彼女の愛への応え方
(瑞鶴×加賀/現パロ)






新しい水着を買ったのだと、竜巻のように飛び込んできた瑞鶴は浮かれた空気を隠しもせずにわたしに言った。
そう、それはよかったわね。適当に返したのが気に入らなかったのかもとより披露するつもりだったのか、手に持った袋からわざわざ現物を出してわたしに見せつけてくる。頭の中で瑞鶴に着せてみれば、まあ確かに似合うだろう。
それを買いに行くことをわたしが聞いてなかったこと自体は何も思わないが、誰の見立てかくらいは一応聞いておくべきだろうか。そう考えて、小さく首をかしげたわたしに不満だったのか、ぐいぐいとそれを押し付けてくる。そんなことをしていったいどうするのよ。貴女には似合うでしょうけどわたしには向いてないし、そもそもサイズも合わないでしょう。


いいでしょ!

そうね。

えっへへ、もっと褒めて!

はいはい、よく似合うわよ。

サンダルも一緒に買っちゃいました。

そう。

いつ行きます?

いつでもどうぞ、行ってらっしゃい

えー!!


海水浴は趣味ではないとずっと昔に言ったはずだ。
恋人同士になってからも、一緒に行きたいと改めて言われ迫られたが、そのときも浴衣で夏祭りならいいわよと返した。それを受け入れたというか曲解したというか、取った言質の有効活用というか、によって昨年は合計で4回も夏祭りに行く羽目になった。花火が音しか届かない山向こうの町までわざわざ浴衣で繰り出すのは正直恥ずかしかった。断じてその日のために仕立てたわけではないのに結果的にちょうど数日前に届いてしまった紫陽花柄に、同僚たちが遠慮なしに笑ってくれたことなど思い出したくもない。


えー、これ着たところ、加賀さんに見てもらいたいのに

今ここで着替えるなら見てあげるけど

うー、


もとから期待薄だと自分でもわかってはいたのだろう、本気で戦い出すときの駄々の捏ね方ではなかったから心中で胸をなで下ろして、とりあえず膨れている瑞鶴を楽しむ方に思考をシフトする。
水着を着ていなくとも充分可愛い瑞鶴の今日の装いは白地のワンピース。装飾は華美でなく、けれど無いわけでもないレースやリボンは、どれもやや細めで彼女の痩身によく似合う。肩口が完全に出てしまっていないのも良い。足元の見慣れたローヒールも合っているが、どうせならこの服に新調したサンダルとやらを合わせてくれば良かったのに。この場で着替えてもらって構わないというのは本気だが、框を上がられてから畳の上でそんなものを履くのを許すつもりはない。


泳がなくてもいいですからぁ、

あついのに代わりはないじゃない

じゃあ涼しいとこで、

室内プールに行くくらいならここでいいわ

…意地悪、

日の光の下で無いのなら、一緒でしょう

どうせ一緒ならせめて泳ぎたい…

……どうせ一緒なら、ふたりきりの方が気楽だわ

…え、

……なによ、


何やら思案し出し、ややあって目を輝かせたところで随分と嫌な予感はしていたのだ。
まさか温泉旅行でも提案してくるんじゃないでしょうね、違う意味であついから御免よ、などと考えていたのは流石に当たりはしなかったけれど、嫌な予感自体は案の定見事に的中することになった。
あつくなければいいんですよね、という謎の押しで攻められ続け、おかしな方向に転がり出した計画を止めることが出来なかったのが痛恨の極みである。







最初に強請ってみたときは、絶対零度という奴を体現してる瞳に射竦められたっけ。
そんなのにいちいち傷ついたり凹んだりしてたら己の欲望は叶えられない。


だから。普通に海が好きなひとと、行ってくればいいじゃない。
別に妬いたりしないわよ。

えぇー、そこは妬いて欲しいんですけど。

私に隠し事をするあなたじゃないでしょう?

そ…れは、もちろん。

あなたの土産話に不審な点があったら、即座に別れてあげるから安心なさい

ちょっ!?
妬いて欲しいだけで、そこまでされたいわけじゃありませんから!

悋気は欲しいけど失いたくもないなんて思考自体、
浮気者にもほどがあるでしょう

……えーと、加賀さん、実はかなり怒っていらっしゃいますでしょうか

そう見える?

