単発でNTR。
赤城×翔鶴前提で翔鶴さんと鳳翔さんがいちゃついてたり加賀さんが赤城さんに襲われてたり。






やまない世界に背を向けて







帰らないんですか?


もう店じまいを済ませた後でカウンターにひとり残る彼女に聞くのは、もちろん、趣味の悪い戯れのひとつに過ぎない。


そうですね。


薄い黄色をまるく残した、ワイングラスをゆらゆらと揺らす翔鶴さんは澄まし顔。
残り半分を随分長い時間をかけて、ようやく飲み干すところで少しだけ顔をあげて、意趣返しのような笑みをその白い頬を置き去りにしたままで作り出す。


残念ながら。
さすがに恋人が隣の隣で浮気してる部屋で寝られるほど、図太くできてないんですよ。

あら。
自室に連れ込むなんて、赤城さんらしく無いですね

連れ込んでませんから。

あらら……ついに、ですか。

そう。ついに、です


わかりやすく拗ねてみせたつもりなのだろう翔鶴さんは、けれどそれについては成功しているとは言い難い。
空のグラスをついと差し出した、それを注(つ)ぐときにはもうこうなることを承諾し合っていた、共犯のしるしにショットグラスをあとひとつだけ。


それでは。
毒と媚薬、どちらが良いですか?

……明日に残らない方でお願いします。


眼を瞬かせたのは一瞬だけ、翔鶴さんは私の手ごと掬うように小さな悪戯を受け取って、躊躇もせずに飲み干した。
私の言葉を何一つ信じていないくせに。謀られる可能性を考慮にいれてすらいないのは、信頼というほどの甘さもなく、でも傲慢の片鱗がちらつくわけでもない。
力の均衡、主導権のようなものについて、考えたことがないわけではないけれど。


荒れますねえ

瑞鶴が、ですけどね

ご愁傷様。

まったくです


空母寮の一室で行われている睦事について他人ごとのように語る彼女と私は、30分ほど前に当事者になることを決め合った。
今度のグラスと引き換えに渡した台拭きは、手馴れた様子で本来の目的を果たしていく。
こうして手伝ってもらえるのは素直に有り難いし、赤城さんがかなわない(とまではいかずとも、彼女に潰されない)人材は貴重なのだと、重々知ってもいる。
ここだけみれば私が有利なパワーバランス。けれどそれだけでもないことを、翔鶴さんも、よく知っている。
詮無い思考に沈みながら厨房内の後片付けをこなしていたところで、がたん、と、振動。


あら、意外と早かったですね。


分量を間違えたかと思うくらい。
この空間に酔っ払いはひとりだけいるが、彼女は間違っても酔って暴れるたちではない。
そこまでは行かずとも、もう少しくらい、ここにいるときくらいもっと肩の力を抜けばいいのにといつも思う。


……普通、ほんとうに盛(も)りますか……っ


ぐだぐだになりたくてここに来ているのでしょうに、結局優しさの皮ひとつしか。
置き去りにできない彼女をみると、性悪な女になりたくて仕方がなくなってしまう。


毒では無いので、ご安心を?

……明日に響いたら恨みますよ……


一度沈んだ身体を立て直して、意地のように机と椅子を拭いていくのを眺めるのは、なかなかに愉快な心地だった。
けれどこちらも作業の手を止めていては本末転倒なので、しつこい汚れをつけた皿や椀をさらさらと水に沈めてゆく。
戯れのようなこのひと時は、できるだけ早く終わらせるという目的を共有しているからこそ楽しい。
そういうところは優しいですよねと後で言われたけれど、何が優しいものだろうか。
(もっとも、翔鶴さんも、何が優しいものですかという目をしながら言い放たれたのだけれど。)


…この感覚で、貴女がお持ちということは、航戦寮からのいただきものですか…

お客様の情報は、といいたいところですが、さすが。
お詳しいですねえ

好きで詳しくなったわけじゃありませんけどね……っ


熱そうで、つらそうで、ただただ甘ったるい。
最後にやけくそのように投げられた台布巾は、きちんと袋状に丸められていた。
どうやらこちらまで手を洗いにくる気はなさそうなので、新しいお絞りをひとつ持ち出して。
がしゃがしゃと。さっき自分もみていたはずの施錠を一応確認している翔鶴さんはけれど膝が震えているし、蕩けた顔を隠す気配もない。


……駄目になる前に、下着、脱がせてください……

まだ履いていらしたんですか。


恥じらいを持たない要求に、飾らない冗談。ふたりでふふっと笑みを零す。
スカートの中に手をもぐりこませれば、あげられる腰はやはり少しばかりつらそうで。
……やっぱり分量、誤ったでしょうか。意外と艦種毎に違っていたりして。


…タオルかなにか、

私のエプロンでいいでしょう?


もう一度腰を上げさせるついでに、今度は、腿まで意地悪く撫でておいた。
はぁっと漏れる息は安堵が滲んでいて、焦燥がみえないのは紛うことなく意地だろう。


あー……これ、私、今日ずっとこっち側ですか……

その身体でがんばりたいなら、どうぞ?


応えとしてつかれた長いため息が終わる頃、彼女に顎を取られてきつい口づけを仕掛けられる。
扶桑さんからの横流し品、どんな味がするかと思っていたのに翔鶴さんの口内をいくらまさぐってもわからなくて。拭き掃除の途中に仕掛けてでも、もう少しはやくなだれ込んでおけばよかったかもしれないと思った。






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