あしたを紡ごう(加賀×翔鶴)
……あなたは赤城さんと、会ってしまった
………ええ
たった一度だけ。
“今からすぐ征(ゆ)かなければならないの” そういって正装で訪れた、おふたりの姿は私にはただ。――眩しかった。
“お気を付けて” それしか口にできなかったから、はじめましてもいらっしゃいも私たちのあいだにはなかった。この人も、加賀さんも後々すら言ってはくれなかったから、私は果たしてこの鎮守府にいていい存在なのかどうか、確証が持てずに不安定だった時期さえ持っている。
……代わりにすらなれなくて、ごめんなさい
懺悔する前に唇を塞いできたのは、きっと、この人の優しさだ。
加賀さんのエゴイストぶりに、私はいつだって救われている。
……ごめんなさいね
まだ見ぬあの子を、勝手に希(こいねが)うのも。
一時(いっとき)共にあった者、守りきれなかった存在を取りこぼした記憶に、脅かされ続けるのも。
私たちは、少しばかり、疲れてしまった。
この姿になって、初めて目にした先輩方の勇姿は、あまりに眩しすぎて、うっすらとしか記憶にない、……というよりは、
主力艦隊が帰投したとの放送に、胸を高鳴らせて向かった先、出迎えられた加賀さんのあの表情の方を、私は、よく覚えている。
あの感情を、慟哭すら出来なかった澱みを、目の当たりにしてしまったせいで。
いやになるくらい、染みついている。
*
私でよかったの?
もう一度言ったら、怒ります
一度そうすると決めたのだから、お互い、謝罪だけはしないと約束して寝所に足を踏み入れたはずなのに。
こんな形で、私に罪をなすりつけようとする加賀さんは、私に罵倒して欲しいのだろうから、こちらも遠慮などしない。
言い直すわ。
どうだった?
……言いたくありません
すぐに意を察して、意地悪く訊いてくる顔はもちろん、それはもう、思い切り抓りあげさせてもらった。
五航戦の方がずっと力が強いこと、知らないわけでは、無いでしょう?
その身を持って体感し直したいようですから、いくらでもどうぞ?
……ひどいわね
どちらが、ですか
さっきまで散々恥ずかしいことをしておいて今更、と、頭の片隅では思うのだけれど。
いったん冷静になってしまってから言わせようとする相手には天誅のひとつくらいくだしてもいいと、なにせ同じところから声がしますので。
主に、陸奥さんとか、飛鷹さん辺りの声。宴会で静かに華やいでいた一角で、密やかに交わされていた会話を、最初から最後まで盗み聞いたような形になってしまったのは、その隣で、ふたりで向かい合って盃を傾けあっていた私たちは、ほとんど、会話らしい会話をしなかったからです。(……まあもっとも、加賀さんも、割合興味深そうに聞いていた気もしましたが。)
割と本気なのだけれど
……え?
次回の参考にしたいじゃない
……いま聞かなくちゃならないところがすでに、大減点ですよ……
よかった、けれど。
それはこの人の不器用な優しさが、遺憾なく発揮されていたからであって。
つまりあなたが、加賀さんが相手だったからという理由ひとつで、くだした評価でありますから。
ええと、じゃあ、してる途中に聞けばいいの?
……っ!
そ、…んな恥ずかしい真似したら、怒りますよ!
……なるほど。
思わず胸ぐらを掴みたくなった。加賀さんも裸だから、掴むところはどこにもないのだけれど、ならば両肩を掴んで、ゆっさゆっさ揺さぶって、その、思考回路まるごと、攪拌して消してしまいたい、です!
少なくとも次は無し、ということはなさそうね。
よかったわ。
本当に、心から安堵したかのような声で言って、私の腕にそっと触れてくるのですから。
……そこまで自信無かったんですか、とは、言ったらしばらく立ち直れなさそうだから言わないことにしておきました。
…まあ、次、から、少しずつ改善していけばいいことでも、ありますし。
--------------------------------------------------------------------------------------
XX13.09.11 建造にて、翔鶴着任。
同日、 3-3にて赤城(51)轟沈。
XX14.08.10現在 瑞鶴未実装。
赤城とも未だ再会できず。(自業自得)
タイトルはふたりへのお題ったーよりお借りしました。
|
|