二月の雨(如月と山城)







時雨に会いに行く途中、気まぐれを起こして先日あの子が教えてくれた抜け道を使ってみようとしたら、冗談みたいに通り雨に降られた。
慌てて手近なプレハブに逃げ込んだら、はっきり言って嫌いな駆逐艦がひとりいた。
このあばら家はもちろん彼女の部屋では無いが、かといってまさか追い出すわけにもいかない。
雨宿りでなかったら間違いなく好き好んで近づきなどしなかった如月との、もしかしなくてもそれが初めてのまともな会話だった。







……不幸だわ

そうですわね。

答えなくていいわよ。

そうですわね。

喧嘩売ってるの。

まさか。


喉の奥で笑う彼女を、視線で殺せるものなら、殺ってしまいたい。


どうせなら不幸艦どうし、仲良くしませんか

御免だわ

今この時だけですよ

あなたなんてたいしたことないじゃない。
あなた、なんて、


そう言って、私は、この子が鉄の塊だった頃のことを、何も知らないことに気づく。
言い詰まった私に、彼女が向けてきた表情を知らないのは、私が、いつものように視線を床に落として、固定していたからだ。







戦果などありませんよ

あっ、そう。

不幸を嘆く暇(いとま)すら、与えられませんでしたの。


なるだけ皮肉が混じらないように気を使ってさえ差し上げたというのに。南方の気まぐれな雨と同様に、あっという間に決まり悪げに、ふてくされたような表情を浮かべてしまうのだから、なるほど。
あの、穏やかにいつも笑っている(仮面のかぶり方が若干似てる気がするから、たぶん、お互いに苦手だと認識している)白露型の少女が思わず執心してしまうのも、まあ、わからなくもない。


だから今生では、思い切り好きに生きてゆくのです

…それが男に媚を売ることだというの


途端突き刺さる、煮詰められた苛立ちの炎が心地良い。ああ、この人は、こんな顔もできるのだ。
自分より恵まれた人たちを仰いでは、ぐつぐつ、煮立って、煮込まれきってしまいには炭になった昏い瞳を向けているときとは違う。
姉を再び失って、けれど泣く暇すら(喪に服す時間すら)与えられず、白と赤の鮮やかな衣装のまま、姉の沈んだ戦場に旅立たねばならなかったとき、瞳に宿っていた、この世界まるごとへの燃えるような憎悪とも、違う。
時雨も知らないに違いない、――ただ見下し、蔑む眼。


きれいなあなたに妬いていただける程なら、上々ですわね

……やめて頂戴


思わず本心から口にしてしまうくらい、鈍く燃える瞳はすごくきれいだった。
最近はすっかり丸くなってきたものだ、なんて、思っていたのに。


「……うちの提督は女だが」

「あら、鎮守府の中でしか恋をしてはいけないなんてことは、ありませんでしょう?」


すっかり丸くなったこの人の妹は、この人の姉を待つ間に、同じようなやりとりをしては最後には小さく、笑ってさえくれたというのに。
扶桑さんからなどは到底無理でも、時雨からなら、奪ってしまおうか。
私は結局同性愛者にも両性愛者にもなれなかったのに、思わず一瞬でもそう考えてしまうくらいには、魅力的な表情を、雨に濡れた髪の隙間から、浮かべていた。










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XX13.8.2X  2-4にて、扶桑轟沈。
XX13.8.27  2-4突破。
       陸奥(48)那智(30)赤城(24)伊勢(13)山城(23)加賀(15)。
XX14.8.10現在  
       1-5攻略部隊:山城(45)瑞鳳(72)不知火(75)如月(72)











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