それはもう。


口の端は軽めな上がり方だったから戯れの要素がないわけじゃなかったけど、目は確かに笑っていなかった。おー怖。浮気なんてうっかりした日にはこれが更にパワーアップするわけだ。
いや、しないけど。しないけど独占欲出して欲しいっていうの、……やっぱりわがままなのかなぁ。
わたしはこんなにもあなたへの独占欲を持て余してるのに、っていうのはわがままでしかない自覚はある。それをぶつけるのは、やり方を間違わなければ加賀さんを喜ばせてあげる行為になるから、今回も機をはかって、……というのが元々の動機のはずだったのだけど。おかしいな。
売り言葉に買い言葉を都合良く逆手に取って、それじゃあ今度のデートはもう直球でラブホテル行きたいです、と言ったわたしに加賀さんが却下してこなかったのを反射的に混ぜっ返さなかったのが功を奏したのだろうか。調子に乗ってもう一歩二歩、大きな歩幅で踏み込んでみたらストップがかかったのは予想より遥かに先だった。えっこんなに歩いちゃって良かったんですか。加賀さん、この部屋冷房あんまりきいてませんけど、既にあつさであたまやられてたりしませんか。
不安になったけれど、当日やっぱり駄目と言われるのではないかと戦々恐々としていたけれど、いつものアコードじゃなくて翔鶴姉と共用の軽で乗り付けたら、今後の姉妹仲というか今後この車に乗るわたしについてを本気で心配されたから参った。
この方が覗かれる心配少ないですから、と、返したわたしは絶対悪い笑顔をしてたと思う。
加賀さんが座る直前にバスタオルを敷いたら、思いっきり睨みつけられたのだってもう快感にしか思えなくって。そんなわたしに事故だけはしないでよと呟いていつもよりはるかにゆっくりと腰を下ろした加賀さんにかける声も我ながら相当気持ち悪かった。


……交通事故、本気で心配になってきたわ

余裕ですね。

……そう見える?

いいえ?


約束通り、絶対にひとのいない山道まで車を走らせて、路肩というか回転場のような場所に停める。ここまでずっと目を瞑って静かにしていた加賀さん、もうすっかり落ち着ききっちゃっていたら痛いだろうかとも思ったけれど、待っていたらうっすら開けてくれた瞳が深く濡れていたからこれなら大丈夫だと確信を得る。
こんなに潤ませちゃって、加賀さん、いままでいったい何考えてたんですか?
いま聞くよりあとで話題にあげたほうが良い答えがもらえそうだから、楽しい疑問解消への軽口は後回し。にこっと笑って、リモコン見せつけて、でも加賀さんがぞくりと背筋を粟立たせたタイミングではまだはじめない。
その強張りがとけて、期待とまではいかずとも、物足りなさが怖さを上回ったとき、目尻が物欲しげにふっとゆるんだときに。


ふっ!!
……ぁ、……っ、…っん、

…かわい、

っ!……ば、かっ、


思わず声に出してしまった感嘆を、震えた声で咎められるとかご褒美以外の何になるというのだろうか。
唸るような振動は、外だと思ったより聞こえない。車を動かしてるときは大丈夫だろうし、信号待ちとかで危なそうだったら音楽でもかけよう。加賀さんの吐息が耳に届かなくなっちゃうだろうってのは勿体無いけど、このひとの蕩けた声も顔も、もちろんほかのひとに晒すつもりはさらさらない。


じゃあ、

……ま、…まって、

今更いやとか言われても止めませんよ。

ちがっ、……は、……んくっ、


思ったよりキツそうだなあとは思ったものの、いろんな壁を乗り越えて手に入れたせっかくの機会、開始5分で終えてしまうなんて有り得ない。
あとでどれだけ怒られても拗ねられても、破局までには至らないって自信があるところまではしっかり楽しませてもらいますから。
まだ振動は最弱だから、弱めて楽にしてあげるという芸当は使えない。まぁ本気で無理なら、加賀さん自身の手で本体側のスイッチを切るか、ローター丸ごと引っこ抜いてしまえばいい話であって、握った拳で口元を覆いながら耐えてる時点でそれは許容範囲だと認めてると同義だ。


…あのっ、な、…なれるまで、
しゅっぱつ、まって、瑞かっ、

…ああ、


なるほど。それなら承りました、というか加賀さんによって示されたのが前向きな意見だったことについにやけそうになってしまうというか。
時間を置く方が辛くないですかと軽口を叩けば、まだ大丈夫と返された。うわあ。
もぞもぞと動いてはおそらくは少しでも楽なところを探してる加賀さんの額にはすでにうっすらと汗の珠が浮いている。玩具のスイッチの代わりに冷房の設定をつまみひとつ分強くして、運転席側の送風口も助手席の方に向くように調整すれば、目だけを動かしてこちらを見た加賀さんが少しだけ口元を綻ばせた。
……なんでこんなところで笑っちゃうかな、このひと。
人気の無いのをいいことに、思いっきり抱きしめちゃいたい、という気持ちを堪えるのは中々に大変だった。







…着きましたよ


段々ともう外であることすらが意識のそとに落ちかけていたようなとき。
瑞鶴の声は予期していなかった遠さで落ちてきた。


……え?

