NTR空母沼から派生したこれの続き。






細いリボンのような約束を(瑞鶴×加賀)






…かがさん。
おはようございます、

……おはよう。ずいかく。


あんなことがあって、いっそ殺して欲しいと思ってすらいた一昨日と同じように。
昨晩あれだけ愛し合って、もう死んでもいいと思わされたあとにだって朝が来る。
生きていることに感謝、なんていうとおおげさだけれど。
終わる気配のない戦況も、兵器扱いされる身も、変わらないままでも弓を引けることを喜びと誇りにできる日が、またやってくる。


おひさま、のぼっちゃいましたねえ

…そうね、

朝ごはん、どうしますか?

食べるわよ。

ええ。
いつにします?

……うん、


奇妙な返答をしたわたしを訝しんで、わたしの布団の方に身を寄せて来た瑞鶴を引き寄せて。
昨日の夜更けにやると決めたキスを敢行する。
わたしの方から舌をもぐりこませれば、びっくりして慌ててみせる彼女の反応は新鮮でかわいくて。
おはようの挨拶にしては深いそれに、瑞鶴が立ち直って主導権を求めだしたからするりと逃げて。
むっとした気配に、ごめんなさいという代わりに。


……っは、

…は、……かが、さん、

…ん。


おはよう、ずいかく。
もういちど言えば、もういちど、おはようございますと律儀に返る挨拶までへの感謝を、どうすれば。
伝えられるのだろうか、ふっと思ってしまった隙をついて瑞鶴が今度こそ反撃の狼煙を上げてきた。


っ!!

…ごめんなさい、


昨日あれだけ吸われたのだからすこし強くするだけでじゅうぶん痛いしひりひりする唇にすぐ気づいてくれた瑞鶴の観察眼はすごいと、こういうとき思わされる。
洋上での索敵や洞察力といった技量はまだまだ譲るつもりはないけれど。こうやって向かい合っている相手の様子をはかる、なんて能力はわたしはとても低い自覚がある。
これでも努力はしているつもり、なのに。恋人に対してすらそれがたいして変わらないのは、実は随分と悔しいところだ。
少なくとも、同時に得られる愛されてる嬉しさでさえそういった感情をすべて紛れさせてはくれないくらいには。


加賀さんとちゅーするの、好きです

……そうね、
………わたしも。

ふふ、ありがとうございます!


手と手をこんな風に絡め合う、なんて。
しかも日のある時間帯に、まだ布団の上にいて、なんて、……なんだか、下手をしたらいざことに及んでいるより恥ずかしいような。
自覚してしまうと耐え切れなくて、でも手は両方とも瑞鶴が絡め取ってしまっているし顔を背けるのは嫌だったから。
そうやって言い訳をしながら彼女の肩にうずめた顔は、ばかみたいに熱を持ったがゆえに否応無しにいつもよりすっきり目覚めてしまっていて。
…そんな、ときに。


……続きは今晩、ですね

は……?


言われた言葉に、もうしっかり稼働してしまっているはずの頭はちっともついていってはくれなかった。


……や、っ!!


瑞鶴から離れて何が変わるわけでもなかったけれど、この体勢でいることはわたしの気持ちが耐えられなくて。
振り払おうとした手は押さえ込まれ、咄嗟に蹴り飛ばして当ててしまった腿か何かは、彼女は、まるで堪えてはいないかのように。
わたしのことをじいっと見つめて、いる視線から、逃れようと思うのに逃げきれない。
……いやとかいやじゃないとかではない。
それは、無理よ。


だいじょうぶですよ、

むり、だから、……ずいかくっ、

…そういう反応されると、


いますぐ襲いたくなっちゃいます。
呟いた彼女は、わたしをからかおうとか意地悪を仕掛けようなどと考えている素振りでなく、
心からそう思ってますという目つきでわたしを見つめている。
一度合わせてしまえばもう逸らし様すら無かった。
じりじり、精神的にも追い詰められていく。


……ぅ、

だから、だめですよ。


尻餅をついたような格好のわたしににじり寄って、彼女の接近とともに膝を割られて、
本当に、このまま襲われてしまってもおかしくない状況でもういちど唇が落ちる。
鼻先に触れたあと、わたしの唇にふわりと。
さっきは確かに感じたぴりりとした痛みすら無かった、やさしい口づけ。
寝起きの挨拶がわたしの誓いなら、今のこれが、瑞鶴の宣言なのだと、……お互い口に出してはいないのに。
お互いに理解して了解したと、わかりあうしかない視線が絡んだ。





