もう一度だけ、の声が耳に響く。
幻聴だけれど、それは確かに海未の声で、欲望で、願いだから。
……たいした、嫌がらせですね
でしょう?
魔女も意地悪も、キャラじゃない。
純情も恋愛も、キャラじゃなかった、はずなのに。
不器用な口づけは、続きをねだる接触は、とても、私たちらしくて。
年齢もキャラも関係ないと、口にするまでもなく思い知らされてしまうだろう今からに、ごくりと喉を鳴らしたのが。
ほぼ同時だったことにふたりして笑いあって、今度はさっきよりずっと上手に、唇が重なった。
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