シートベルト、自分で外せますか


そう言いながらエンジンを切った瑞鶴は、返事を待つこともなくわたしに手を伸ばしてきた。
反射的に身を竦ませたわたしに、嬉しそうな顔を隠しもせずにかしゃりと外し、わたしの肌にベルトが触れることが無いようにそれが戻されていく。
彼女に対してこんな反応を返してしまうのはこういうときだけだと気づかれているからこそ隠さなくても良い安堵のためいきをつけば、一瞬だけ唇がわたしのそこをかすめた。
エアコンの風もエンジン音もしなくなった静寂に慣れてきた耳が過敏に拾い出すのは、咥えている小さな玩具の駆動音。最初よりは二段階あげられているはずの振動は重いというよりはやや甲高く、この状況ではおそらく発信源までが丸分かりだろう。中ならほとんど音はしないはずって聞きましたけど、などと言っていた目の前の恋人の口はだらしなく緩んでいて、いまのわたしが何を言おうが嬉しそうに受け止めてくれるに違い無い。
であるならば、この空気を壊すことのないぎりぎりの嫌味を発してしまおうか。
そう思いながらも口を開けば出てくるのは熱い吐息ばかり。口を引き結んで噛み締めていたときより息苦しさと頭の重さは遥かに軽くなったけれどその代償に刺激への抵抗力はがくんと落ち込んで、思わずぶるりと震えてしまうと慣れかけていたはずの振動がまたわたしを苛み出す。
でも、これでようやく。


それじゃ、

…っ、…ち、ちょっと!

…はい?


止めてくれると、思ったのに。
わたしから離れて、そのまま運転席の扉を開けようとした瑞鶴に慌てて手を伸ばす。どこからどうみてもみっともなく、縋りついた。


とめてっ、

なんでですか、もったいない。

だって、そとっ、

部屋まで直通ですよ、

えっ


ちゃんと下調べしましたから。
得意気に笑うその顔は、今度こそ本気で憎らしかった。
ラブホテルに行く、とはちゃんと聞かされていた。変態という名の棺桶に片足どころか頭から突っ込んだようなお願いに、いくつかの条件をつけて了承もした。家を出る前、瑞鶴がわたしに「悪戯」を施す時点で既に辛かったのに――わたしに触れてわたしを高めていく手つきが、完全にわたしのそこを濡らすためだけの作業めいていたことが一番嫌だったなんて、死んでも言ってはあげないけれど――瑞鶴が本当に嬉しそうで愉しそうだったから、途中でばからしくなって醒めてしまうようなこともなくうまく乗せられ続けてしまった身体は無機質な振動を都合良く瑞鶴からの刺激だと感じとっていた。


加賀さんを喜ばせるために、勉強しましたもん

…じぶんのためでしょう


だからこそ、ここまでの道中で何度白旗をあげてしまおうと思っただろうか。
片手を少しだけ伸ばせばこの震えはすぐに止めることができる。時折急に強くされるのは決まって前後左右に車も歩行者も居ないときで、最初からそう言われてもいたからつい漏らしてしまう声に、瑞鶴が上機嫌に笑うのには怒りよりも教え込まれた背徳的な快楽が確かに勝っていた。


ええ。
加賀さんのことが大好きな、自分のためです

……卑怯だわ

あ、やった。


それでもそんなおめでたい知覚神経にも限度があるし、たとえ誰にも見られないのだとしても、この状態で密室で無いところに出ろというのは流石にその限度を超えている。
まだ理解していない瑞鶴に紡ぐことばは、今度こそ睦言では無い拒絶。


…でも、むり、

大丈夫ですって、

だめ…、…あるけな、

……ふうん、


おそらくはそこ、に当てられたのだろう視線を敏感に感じ取って太腿が痙攣し、自分でも気づかないうちに揺れていた腰は慌てて固まろうとして、それなのに逆にひくんと跳ね上がった。


抱いていってあげましょうか

…いやよ、

……はぁい。


もう、仕方無いなぁ。
そのことばと共についに止まった振動に、自分でも驚くくらい身体が脱力した。
運転席の瑞鶴にべったりと倒れこむかたちになったわたしを瑞鶴はしっかりと抱きしめてくれて、ずいぶんおかしな体勢になってしまっているのだから辛いだろうに、ただ、嬉しそうに。


……ありがと、

……え?