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過ぎて欲しくなかったけれどはやく終わらせても欲しかった一日は、体感的には洋上での撤退戦を強いられているときよりも長かった。
連続で三日ももらった非番日の中日であり、今日と明日に至ってはは緊急時の呼び出しリストにも名前の乗らない休みであったから。本来ならば長く感じられるほど得であるはずなのに。

何かしていないと気が狂いそうだったからという理由で、休日にやろうと思っていた事々は昨日一日で全て片付けきってしまった。
着替えの衣服はいつの間にか瑞鶴が用意してくれていたから、正直まだ近づきたくも無い自室に足を踏み入れる必要はなくて。かと言って自主練に赴いてみっともないとわかりきっている精神状態を明るみにしてしまうような真似が出来るはずもなく。
それでも瑞鶴の部屋に終日引き篭っているというのは癪だった(し、何か用事があって――わたしの紬のように――翔鶴がこの部屋に来るかもしれないと思うと気まずい)ので図書室と食堂を往復するだけの生き物となることに決めた、随分と贅沢な休日におかしな事件など起きるわけがない。
昼の休憩から戻る時に結局秋月を連れた翔鶴とすれ違ってしまったが、すわ修羅場かと即座に身構えてくれた蒼龍のおかげでわたしは自分でも驚くくらい平静に彼女をやり過ごすことができた。
……廊下を曲がる際にちらりと振り返ると、何故か彼女はわたしに深々と礼をしていた――ようだった――のにはぎょっとしてしまったが。


…翔鶴だってさ、悪いとは思ってるんだよ

……何が。


赤城さんの火遊びを止めないこと? 艤装を下ろしているときのあのひとを自由にさせることで周りが迷惑を被るのを顧みずにいること?
思うだけでまた精神がかき乱されそうになったから大きく深呼吸をしてやり過ごす。わたしのとなりで今度は心配そうな顔をした蒼龍は、それからわざとらしい咳払いで場を誤魔化した。
他所の赤城がどうかは知らないが、わたしがこの鎮守府に着任したときには彼女は既にこうだったし、翔鶴はうまくやっている方だとは思う。
艤装を背負ったあのひとの隣に並び立つことはわたしの誇りだし、戦術や戦略、ひいては鎮守府のあり方にかかる議論を彼女と交わせるのはお互いを信頼しているからだし、ときに本調子ではなさそうな日は心から心配してしまうし、彼女の負担は公私にわたりできる限り取り除いてあげたいと思う。息を吸うように、弓を引くくらい当たり前に思うけれど、――それでも。
少なくともわたしなら、彼女と付き合おうとは絶対に思わない。


うん、加賀さんは知らないままでいいと思うな

ばかにしてるわね

違うって。


……しあわせなのが、うらやましいの。

あなただって、飛龍と。
首を傾げれば蒼龍は、にへ、と笑って。
その顔が飛龍そっくりだったものだから、わたしはますます不可解な思いを抱える羽目となった。
強い日差しが色濃い布地に染みるのがいい加減辛くなってきていた頃合、午後も図書館なの? 精が出るねえと食堂で話しかけてきた蒼龍はそもそもどうしてひとりだったのか。誰から聞いたのか知らないが、わたしを慮ろうとするだけなら飛龍と一緒でもいいではないか。
目的のものをさっさと借り出して自室に帰るらしい彼女を見送ってから、ちょうど良いところで切り上げていた戦術書を開きなおす気になれなかったのは、だから彼女のせいだ。
ちょうど目の前の書架にあった慣れない色合いの小説本に思わず手を伸ばしてしまったのだって、同様に。







おかえりなさい

……ただいま。


小さく口元を動かして笑う瑞鶴は、もうすっかり夜の顔をしていた。
向かい合わせで夕餉を取ってから、目線だけで入浴を促されたのは、思わず赤面しかねないほどの破壊力で。同じくらいの強制力をもってわたしを一日と少しぶりの自室へと向かわせ、怖いだのなんだのと思う間も無く大浴場まで直行させるという快挙を成し遂げさせた。

