あいまいのれん(那智×曙)






夕飯のあとに訪れた彼女の部屋に、妙高さんはいなかった。
入るわよ、から申し訳程度に頭を下げたあと、目線で問いかければ今日は帰らないと。なるほど。
それじゃあ遠慮なしに、ということで押し付けた唇は残念だけれどまだ開いてはあげられない。
何をしたいのかはわかってもその理由までは流石にわかんないもの。前もって聞けるのに聞いておかないのは、気持ち悪いじゃない?


…ごめん、それ、ちょっと痛い。

む、
…済まない。


ぐりぐりと押し付けられていた骨の感触が消えて、代わりに指の先で慎重に撫でられる、あたしの即頭部。
那智の手首の骨は妙に硬い。そんなことを覚えたのも、もうずっと昔の話だ。
備え付けの椅子に座った彼女の膝の上、乗っているあたしは割と不安定だけれど。
那智があたしを落とすわけが無いのだから、嫌でない限り文句をつけておく必要は無い。
悪態はずいぶん気楽な事前防御。彼女に使う必要は無い。だからもっと、うんと気楽。

それでも、ずり、と、落ちかけたのはあたしが彼女の唇をもう一度拒んだから。
疑問への回答はもちろん言葉で。せっかくの体勢だから、耳元にくれてやるわ。


今日はあんたの膝でやりたい気分

なるほど、それでは脱いだ方がいいわけだな?

まーね。

私が脱いで構わないか?

ん、


そっちは、と、聞く前に唇が合わせられる。今度こそ逃がさないと言わんばかりの性急さで軽く引っ張られたのに、こっちが迎え入れようと口を開ける前にあっさり離されて。飯事のような触れ合いは、当たり前に一瞬だけの感触だった。
駆け引きのためにそうしたので無いことくらい分かる。それでも、不当に焦らされたような心地がしてしまったのも確かで、吐いた息は自分への情けなさのためのもの。


どうした?


それなのにこんなに容易に反応してくるから。
当たり前のように、あたしを見据えて、下心も真心もきっちりと折り目正しく乗せて、尋ねてくるのだから。


さっさと脱がせて。

了解した。


本当は、お互い、素肌まるごとじゃなくとも良かったけれど。制服を汚すと後々非常に面倒なのは確かだから、まあ、良い。
いつもと同じように適当に服を落としていく様を腕を組んで眺めていたら、座っていてもいいのだぞと眉を上げて気遣われる。まだそんなにスイッチ入りきってないわよ。いま、現在進行形で結構あがってきてはいるけどね。


素肌で座ると流石に冷たいな

いや、直に座らないでよ。


お前のせいだ、と、言わんばかりの声音。聞かないふりをしてあたしを膝に乗せ直したあんたは、着々とあたしを剥きながら面白がっているけれど。
この状態のままでやったら絶対妙高さんに怒られるわよ。あたしじゃなくて、あ、ん、た、が。
……そんなことないか。どうせあたしも結局嫌味か何かは言われるわよね。やだやだ。こんな阿呆らしいことであの人のお怒りを買うなんてゴメンだわ。


たーおーるー、

…これでいいだろう

いいわけないでしょうが!


あたしにあんたの服着て帰れっていうの?
ひらひらとそれを振っているバカの手を払ったらちょうど例の硬いところに入った。マジ痛い。


下着の一枚、着ずとも良いだろう

いいわけあるか、変態。

いい加減着替えの一枚でも置いておけばどうだ

嫌だから。


腰を上げて最後の一枚を落としてくれたところで、噛み付くようにキスをする。
終わったらとっとと衣装箱の一番上、左の端にお行儀よく並んでる味も素っ気もない白無地のタオルを取ってこい。
いまやっと私の下唇をぺろりと舐めとったそれが、離れきるまでに及第点をつけてたらしょうがないからあたしが取ってきてやるわ。





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