まっすぐなひと（古鷹型と青葉型） 執務室にずっと鉄格子はめ込んでいる人が、まともなわけないじゃんか。 それは、まあ、同意しないでもないといいますか、むしろ諸手を挙げて賛同したいことではあるのですが。 （うちの提督は、率いる部下がどんな悪口を言ったところで右から左へと受け流す、一種気持ち悪い人間です。 　もっともどんなに賛美や追従をしたところで優遇されるわけでも作戦が変わるわけでも無いので、ある種、とても軍人らしいとも言えますが。） 提督のことは今はどうでもいいんですよ。何を言ったって何をしたって、今日の古鷹さんは演習のお目付け役ですし、青葉はオリョール海哨戒の旗艦ですし、再 来週はふたり揃って新海域です。衣笠だって来週の後半は青葉と一緒にバシー島沖です。最近の近海はめっきり平和なので、この状態を維持するのが、青葉たち 重巡にとってはいちばんのお役目なのです。……再来週の遠出は、ちょっとどころではなく、胃がキリキリするレベルで不安ですが、 そんな軍人らしい青葉の思考は、ハン、と鼻で笑った加古によって遮られました。なんかそれ、衣笠がたまにする奴にとっても似てるんですけど。どっちがどっ ちに似たんでしょうか……伝染するのは悪いことの方がずっと早いというのは、情報でも癖でも、変わらないみたいですねえ。 あいつ、意外に打算的だぜ ……そんなこと、 まーそれは言いすぎにしてもさ。 青葉は、ちょっと、古鷹のこと、美化しすぎ なんせこの鎮守府で秘書艦の最長記録持ちだよ？ ふふん、と笑ってみせた加古に、「…旗艦歴はぎりぎりで、陸奥姉さんがトップだったはずですが」としか返せなかった青葉が劣勢であることなんか、もしこの場に第三者がいたら、十人中十人が賛同したに違いなかったのでした。 じゃー第一艦隊歴！　ずっと、ずーっと、２番手の位置にいたじゃない、あの子 …衣笠、古鷹さんをあの子なんて呼ばないでください あーもう面倒くせーなー、お前！！ 加古がうんざりする声を出すのも、それはまあ、当然だと思います。 でも青葉にだって、いつもへらへら、ぺらっぺらと定評のあるブン屋気取りのダメな子にだって、ゆずれないことくらい、あるんですよ。 ――あの人、まっすぐ、ですから。 それがすなわちキレイってことには、ならないのよ …でも、 ……あおば、 もーやめとけ、衣笠。 かたくなな青葉を置いて、ぱたん、閉められる扉。 わかってるんですよ、だって青葉、ずっと古鷹さんのこと、みてきましたもの。 恐れ多くも重巡２番手として、いちばん長い間、古鷹さんのこと、支えてきたんですから。 配属歴だけなら実は古鷹さんよりも長くって、だから、あの、衣笠とふたり、いや、三川艦隊の皆で内緒にしようって決めた、古鷹さんのあの表情も、よぅく知ってるのです。あの頃の鎮守府の雰囲気まであわせて、しみついちゃってるんです。 陸奥姉さんも、榛名さんも、歪まなかった。ご自分の性格をそれなりに自覚しているのでしょうか、うちの提督は、そんなひとばかりをおそばにおいて、……昔はいつも、無茶な任務を達成しようと、 ――ここは良い部隊ですね。 にこやかにそう告げた後、何事も無く戦果と加古の喪失を報告したあの横顔も、青葉、一番近いところで見てましたから。 ご苦労さまと、いつものねぎらいをひとつ寄越した提督に、差し出した紙束（鳥海さんが書いた簡易報告）が、そよぎともしなかったときの古鷹さんのあの瞳、すごく、きれいだったんですから。 だから。 まっすぐじゃないのは青葉なだけで、青葉がこんなだから、相対的に、古鷹さんが、そうなるだけで、 ただ、それだけなんですよ。 -------------------------------------------------------------------------------------- XX13.9.10　　2-3にて、加古轟沈。 XX13.9.26　　真・三川艦隊クエスト達成。 　　　　　　　加古（20）古鷹（61）天龍（26）鳥海（28）衣笠（31）青葉（42）。