さいごまで、がんばってくれて。
そんなことを言われて胸が暖かくなってしまうのだから、わたしも十分におかしな性癖になってしまっているのかもしれない。
こんなに苦しいのはもう二度とごめんだと思うのに、この達成感と安堵を次に得られるのはいつだろうかと、こうして途方も無い心地よさに包まれながら考えてしまっているのだから。






ひぃっ!?


目論見通りに崩れ落ちた加賀さんから目を離さないまま、後ろ手に扉を閉める。
車中でも家でのお試しでも使わなかったターボボタン。これだけ火照らせ続けたあとでなら、一発でイってくれるってわかってる上で押し込むんだから、ちゃんと柔らかいところに着地してくれるタイミングに合わせるのは当たり前だ。
声を堪えるのではなく、悲鳴を吐き出すことで必死で刺激を逃そうとしてる加賀さんはとてつもなくみだらで可愛い。


ずいかくっ、…っくぅ、…ぅ、
……やだぁっ、…ぃっ!!

かがさん、

やめ、……も、……っ!!


びくんと身体が一際大きく跳ねたところでスイッチを落とす。一番弱い振動だけ残そうかなとちらっと考えたけど、最後の涙声はだいぶ苦しそうだったから趣味の悪い刺激は完全にゼロにして代わりに抱き寄せる。
腕は絡められたけど、それは一瞬のことで。無意識だったらしいそれ、のあとでハッとした様子の加賀さんがわたしを思いっきり突き飛ばした。
お願いをさいごまで叶えてくれてありがとうございます、ってお礼の抱擁をするつもりだったわたしは。言葉も腕も、それはもうきれいに空振った。


瑞鶴のばかっ!!


その濡れた声で罵られるってのもご褒美ですよと言ってしまうには本気の声音が届いてびっくりする。


……なにが、いやでした?

ずいかくの、……も、…だって、…さいご、


加賀さんのブラウスは、もうすっかり汗を吸って半ば透けかけている。
襟元からちらりと覗く肌はきらきらと光っていて、まだ慌ただしく上下している胸はいまからたっぷり貪れると思うとそれだけで辛抱たまらないくらい魅力的だけど。
それも含めた加賀さんをわたしはこれから憂い無く堪能したいし、わたしはあくまで加賀さんとえっちがしたいだけでこういう玩具で調教とか支配とか、そんな気は全然無い。
だからわたしはこうやって加賀さんに耳を傾けるし、わたしが真面目に聞いていると知っている加賀さんはわたしでははかりきれなかった境界線を教えてくれる。


……瑞鶴が、

わたしが?

…いかせてくれると、おもったから、


……我慢、したのに。
いまのだって広義ではわたしがイカせたのには違い無いのだろうけど、加賀さんが言いたいのはそういうことじゃないのだろう。
ちょっと前に言われてたなら破壊力抜群のおねだりだった。ちゃんと汲み取ってあげられなくて、惜しいことしたかも。
悪いことしたな、より先にそっちが来ちゃったわたしは加賀さんにどれだけ殴られても文句は言えないよなあ。思いながら、謝罪の言葉を紡ぐわたしに加賀さんはぎゅうっとしがみついてくる。
本人の主観としては、これ、抱きついてるつもりなんだと思う。


…抜きましょうか、

んっ、……ぁ、…だ、…だめ……

…どうしてです?


いい加減楽にしてあげようと思っての提案だったのに。
ふいっとわたしから視線を逸した加賀さんは、つまり「恥ずかしいから言えません」と馬鹿正直にわたしに告白している。
恥ずかしいだけなら無視しちゃってもいいけど。んー、と、思いながら下着をなぞればもうどろどろのそこはいったばかりなのにまだ全然物足りないといわんばかりに脈打っていた。
こつんと当たる、いつもとは違う感触。ああ、奥の奥まで押し込んでおいたのに、入り口から先端、覗いちゃってる。
悪戯心が湧いてきゅっと押し込めれば、加賀さんはまた喉の奥からの悲鳴を漏らす。布越しに陰核を撫でると、あ、あ、と高い嬌声。
合間に漏れるのが拒否の言葉なのは残念だけれど仕方無い。でも、代わりに、抜かないで欲しい理由はしっかり聞かせてもらいますからね?