無心で髪と身体を洗ったあと、少しだけ迷ったけれど結局誘惑が勝って入った湯の中で、ふと思ったのは。今日、瑞鶴と赤城さんは演習場でどんな会話を交わしたのだろうかということ。
鎮守府内での模擬戦闘。勝ち負けを求めるというよりは艦載機の攻撃波を水雷戦隊にいかにやり過ごさせるかという訓練だったはずだから、むしろ少しくらいこちらの連携に齟齬があったくらいの方が望まれていたかもしれない。あのふたりに限って、そんなことにはならないだろうとは思うけれど。
この手の任務で本来の航空戦隊がペアを組まされることは殆ど無い。わたしだって先日似たような場で組んだのは蒼龍で、……そこで昼間の奇妙な会話を思い出して、湯船の中で再び首をひねってはみたけれど彼女の真意はやっぱりわからないままだった。
のぼせてしまって始まる前から体力を消耗するのは得策ではないし、何より「清める」のにあまり時間をかけていてはまた瑞鶴に恥ずかしい目に遭わされることになる。
苦しい言い訳によって白昼夢のような昼間の出来事を頭から追いやった。
連夜抱かれることによって引き起こされるだろう今日の痴態や明日の醜態――を諦める覚悟を決めはしたけれど。髪を結い直すこともなく、すぐに脱がされるための浴衣に身を通すのは、いつまでたっても慣れない。


どうしましょうか

…いいわよ、このままで。
……あなたがいいなら、だけど。

我慢できない?

ちがうわ。

はいはい、じゃあそういうことで。


シーツも、さらにその下の敷き布まで替えられていた瑞鶴の布団に座ったわたしに、彼女の影が落ちる。
昼遅くの演習のあとにシャワーくらいは浴びたのだろうし、ここで瑞鶴に出て行かれてゆっくり風呂に浸かられたら、その間、わたしにどうしていろというのか。
まだ健全に眠ってしまうにしてもやや早い時間。そもそも食堂でああ言って来たのは、つまりできるだけはやく抱きたいと、そういうことだったのでしょう?
言葉に出さない苦言を断ち切るようにされる、いつも通りの始まりのキス。離れたところですうっと目を細めてあげればおおげさに肩を竦められ、あっさり謝られる。


意地悪が過ぎました。

…ん、

……じゃあ、いいですね?

…なんども聞かないで。

何度だって聞きたいですよ。

そうでしょうね。
でも、嫌。

……はぁい、


きゅっとわたしを抱きしめてから、そのまま器用に浴衣の帯を抜き取っていく手際があまりに良くて、呆れて笑ってしまった。……笑えたことに、ほっとした。
強引に引っ張ったりするのでなく的確に前身頃を寛げられて、こういうときにしかしない緩さで巻いていた晒しもあっという間に外されてしまう。
下は上ほど形が透けないから洋装――つまりはショーツだ――にしていたのもくいっと引っ張られて、促されるままに腰をあげれば、今日こそ、瑞鶴の手によって全部脱がされたわたしのできあがりだ。
紐にしなかったんですか。馬鹿なことを呟く彼女に、朝の調子からすると繊細なものを選んでは引きちぎられてしまうかもしれないと考えていたとは流石に言えない。
わたしの意に反するようなことはけしてしない彼女だけれど。
彼女には、わたしが。時々は、ままならない現実の全てを吹き飛ばしてくれるぐらい滅茶苦茶にされるようなのを好んでいることも知られているのだから。
すなわち、瑞鶴は控えめな手管しか選ばない後輩などではけしてない。


っ!!


鎖骨のあたりに指を当てたと思ったら、そのまま肩口や胸の上の方にそれをすべらせて、……まるで昨日の(そしてその前日の)跡を確かめながら、わたしに与えた反応を(わたしがしただろう反応を)考えているような目つきと手つきは次第に鋭利なものとなっていった。
鬱血になっているのだろう、強く吸われた記憶はあるところをひっかく……を通り越して最早爪をねじ込むように押し込められて、痛みに歯を食いしばればその指先はそのままにして繰り返し、顔面にキスが落ちる。
宥めるというよりは、わたしの我慢を消させようとするような動き。たまらず彼女の袖口にしがみつけばわたしの腰にあった左手がその手を抑え、そこから離させようとする。


…ずい、かく、

はぁ、……加賀さん。

……これ、むり、

握るなら、こっち。

…っふ、……待って、

あと3つ分ですから。

は、……え?

終わったら背中側、いきますからね

……っは、…、……いっ!


爪は痛いと訴えたら、唇に変えてはくれたけれど。
強く強く塗り替えるのに、代わりは無いようでまだ熱にうかされるというところまで辿りついていないわたしには快感というよりは苦痛が優って、彼女に導かれた肩口の布地を引っ張ってどうかやめて欲しいと訴える。
わたしのお強請りに耳を傾けた上で却下する瑞鶴は、こんなにされたところに快楽が簡単にもらえると思ってたんですか?と言わんばかりで、わたしのためというよりは瑞鶴のためにわたしの肌を貪っている。
昨日のわたしが、望んでいたはずの瑞鶴なのに。
――怖い。ただ終わりを待ち望むばかりの行為は、一昨日と同じで、


っ、……は、ぁっ、……っ、
…やだっ……ぁ………

……加賀さん?


