溶けた飴色





……っ!

あ、…え?

…つめた……


ぎゅっと加賀さんの腿に挟み込まれた手はちっとも動かせなくて、わたしは、びっくりして。
そして珍しく、焦ってしまった。


…ごめんなさい、

ほんとう。


がっつきすぎよ。
呆れた声音はよく慣れ親しんでいたものだったから、(最近はあんまり聞かなくなっていたものだ、)
……むしろ懐かしさに気が削げて、脱力したら加賀さんの身体がこちらに倒れ込んできた。
あ、ごめんなさい。冷たかっただろう私の手で、触れてしまうことまでを先倒しで謝って、そしてやさしく抱えこんで押し倒す。
キスするときは、加賀さんの顔の横に手をついた。加賀さんの指の方が私の顎を捉えて、だからか主導権は加賀さんが持ちっぱなしで、舌入れたの、私なのに、加賀さんの口の中でさんざん吸われて捏ねられて、
でも辛うじてなぞりあげた上顎に、大きく反応してくれたから、それでつうとこぼれた唾液は離れた唇にそのままたどらせる。
結果、私の髪が加賀さんの顔にかかってしまって、むにむにと頬を引っ張られたのはご愛嬌だ。さすがに、いたく、なかったし。
その手が離れたと思ったら、押さえ込まれっぱなしだった右手に触れられる。あー、確かに、加賀さんの手、あったかい。いつもだけど、いつも以上にそう感じるってことは、……うん、ごめんなさい、


…うえっ!?

なさけないこえださないで、


たぶん、そういうことをいったのだろう加賀さんの声は、いつも以上にくぐもっている。
なぜって、そりゃあ、私の指が、彼女の口の中に含まれているからで。
いつだったか、あまりに強情に加賀さんが唇を噛むものだから、無理やりそれをこじ開けて2本ほど押し入れたときとは明らかに違う、ぬるぬるとした感触。
たぶん意識して塗(まぶ)している加賀さんの唾液が、人差し指と中指にまとわりついて、滑るように塗り込められる、その感覚に身をゆだねようとすれば途端吸い上げられて、びくんと震えた私に、心底、愉快でたまらないという顔をして。


…いやっ、……も、いい、…ですから、


だから、と、引き上げようとしたら思いっきり吸われた。頬の形でさえそうと知れるくらいの強さで。
それでも歯は立てないのが、どんな意図なのか、わかんないけど。
痛みもなく、ただやさしいばっかりなのはちょっとだけ物足りない。……なんていうとマゾって言われるんだろうけどさ、そうじゃなくて。
すっごく気持ち良いことしてるとき、加賀さんが背中や後頭部に爪を立てたり、肩口噛んだりしてくるの、癖になってきちゃってるところ、あるんだもん。


……どーせなら、胸とかであっためて欲しい……


だからそろそろちょっとだけ怒られたくて、ふにゃふにゃの頭でバカみたいな軽口を考えて。
せっかくだからと唇で胸の頂に触れる。慎重になりすぎて音も立たなかったから、そのまま静かに舌で転がして、上目遣いで加賀さんの様子を伺ってみる。


……その方が良い?

…あ、いえ、
……じょーだんです。


そんな不純な動機で放ったことばに、真顔で返されるとこっちが困る。
ああでもこのままじゃふやけちゃう。それに。


今日はこの二本で、しましょうか?

…え?


両手で私の右手首を抱えていた、それによって引っ張り出された私の指は、さっきも言ったとおり、中指と人差し指。
いつもなら、ほら、……まあ三本目まで入れちゃうことのほうが最近は多いけど、順番的には、……ね?
途端ばっと顔を赤くする加賀さんは、あーとかうーとか、そうじゃなくて、とか、ごにょごにょはっきりしないことばを紡いでいる。
それでいい、って、言い返せない時点で加賀さんの願望はわかってるから。たぶんわたしがわかってることもわかられてるから。
だからこんな風に、恨みがましい視線を向けられるのだ。はいはい、ごめんなさい、と、落とす唇は今度は額。私なら、この体勢でも少しだけ背伸びすれば届く場所。


どうせ濡らされちゃいますもんね

ばっ……


キスできる距離でにんまり笑う。頬をもいちど引っ張られると思ってたら、背中を引っ掻かれた。
痛い。しかも、これ、絶対、あとで加賀さんが余裕なくしがみついてくるとこでしょ……、


…つめたいのはいやよ、

……どんなおねだりですか……


薬指まで、あったまるまでお預けで良いってことですか?
口にしてしまえば、貴女の方が待てないくせに、なんて、生意気な憎まれ口。もうぎゅうっと閉じたりしてない脚、片方、膝立てて、私の腿に擦り寄せようとしてくる。うっわそれヤバい。ほんと、理性保たなくなりますから……!


あったかい加賀さん、すきです


身体のことだけじゃない、態度や、仕草ばかりでもない。
私に向けられているの、以外にだって。


ていのいいいいわけね、


ほら、こんなことばひとつでさえも。
すっかり骨抜きにされた私は、指だけでも、すっごく気持ち良かったところに舌をもう一度潜らせる。
さっきの感覚がまだ頭の隅っこに残ってるかもしれない加賀さんが、今度こそ、怯えなくても済むように、なんて、半分は言い訳だから、あとで謝りすぎって言われても、やっぱり、ごめんなさいって口に出したくなってしまう。
どうせなら、ありがとうの方が嬉しいわ、なんてあとで言われたけれど、そう言ったら、絶対加賀さんの方が恥ずかしくなって収拾つかなくなるって、知ってるんですからね。






--------------------------------------------------------------------------------------










inserted by FC2 system