ホテルまで着けば多少は楽になれると思ったのに、そんなことは全くなかった。
車中での出来事は、行為としては前座であること自体はわかっていたけれど。
ここまで辿りついてしまえばいつも通り、そう信じてあつい身体を宥めていた、その見当違いの努力を嘲笑うように下腹部は重く火照っている。
熱が消えない。消えてくれない。後ろに感じる瑞鶴の素肌の感触が、冷たくて心地良いと思うくらいには排熱に失敗している身体は、それと同じくらいに快楽を溜め込んでいた。


じぶんでぬけますか

な、んで、…そんな、

その方が楽じゃないですか?

…そんな、こと、

そうですか。


じゃあお言葉に甘えて。
そんな軽い言葉とともに、こちらが身構える暇もなくリングに手をかけられ、あっという間に。


っふあぁっ!!

……うわ、


彼女が何におどろいたのか気づきたくなくて、首を振る。膣からどろりとしたものが一挙に流れていく感触は生理のときのそれにも似ていて、けれどそれよりはるかに長くだらだらと続く感覚が生む快感はそれとは較べようもなくて、


……あ、…ぁ、

すご……

や、…めて、


わたしの肩口からまじまじと覗き込んでいる瑞鶴に非難をこぼしても、気にすることなく伸ばされる指はわたしのそこに今度こそ直に触れ、それだけで、


っ――!!


視界が真っ白になって、耳がきいんとしたあとで何も聞こえなくなって。
感電したかのように跳ね上がった全身をもって、わたしは爆発のような果てを迎えた。







お風呂でして欲しいと言われたときはまだ、その本当の理由まではわかってなかった。
汗べたべただったし気持ち悪いのかな、なんて見当違いに考えてたわたしは、その可愛らしいお強請りに鼻歌交じりで了承してそのまま腰抜けてた加賀さんを抱え上げて、脱衣所でおままごとにも似た気分で湿った服を脱がせて行った。
替えの服は持ってきたから服着せたままでシャワーかけちゃうのも一興ではあったけど、水を吸いまくった衣類を持ち帰らせるのは流石に悪い気がした。最後の仕上げとしてローターから伸びるリングに手を伸ばせば、必死の抵抗に遭ったから首を傾げる。
これ、生活防水でしか無いから、お風呂まで持ち込むとたぶん駄目になっちゃうんじゃないかなぁ。
このままホテルに捨ててきてしまうつもりではあったから、本当のところは構わないんだけど。一応は「意地悪」として加賀さんの耳に困りますよと囁いてあげれば、今度があるなら買ってあげるからとまで言われる。わーお。それこそどんなプレイですか。加賀さん、今の現状を打開しようと思って必死なあまり、自分の発言のきわどさと恥ずかしさにはたぶん気づいてない。ご馳走様です。
にやにやしながらそれじゃあといったん離れ、自分の衣類を適当に落とす。ぜんぶ落としたところで待ちかねたように抱きついてくる加賀さんをタイルの上まで抱えていけば、ようやく楽になれると安心したかのような気配がわたしにもたれかかってきて、嬉しいというか気恥ずかしい。
まだまだ、終わらせるつもりはありませんけれど。いまここできつく攻め立てる気もなかったから、幸せそうな加賀さんを見る方を目標に定めて小さく音の鳴るキスをあちこちに落として行く。
ふっと息を漏らしては、口元を緩ませてくれるのがうれしい。ずっと熱に浮かされ続けているような瞳がちろちろと燃えては煌やくのには、なおさら興奮させられる。


じぶんでぬけますか

な、んで、…そんな、

その方が楽じゃないですか?

…そんな、こと、

そうですか。


心構えをするいとまなど与えないように、速やかに。
さっきまで、一時間近くずっと加賀さんを苛めていた玩具を引き抜けば、あられもない悲鳴。
同時に感じる、小さな果ての感触と、噴水のように溢れてくる加賀さんの体液。
……うわ、これは。


……あ、…ぁ、

すご……

や、…めて、


ほかの場所で外されるのをあれだけ嫌がっていたということは、加賀さん自身はきちんとわかっていたのだろう。
これだけ溜め込んでたなら苦しかったんじゃないかなぁ。噴射が終わっても尚ぽたぽたと手に落ちてくる愛液を指先ですり合わせれば、いつもとは違う感触が返ってきて少し面白かった。
癖になってしまったら困るので忘れようという口実のもと、加賀さんの熱源に指をそっと持っていく。さっきの加賀さんの台詞を逆手にとって、次回、というやつをおねだりするのもとても魅力的だけど。
こういうのって、どんどんエスカレートしていって、最終的に自滅したり周囲にバレたりしちゃう危険性が大きいって思うから。
今日はずっと気を張っていたけれど、今度はふっとしたときに気が緩んでしまうかもしれない。その可能性を否定できないうちは、するつもりはない。


っ――!!


