Yes, I love you.
ひえいさん!!
……はい?
――好きです。
……っ!?
ノックされて、鍵を外して。
扉を開けたと思ったら飛びつかれた。わたしじゃなかったらどうするつもりだったんですか、事実隣には霧島がいるんですが、……霧島に抱きついてたりしたらわたしが許しませんけども、ええと、霧島、ごめん出てって。
アイコンタクトは無事に通じて、相部屋はあっという間にわたしと雪風、ふたりだけになる。
首に回った重み、こんな風に抱きつかれるのは、……本当のことを言えばはじめてで。
嬉しいより先にびっくりしたこころが、跳ね回って暴れている。
ゆきかぜ?
…ひえい、さん。
ごめんなさい。
あの日何度も聞いた、謝罪がまた耳に落ちる。
咄嗟に眉を顰めてしまったのが伝わったようで、がばっと離れようとしたのだろう彼女の腰に腕を回し、離しませんよと主張。もがいたりで抵抗されることもなく落ち着いて、そのまま、
ふたりして倒れ込んだ床はずいぶん冷たかったから。布団の上にしませんか? という無言のおねだりも、雪風は、ちゃんと聞き届けてくれた。
……こういう意思疎通なら、わたしたちは。ずいぶん得意なのだ。
*
比叡さん。
…ごめんなさい。
…どうしたんですか。
……ごめん、なさい。
謝られると、困っちゃいます。
…もっと、ずっと、困らせました。
そんなこと、
あるんです。
だから、謝らせてください。
わたしの膝の上、乗ったと思ったらさっきみたいに抱きつかれて。そのままわたしの耳元に唇を寄せて。
そんなすごい格好で、ささやかれ続ける謝罪には、もういい加減、こころが痛かった。
…はい、じゃあ、受け取りました。
だからもう、
……っ、
いいんですよ。
この間のことは、……まあ、お互い様というやつです。
わたしだって、悪かったし。何もできないまま、気を飛ばしてしまうなんて……本当に。みっともなかった。
もうこれで終わってしまったかもしれないとさえ思っていたのに。
勇気を出して飛び込んできてくれた、それだけで、本当は。
ゆきかぜ。
っ。
わたしこそ、ごめんなさい。
そんな!
だから一回だけは言っておきたくて。
ね、わたしたち。ずいぶんことばが足りなかったと思いませんか。
それは、お互い、承知し合っていたことですけど。
いまなら、お互い、やり直せると思いませんか。
…愛してます。
ふ、……ぅっ、……ふぇ、
とびきりの愛情を籠めていった、もう一度だけ伝えて、それでだめだったら諦めようと覚悟していた、とっても恥ずかしいことばは。
はじめてみた雪風の涙というかたちで、わたしの前で、溶けていきました。
*
……わたしも、
…え?
いい加減泣き疲れてしまっただろうか、髪を撫で続けながらそんなことを考えていた頃につぶやかれた声は。
ほんのり恥ずかしそうで、すごく幸福そうで、そして少し意地悪が混ざる色をしていた。
比叡さんがいちばん、なんです
…っ、
愛ということばをわざと使わなかった、雪風はまだ顔をみせてくれない。
ねえ、それは、もうひとつ。欲しがればくれますか。
あなたが望まないかもしれないものを、欲しがっても、いいんですか。
いちばんで、いいですか?
はい、嬉しいです。
やっぱり怖くてねだれなかったわたしにくれることばが、ああ、でも、これだけで、嬉しすぎて。
わたしも、泣いて、しまいそう。
*
キスするのは、なんだかすごく、久しぶりだった。
そういえば前回は、キスっていうよりは、
……ずいぶんひどい唇の塞ぎ方をしてしまった、気がします。
……ぁ……
キスしてる最中ずっと、ふるふると揺れていたから。
一度開放して、比叡さんが大きく呼吸を一度したところで改めて押し倒す。
なるべく痛くないようにしたつもりだし、比叡さんの頭も、目論見通りきっちり枕に収まったので今度は遠慮なく。
舌を咥えて、吸い上げ続けながら唾液を流し込んだら、彼女の肌はあっという間に熱くなって頭に埋められたままの指に力が籠った。
引き離すんじゃなくて、爪を立ててくるのが嬉しかったから痛くっても我慢。呻き声が口内に直接吹き込まれ、脳まで響くのが気持ち良い。
ぷはっ、……は、……はぁっ、
…ふ、……ん、
っっ?!
