まるで握りつぶしたがっているかのような抱擁は、ただの懇願でした。
流れ星のひとつすら(大和と鳳翔)
あなたのことがずっとうらやましかったんです
…え?
とても苦しそうな声。
私をこんなに強く抱きしめておいて、呼吸すら、ままならないようにしておいて、ああ、けれどきっとあなたは私がこんな状況に陥っていることなど気づいていないのでしょう。自分が今、どんな声をあげているのかも、どんなに恐ろしいことを、私に、告げようとしているのかも。
戦さ場に、一度も立たなかったからですか
違います!!
悲鳴は、耳から、とても近いところで発されたものですから。
それは良く、きいんと鼓膜に響いて、しばらくの間、私の聴覚を使い物にならなくさせました。
……から、……の、……で、
…やまとさん?
苦しそうに息を吐き出している彼女が、もう半分以上、いえすっかり、泣き出してしまっているのに気づいたのは、だから、ずいぶん、遅くなってしまったのでした。
みなさんのお役に立ちたかった
大和さん、あなたは、
いいえ、……いいえ!
あなたみたいには、とても。
そんなことはありません。
繰り返される問答は、どうしようもなく隔たっている者同士のそれで、私たちはこんなに近いのに、こんなにも寂しい。
あなたみたいに、なりたかった
ひとの叡智を極めて作られたあなたが、わたしのような旧型艦を、練習艦を、そんな風に、羨むものではありません。
言ってしまうのは簡単でしたが、言ったら最後、このやさしい子は、おおきなこどもは、きっと、心を傷つけてしまうでしょう。今のこの体勢が、私のいろいろなところを、ぐわんぐわんと、揺さぶってこまらせていることなど全然気づけてはいないのと同じように、無自覚のまま、大和さん自身のやわらかなところを傷つかせたままにして、しまうのでしょう。
そんなひどいことはできません。私が少しばかり苦しいくらいならなんともありませんが、このやさしい子を、いつも泣きそうな顔で強い強い敵を屠っているおおきなけだものを、これ以上、ひどい目に遭わせることなんて、とんでもない。
ありがとうございます
っ!!
だから私は、自分が出せる、せいいっぱいのやさしさというものを籠めて、彼女に感謝を返したのでした。こんな立派な方に、こうまで手放しに褒められることに、艦娘の端くれとして、誇らしい気持ちも――まあ少しくらいは、確かに、あったものですから。
両腕ごと抱きしめられてしまっていますので、頭や背中を撫でてあげるということは、出来なかったのですけれども。
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