自分の危ない欲求をごまかすように触れた、その瞬間に。
加賀さんはびくんと全身を跳ね上がらせて、これ以上無いくらいわかりやすく二度目の絶頂を迎えた。






ふ、ぁ……


……気持ち良い。
瑞鶴の手つきは純粋にわたしを洗おうとするだけのものではなくて、ラブホテルでする行為としては正しいだろう手管を交えている。
けれどわたしの汗を流し、いったん中休みとしようというつもりなのも間違い無い程度には穏やかなそれは、辛くも苦しくもなくただじんわりとわたしに染み込んでいく。素肌に直に塗られていくボディソープは初めて嗅ぐ匂いで、こんなところ備え付けだからといってまさか催淫剤などが含まれてはいないだろうが、今後どこかで遭遇したら反射で今日のことを思い出してしまうのではないだろうか。
とろんとした頭を瑞鶴にもたれかからせれば、嬉しそうな吐息が首元に落ちる。それから這い上がってきた指先がくるくると乳首の周りを掻いて、思わず身を捩るわたしをわらうように、きゅっと押しつぶされる。


んっ!!

ふふっ、


ゆるい快楽にぼーっとした頭がまず考えたのは、反対側の胸にも同じ刺激が欲しいということで。
その欲求のままに彼女の胸に擦り付ければ、少しだけ慌てたような気配。心地良い微睡みのまま、ぐいぐいと押し付ける。


…もー、

っ、…んんっ、


くっと抓られたのは両胸同時だったから、ある意味ではわたしの望みは叶えられたのだろう。
それなのに物足りなさを感じた身体は随分とわがままで。本来の願望より強い刺激を貰ったのに欲を燻らせて、わたしを次のお強請りへと駆り立てようとする。


…おねが、


さっきキツいくらいに捻られた胸の先を懲りずに擦り付けながら口元に指を滑らせるだけで、わたしの願望などはっきりわかるだろう。
目を細めた瑞鶴がそのまま噛み付こうとするから、そっと止めるくらいにはわたしの頭はまだ正常に回っている。
うれしいけど、だめよ。それは。
だからはやく洗い流して。
そんな非難さえ、目線を交わすだけで通じるというのが、ただ嬉しい。






イカせはしなかったけれどふらふらになるまで攻め立てた、お風呂場から出る頃にはわたしの頭ももうだいぶぼーっとしていた。
いや、危ないなーって思ったから引き上げることにしたんだけどね。いつも以上に素直にわたしを求めてくる加賀さんは怖いくらいに可愛い。うんと年上でスタイル良くて、外面は完全にクールビューティーな加賀さんが、こんな風にねだってくるなんて反則だ。


…すわって、

……うん、


きっとわたしが促さなくてもそうしてくれただろうけど、言葉に出すことでより羞恥をあげることができるから。
全身を拭くところまでしっかり面倒をみてあげた加賀さんは、ここに辿り着いた時ほどじゃないにせよ随分と熱を持て余しているはずで、ベッドに腰をかける動きはやけにゆっくりとしているしそこからわたしを見上げる視線はぞくりとするくらいに熱を孕んでいる。
この衝動のまま押し倒して貪ってしまおうとは正直思った。足を開いたり立てたりしてわたしを誘う真似こそしなかったものの、まっすぐ見つめられ続ける瞳に灯る情欲は隠し様もないし、本人もそれをわかってるだろうことがより一層興奮を掻き立てられる。


…かがさん、

……なに?


わたしがこの口調でお強請りをするときは、大抵、加賀さんが酷い目に遭うときだ。
それを知っている加賀さんが、一瞬で警戒網を敷きあげてわたしに問い返す。
こわばった表情は、そのまま恐怖に歪ませてあげたいと正直なところ思ってしまうし、後に自分ひとりで性欲を解消するときに妄想の糧にしてしまったりもしている。
もっとも「本当に厭なこと」をしてしまったつもりは一度足りとも無いから、これだって一種のお約束というかプレイですよ、と、いつか非難されたら抗弁するつもりでもいる。
今日のローターと一緒。本気で無理ならやめていいし、勿論それで恨んだりなんかしません。
でも、受け入れてくれたら、すっごく嬉しいです。


いっかい、イってもらえますか?