何度だってちゅーする。
そもそもの肺活量とか、体力とか、そういうの、関係なくできるくらいには、わたしと比叡さん、えっち、してきましたもん。
目を閉じた比叡さん、つっとまなじりから涙が流れた。ちょうど薄目を開けたところで遭遇して、舐めとりたいなぁ、なんて欲求に、逆らう気もおきなくって。
呼吸を貪りすぎてちょっとだけ噎せている彼女に気を使うこともできないまま、そのしずくをぺろりと舐めとる。
や……
や、ですか?
…ねえ、もう、
脱がせて。
少しだけ身を離したわたしを慌てて捕まえようとして。
どこにも行きませんよ、と口にも態度にも出したらひどく安心した顔をして。
ゆるく崩れていた顔、ふっとわたしから目を外したと思ったら、可愛らしいおねだりが飛んできた。
してること、いつもと変わらないのに、不思議ですね。
しあわせすぎて、もう、どうにかなっちゃいそうです。
じゃあわたしのも、脱がせてください。
……うん。
跨ってた腰の上からどいたら、ちょっぴり心細そうな顔をした。
いままで、そういう表情まで、我慢させてたんでしたら。
やっぱり、もっといっぱい、謝らなきゃいけない気がします。
わたしにさわる比叡さんの指は、予想してたよりずっと熱い。
もうこんなところまで熱が回っている、彼女の頬は案の定赤くって。
いつもなら軽口でからかってしまうのですが、今日は、……わたしだって同じくらい恥ずかしい。
ゆきかぜ、
もう一度シーツに沈んだ比叡さんは、わたしを捕まえたままだったので。
自然、比叡さんの上に倒れこむことになって。ぴとりとくっついた肌と肌。
彼女にこうやって触れているというだけで満ち足りるこころと、はやく彼女とつながりたいっていう情欲が、ぐるぐる、渦を巻いている。
*
……置いてかないで、
胸どうし脚どうし、擦り付け合って絡まり合っているのは心地良かった。
いつもだって、すごく。気持ち良かったのに。
ね、雪風。わたしたち、表立って認めてしまえば、ほら。
こんなにもいっぱい、新しい発見がありますね。
はい。
…じゃあ、いっしょに、
……っ、え?
だめ、ですか?
……だめじゃないです。
じゃあ、しましょう?
とろんとした頭で考えることなんて、だいたい、本能に直結したことばかりだ。
雪風を、受け入れているだけで、あんなにも幸福だったけれど。
いまのわたしは、彼女ともっとつながりたいと思っている。
まえ準備、だいじょうぶですか?
…わたしはいいですけど……
……じゃあ、ゆきかぜもへいきです。
え、でも。
いいんです。
ことばにしてしまえば、こんなにも。
躊躇なく差し入れられた雪風の中指は、とっくに濡れていたわたしの入り口付近を這っていたのはほんのわずかで。
ぃく、…っ、
ひえいさん、
ぬめりけなら充分で、足りないはずはないのに少しだけ辛い、そんな状態でも喜んで迎えるわたしのなかは、まぁ、わたしらしく、バカ正直に彼女をくわえ込む。
…にほんめ、はやくほしい。きつくてもいいから、というより、きついうちに欲しい。
いつもみたいに腰を揺らしてねだったら、だめですよ、と、少しだけ眉尻を下げた困り顔。
えっ、と青ざめたわたしに気づいたのか、もっと困ったように、……彼女の下腹部がわたしの太腿に押し付けられる。
…いっしょに、って、
……え、でも、
へいきって、いいました。
だからはやくください。
パッと見はほとんど変わらない、けれどこれ以上ないってくらい拗ねた顔。
わたしにみせてくれるのが、そしてそれをわたしがわかってあげられるのが、ただ、うれしくて、
……未練がましくくねらせていた腰はぴしゃりと雪風の左手で叩かれて、右手はもちろん静止したまま、……二本目も、もらえないまま、
……ゆきかぜ、
…ん、……んっ!