ほんの少し冷たくされただけで怯えてしまうわたしは。
いったい、どれだけ、弱くなってしまったのだろう。







今日は少しぐらいわたしの欲求を優先させてもらおう。
正直それくらいしか考えてなかったはずが、なんとか平静を取り戻したような加賀さんを勝手知ったる調子で脱がせていったらいつもとは全然違う肌が蛍光灯に照らされて、そこでとうとう我慢の限界が来てしまった。
ちゃんと恋人のいる人に手を出すなんて信じられない。
正直、赤城さんじゃなかったら二度と鎮守府で大きな顔して歩けない目には遭わせてやっていたと思う。
こんなのを身体に抱えたままこのひとは大浴場なんかに行ったのか、誰かに見られたりなんかはしなかったのか。
半分以上は昨夜のわたしがつけたものだけれど、それだからこそ余計に煮え立つ感情は、キスのさなかに加賀さんがいつもより少しだけ控えめに舌を絡めてきたことで完全にその指向性を定めたと言って良い。
昨日は、ひたすらに怯えていて。わたしが促すまで能動的な行動なんかとってくれなかった。でも今日の加賀さんなら。


じゃあ、これは?

…んっ! 
……は、……っ、

…ここ?

っふ! ……ぁ、…んんっ!!


短く切っている爪の先をこすりつけて、くすぐるように。
昨日もさんざん弄り倒した脇腹を苛めてあげれば、跳ねようとする腰がわたしに押さえつけられているせいでひくひくと震えて、快楽を逃せなかった加賀さんの顔が期待通りに歪んだ。
目の前でふわふわと揺れている両胸には時折、思いついたように唇を当ててついばむ。何度やっても吸う前、舌先を押し当てた時点で固まってくれるこのひとの反応が可愛くて、鼻先ですんすんとやればふいっと視線をそらされるからそうしたらまた指先で腰周りをくすぐるように可愛がって。
昨日あれだけ丁寧にイカせ続けちゃったから、今日はむしろこういう触れ合いばかりでもいいかもしれない。


かがさぁん、

…ち、……が、
……もうすこし、した…っひ、ゃ!

こんなかんじ?


加賀さんが高まってきちゃって、こういうところへの愛撫が完全な意地悪になってしまうまでは。
だってわたし、加賀さんのことを追い詰めたいわけじゃないもの。怖がられるんじゃなく、懺悔の目で見上げられるのでもなく、――ただ。


っっ! ずっ、い、

首、振ってくれればいいですよ

やっ…だ!


見つめられる瞳の色だけで、答えなんかわかってるけど。
加賀さんの声を聞きたいわたしは、昨日によく似た、昨日より少しだけ加賀さんに近づいた体勢で(つまりは、加賀さんを少しだけ余分に押し付けている状態で)やさしさの皮をかぶった提案をする。
きゅ、と口元がしめられてしまったから解放してもらおうと唇を近づける。
こうやって、本当にいやなことかどうかをひとつひとつ確かめて。
恥ずかしいからとか気持ち良すぎるからという理由での拒絶は全部握りつぶして、選択肢を少しずつ狭めて行く。
やさしくキスを落としたあとの唇でなら、吸い上げても噛み付いても駄目ではないらしい。最初の鎖骨の窪みに戻って、爪を立てたことを謝るために舐め回す。こんなところ、よっぽど強く噛み付かないと跡なんてつかない。
あちこち豊かな加賀さんだけれど、だからこそ首筋に浮く血管とかこういう肌自体の薄いところ、なぜだかとても細いくるぶしなんかに触れると、とても興奮してしまう。
このひとのなかをまさぐっているときにも近いような感動が、どうして生まれるかなんていま深く掘り下げたりなんかしない。
うえの方、まえの方は全部やりきったからわたしにすがりついてる加賀さんの手の甲をぽんぽんと叩いて次へと誘う。
背中はあの人の跡自体は少ないけれど、なんだか今日は良い反応をしてくれそうだから。いつもよりちょっとキツめに攻めてあげることにしようかな。
そう、囁くだけで小さく爆ぜてしまう加賀さんのそこに片足をさし入れれば、予想通りの粘っこい音を立てながら素直に絡ませてくるようになってくれたところ、すっごく好き。







ぅあ!!