いま、ここで。







――辛い。


は、……っ、


熱すぎる陰核を宥めるように触れる。触る度に腰が跳ねて、体温は上がるし目尻からは涙がこぼれ落ちるけれど、こうしていまのうちに触れておかないとあとで触ったときにとんでもないことになる。
最初は玩具で、次は瑞鶴が触れただけで。
もう二度もイカされているというのに、一度目と三度目――つまりいま――は苦しいくらいに焦らされたともいうのに、どうして瑞鶴の指や唇が未だもらえないのか、正直なところわからない。
怒らせてしまったわけでは無い、と思う。今日のやりとりにそんな要素はなかったはずで、むしろ恥ずかしすぎる感謝を言われてしまったところで、彼女がこれほど嬉しそうならば受け入れて良かった、そう思えるくらいには幸福なセックスだったはずなのだけれど。
わからないけれど、瑞鶴が望むなら。まだどうしても無理というところまでは至ってないから応じることができるこれは、むかし彼女を本気で怒らせたときにお仕置きとしてさせられて以来だ。
浮気のつもりなんてなかった。合コンだと知っていたなら端から断ったし、気づいた時点で中座したところ追いかけてきた男を受け入れる気などある筈もなく、逃げる途中で触られてしまったところは怖気立つくらいに気持ち悪かった。
そこに上書きしてもらえたのは、いまわたしがさせられている自慰を三度程連続でやり終えてからで。まさか今日も三回イくまで許されないなどということはないだろうが、目の前に当人がいるのに瑞鶴を脳裏に浮かべながら自分に触れるのは、身体的な快楽は得られても、精神的には思いが募るばかりで。


んん……っ、……ずい、かく、

はい。


一度呼んでしまえば箍が外れそうだから堪えていた彼女への呼びかけに、即答してくれる心地よさにどうしようもなく心がざわめく。嗚呼、駄目、彼女の名前ばかりを呼び募ってしまいそう。


ふ、ぅ…っ!!


ごまかすように突き立てた指、自分の内臓の感触を自分の指先で知るのは、どうにも良い気分ではない。
ほんとうにひとりでするとき、指は挿れない。上辺だけをなぞって、一番よわいところを抓り上げて、相当強くしているつもりなのに予測が容易い刺激ではなかなか飛べなくて、いつだって、瑞鶴が早く欲しいと思い知らされる羽目になるくらいにはぐずぐずと、みっともなく、
それよりはるかに容易く高まっていくのは、無論、彼女のこの焼け付く視線があるからだ。



やだっ、…ずいかっ、

何ですか?

やだ、ぁ、…っ、……いきそ、

いいですよ、いっちゃって。

ひゃっ、んっ、……
……ずいかくが、…いっ! ………やだぁっ、


やだやだと幼子のように泣き喚くのには、あのときもうっすらと覚えがある、
そういえば通算でいうならば同じ回数なのか。馬鹿な思考が脳裏をかすめ、けれどそれを気にしている暇など無い程間断なく襲いかかる波。
自分でコントロールできるはずなのに、できない。陰核を弄り難くなったから中指を抜こうとしたら目線だけで止められたから、代わりに薬指まで押し挿れた、中がきゅうきゅうと蠢いていて気持ち悪い。
瑞鶴がくれる刺激を必死で真似ても、全く及ばない。気持ち良く無い、とまでは言わないが、……足りない。
与えれば与える程渇望が襲いかかる。曲がりなりにも慰められているところ以外の肢体が疼いて、左胸を乱暴に鷲掴んでいる指先、たとえばそれにさえ、彼女が口付けてくれればすぐにそれだけでイケそうなのに――


い、きた、……

ええ。どうぞ?