腿の内側からたどっていった、そうしてたどり着いた、雪風のそこ、は。
あたたかく濡れていたけれど、……どれだけ濡れていたってきっと心配するし、体格差はどうしようもない。わたしのゆびは、彼女のそれとは、負担の重さがずいぶん違うに違いない。
本能では欲しがっているくせに。掠れた理性は役立たずにわたしを縛り、雪風は、もどかしそうに、わたしの掌にその熱を擦り付けた。
っ!!
恐る恐る差し込んだ指の制御のためにも、彼女が動かないでいてくれたのはありがたかった。
焦れた身体をなだめながら、注意深く、雪風の様子を伺う。
……いたい、ですか。
だいじょうぶ、ですよ。
えへへ。
作り笑いは涙顔で、熱でぼやけた頭でも、勝手に潤む視界越しにも、とてもよくわかる感情を浮かべていた。
だいじょうぶですから、
…あっ!? ……ふぁっ!! ……っ!!
ひえいさん、気持ちよくなってください。
そのことばだけで、充分だったのに、二本目となる人差し指、迷わず、いれられて。
……あいして、ます。
とうとう言われてしまったそのことばと同時に、陰核、押しつぶされて。
一瞬で視界が真っ白になったわたしに、雪風のこと、指や手で気持ちよくさせる、なんて。
彼女がはじめてだとかそんなこと関係なしに、出来るわけがなかった。
*
……ゆきかぜのばか。
あ、ひえいさんひどい。
…ばか。
一緒にって、言ったのに、
そんなかわいらしいことを掠れた声で言う比叡さんは。
むくれているのに、いつものようにはその顔を隠そうとすることはなく。
汗でだいぶひどいことになってるでしょうわたしの髪を右手で撫でています。
一緒に、でしたよ?
そんな!
まぁ、比叡さん、いっぱい喘いでたので、気づいてなかったかもしれませんが。
いつもだって、雪風、ちゃんと気持ちよくなってるんですよ?
わかってくれないなら、また今度、ですね。
比叡さんの左手はわたしの右手とつながったまま。
今日は髪を撫でるのがお気に入りなのでしょうか。なんだかずっと撫でられている気がします。
…明日は無理ですよ。
……比叡さん、明日から出撃じゃないですか。
主力部隊として行くんですから、向こう三日くらいは無理だと思いますよ。
……なんで雪風と一緒じゃ無いのかなぁ。
そんな可愛いこと言っても、何も出ませんよ。
……かわいくなんて、
それはわたしが決めることです。
偵察部隊の報告によれば、潜水艦がいっぱいいる海域だそうですから。
つゆ払いだって、軽巡ですとか、ほかのひとたちの方が適任でしょう。
それより。無残に大破して帰ったりしたら、ヤですからね?
*
……帰ったら。
え?
今度こそ、塀の外にお出かけ、しませんか。
…え?
満ち足りたお腹の底、怖がるこころを宥めて誘う、あなたとのデート。
お姉さまは頭をわしゃりと撫でてきただけだったし、霧島にはやっぱり呆れられたけど。
榛名がぽつり、自分も行ってみたいのだというところを教えてくれたランチスポットは、自分たちには、どうにも背伸びしている気も、するけれど。
服とか、アクセサリーとか。おいしいおやつとか。
一緒に買いに行きたいです。
…きっと楽しくありませんよ。
楽しいか楽しくないかは、わたしが決めます。
だからそんな顔、しないでください。
わたしは今度も手を伸ばす。
今日からはいっぱい、愛してるって、ちゃんと伝える。
ほかのひとからの特別だって、あなたが思うよりずっと、素晴らしい感情でできているって教えていくのは、……まあちょっと、思うところがないでも、ないですが。
あなたのいちばんは、わたしのようですから。
だから、ぜんぶ、教えてあげます。
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