背骨が反る。顎が上がる。
いっそ丸める方向に身体が反射で動いてくれれば、もう少し楽になれると思うのに。
腹部あたりに執着された頃から、跡を付け直すというよりはひたすらに唇と指先で弱いところを攻め立ててくる瑞鶴には、今日だってとうに何度も白旗をあげているというのにわたしのこの手の懇願が聞き入れられた試しは無い。
快楽の強度に耐えかねてやめてというときには徹底的に無視をするくせに、その張り詰め切った糸がいざ切れんとするときにわたしのその譫言を引っ張り出してきてまた緩めてしまう、単純だからこそあやまたず繰り返される地獄に目の前が白んで、糸を切られる前から視界がぱちぱちと明滅をはじめた。


……こんな顔、してたんですね

………あ……


顎を取られて強引に振り向かされて。
引き寄せられたところで、降ってくるのは瑞鶴のぬくもり。
キスにはならない抱擁は先ほどまでの意地悪な愛撫とは比較にならないほどやさしくて、彼女の指先より熱をもっていた頬はすべらかで心地良い。
かといって冷たいわけではけしてない両手は、少しだけ苦しかった体勢を器用にずらしてくれる。
快楽からはむしろ離れ、事実彼女の腿から引き剥がされてしまった下腹部がじぃんと疼いたのにそれを上回る感情で鼻の奥がツンとして、隠しようもない距離でこぼれかけた涙を瑞鶴が掬う。舌はひとつしかないのに、どうして両目の分全部を飲み込んでくれるのだろうか。


妬いてますよ



妬いてるし、悔しいです。
……すごく。


こんなにぐしゃぐしゃになってしまったわたしに、やっと、そう言って。
口付けるためにわたしを再度、今度こそ最後までひっくり返す手つきは、昨日よりは確かに荒い。
それでもこれを乱暴と呼んでしまうのは傲慢が過ぎるのでは無いか、それくらいには静かで、
彼女の気持ちが狂おしいほど伝わってくる、ほんのわずか、震える指先。
こんなこと、もちろんあのひとにはされていない。


……ごめんなさい、

…それは、もういいです。


わたしはわたしが悪いと思っていて、加賀さんは加賀さんが悪いと思っている。
わたしは赤城さんに怒っているし翔鶴姉のことは恨んでいるけれど、加賀さんはたぶんどっちのことも考えたくないですよね。
そんな中でふたりきり、謝罪をし合ったところでキリがないし、意味もないですから。

言い切る瑞鶴はそこでもう一度わたしを、しっかりと見つめて。
昨日ももっと前も、さんざんしてきた口づけを、いつもよりもずっと――今朝と同じくらいに厳かに。
ああ、彼女のこの強さを。照らされる光を。
いちばん間近で感じたいと思ってしまったときに恋に落ちたのだったと、わたしは思い出していた。







……ずいかく、あなたは?

え?

わたしのどこがすき?

はっ!?
い、…いきなりなんですか。

いいじゃない。…今日くらい。

昨日でも明日でもいいですけど……
うーん、じゃあ、


そういえば昼間に読んでしまった小説に、同じやりとりがあった気がする。
……もしや無意識になぞっていたのだろうか。なんて恥ずかしい。
あれは推理小説であって恋愛物では無かったのだし。うっかり一気読みしてしまったシリーズ三冊を通してのヒロインはとことん不器用で意地っ張りではらはらする反面、我が身を省みる機会を与えられたようで少しばかり微妙な心境になったことは完全に明後日の方に放り投げて、おそらくは今日一番の朱に染まった顔を隠そうと試みる。
当然ながら、瑞鶴がそんな真似をゆるすはずが無いと知っていての抵抗だし、こうして終わったあとにまで優しくない手つきでわたしに触れてくるのは、羞恥さえ抜きにすればかなり好きなところだと、瑞鶴だって承知しているのだ。
そうであるからして。


とりあえず、いまは。
こういう顔して、わたしにそういうこと、聞いてきてくれるところです。


完全に誤魔化されたのに、こんなにも歓喜に染まる心。
安いものね、と自分を俯瞰して笑ってみたところで顔の熱は消えないし、瑞鶴が残した唇の感触も、もういい加減、なんでもないものになってくれたってよさそうなものなのに。


……じゃあ。
明日聞いたら、違う答えをくれるってことかしら

もちろん!


そう。それならそれで悪くない。
……さすがに明日も今朝と同じことを言い出すのは無しよ、と釘を刺したら声をあげて笑われた。














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