やっ!! ぁ、……ふっ、……も、やだぁっ……


――たすけて、瑞鶴。
本人にされたならきっと意識まで飛ばしてしまっただろうくらいキツく粘膜を苛んでも、わたしの身体はまだ達してはくれなかった。







今日じゃなくても良かった。
でも、いい機会だと思ったのだ。


あ、……ぁっ、


浮かされた声が響き続ける。
ずいぶん前、まだ加賀さんですら学生でわたしはもっと子供だったとき、加賀さんに初めて本気で怒った、キツい言葉を吐いて「命じた」、あのときよりは少しだけ余裕を持った嬌声。
おたがい、大人になったっていうのとは、きっと関係ない。いまを正しく築けてるからの余裕で、けれどそれなのにこうしてわたしの前でさせられてる理由がわからなくて戸惑っている、それでもわたしが見つめるだけで加賀さんは勝手に高まっていく。
たぶん、わたしが逐一言葉責めでもしてあげれば。わたしどころか加賀さん自身が何もしなくても、加賀さんはイってくれるだろう。
だけどわたしが今日したかったのは「上書き」だから。あのとき、醜いくらいに嫉妬して、加賀さんを本気で怯えさせるまで追い詰めて泣かせた、そんなわたしは許されなくていいけど加賀さんはいい加減あのときの恐怖から解放されるべきだ。
ここまであからさまでなくても、たまに。戯れで加賀さんの指を下の口に持って行ったりすれば途端硬直して、がたがたと震えられるのには、もういい加減こころが痛かった。
ねえ、こんな風に、お遊びでしちゃうことだってできる行為なんですよ。
だからもう、悔悟と恐怖の箱にそれを入れるのは、そろそろよしにしませんか?


……も、やだぁっ……


びくびくっと震えて嬌声をこぼした、それでもイケなかったらしい加賀さんはぼたぼたとこぼれる涙で頬を濡らしながらわたしを見つめてくる。
ああ、すっごく可愛い。怯えられるより、わたしに土下座する勢いで謝ってくる姿より、ずっと興奮する。
大丈夫、そのままで。あと、もう少しですから。
口にも出して教えてあげたのにひくっと顔が引きつった、その表情はあのときに少しだけ似ていてどうしようもない嗜虐心が微かに疼いたけれどわたしは渾身の自制心をもってそれを抑えこんだ。







ぁ――!!


がくんと落ちた身体を、瑞鶴が即座に受け止めてくれる。
……気持ち良い。
さっきまで苛まれ続けていた苦しさが緩やかに引いていくのが、それを瑞鶴の腕の中で感じられるのが、ただ嬉しくて心地良い。それ、を命じたのは瑞鶴だけれど、最後までやりきればこうやってゆるしと祝福をもらえるのなら、――なんて少しばかり危ない思考が脳裏によぎりかけて、慌てて振り払う。
こんなことはもう御免だ。だから今度こそ、瑞鶴にこうさせた真意を聞いておかなかれば。
そう思って顔をあげたわたしに、瑞鶴は人差し指を立てて。
その感触が失われる前に、唇をついばんで、舌先で軽くノックをする。
逆らわず開けば侵入してくる舌、甘く噛み付けば反撃のように上顎をくすぐられて、漏らした吐息は唾液ごと瑞鶴が飲み込んでくれる。
気持ち良い。……だから、このまま。


……ずい、かく、

…はい、


もう無理かも、なんてうっすら思ってはいたけれど。
わたしの限界などもうわたし以上に知っている瑞鶴はわたしの望みをきっちりと、過不足なく叶えてくれた。
……いや、過分ではあったかもしれない。最後に、結局立ち上がることさえ出来なくて車まで抱きかかえられる羽目になったという意味で。







じゃーん!

……ああ、うん、

ちょ、……さすがにやる気なさすぎませんか!!

大丈夫、似合うわよ。

心がない!

…失礼ね、

…ごめんなさい。
……で、どうですか?

だから、似合うわよ?

そうじゃなくて、

……ああ、
…うん、好きよ。


これを日の下で見られるなら、年に一度くらい海に行くのも悪くないと思えるくらいには。


えー、じゃあ今からでも行きましょうよ!

あのね、
……腰、立たないんだけど

えっへへ!
…来週でも再来週でも!

再来週は流石に厳しいんじゃない?

加賀さんに見せたいだけだから、海岸縁を歩くだけでいーんです。

ひとりだけ水着姿で?

…加賀さんも着ましょうよ

……勘弁して。

ええー……


もう全身が重い、を通り越して指一本動かせないと思えるこの状態で見せられる水着姿は正直目の毒だ。


あっでも来週は夏祭りですよね!
昨年の紫陽花柄、すっごく可愛かったので、

っ、

ことしも楽し……かがさん?


……今年も山向こうまで遠征するつもり?
精一杯の皮肉はみっともないくらい掠れていたし、瑞鶴はもちろん全く堪えなどせずに力強く頷いた。
翌週、浴衣を着た当日も今日と同じホテルに連れ込まれ、今日と同じくらい恥ずかしい目に遭わされたことについては誰に聞かれようと絶対に口を割りたく無いくらい勢いに任せた一夏の過ちで、彼女との関係性を断つつもりなどないが忘れてはしまいたい黒歴史だ。












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