あの人に、絶望を。
明け渡すくらいなら。
……うみ?
見開いた眼で、きれいな青色で、私を見つめてくる、彼女を。
わたしは。
完璧だってただの壁(うみえり)
甘いものを摂取したら、いつか。しっぺ返しが来るのだ。
酸っぱい果実を堪能しながら、脳裏をよぎるのは、そんな。
弓道の講師が厳かに告げたのだったか、いつかの担任が薄笑いで言い放ったのだか。
ロクに覚えていやしないのに頭にこびりついて消えない、ありきたりの諫言。
……もう、いいでしょう?
絶望を、あげたかった。
この人に、私を。刻みつけて、みたかった。
私の名を、やさしく呼んで欲しかった。
それだけで良かった、はずなのに。
……えり、
は……
ただ、甘いのは。
私があなたを、呼ぶ声ばかりで。
緻密に組みあがった遺伝子の螺旋。
投げ捨てたDNAの端がぬらぬらと光る、見せつけてくる歪、罪の所在。
私だけが罰せられるのならば良かった。
拒絶しない、否定しないこの人の本心はわからないまま、後悔を、封じ込めたまま。
……すきです。
や……
言えないから紡ぐ、本気だから誤魔化してしまう、愛を囁けないから降らせて、贖おうとする、
私の言葉は彼女に突き刺さって、だから届かないままで、代わりに。
この手が。
*
……結局。
拒まないのですね
え?
随分と、気持ちよさそうにみえたので。
ああ、言ってしまった。
もうおしまい、なのに過去形で語ることすら出来ない、融通が利かないくせ夢ばかりみている、石頭は柔らかくなれないままで、さっきまでの絵里を焼きつけて、刻みつけて、それでも飽き足らずに次を欲しがろうとする。
……AVみたいなこと、言わないでよ
……そうなのですか。
そのようなものを、見たことはないのですが。
絵里の顔が紅く染まる。
絵里だって17歳、そもそも高校生の身ではいけないはず、一体どこで、どんな風に?
淫らな映像の内容よりも、よほどそちらが気になるけれど、目下の関心事で重大事は、眼下に捕らえた少女、今は私しか知らない彼女、どうすればいいのかわからないのに知っていた、本当は少しだけわかっていた、無様で不格好で、私の呼吸ばかりがあがる世界で、小さくなるべきなのは、きっと私の方なのだ。
もう逃げられるのに、本当はずっと逃げられたはずなのに、今だってすごく恥ずかしがっているというのに。
目の前の絵里は、私の目の前にいて、居心地悪そうにしているけれど、いつもの絵里で。
――どうして。
きれい、ですね。絵里は。
っ、
ついてしまったため息は、絶望的なくらいに甘かった。
……そう
…え、そう返すんですか
不美人でない、自覚はあるもの。
っ、
ふふ、と笑う。こんなときに、こんな状況で、さっきまで息を殺して、目は逸らすか睨むか、抵抗の意志を示すばかりで、涙の気配さえみせていたくせに、いっそ楽しげに、笑ってしまう絵里は。絶望的なくらいに綺麗で、うつくしかった。
海未は、かわいいわね
っな!
かわいいのよ。
だから泣かないで。
――どうして。
この絶望は、こんなにも。あたたかいのでしょう。
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タイトルはふたりへのお題ったーよりお借りしました。
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